FREEexなう。

2016年09月16日

「アニメを売ろう。」

週刊アスキーにて連載されていたコラム、
岡田斗司夫の ま、金ならあるし」の記事再録です。

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岡田斗司夫の最終ビジネス(7)
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 目標は「赤字は出さないけど、予算は使い切る」だった。試算では10万円くらい黒字のはず。しかし大会当日が近づくにつれ、予想外の出費が増える。

「会場では設備費以外に保険料もかかる」
「ガムテや文具は倍近く用意しないと機能しない」
「ゲスト呼び出しスタッフにインカム(携帯無線機)が必要」
「スタッフ用弁当の数が予想より多い」
などなど、キリがない。

 アニメにも予想外のお金がかかった。素人集団だから失敗も多い、つまり資材にムダが出る。撮影が失敗するとフィルム代や現像費も倍かかる。撮影用のライトもつけっぱなしで、家の電気代が一ヶ月20万を超えた時、さすがに両親に怒鳴られ弁償させられた。
 
 正直な話、赤字は覚悟していた。問題は、どれくらいの赤字か、だ。
 まず出費。予想より80万円も多い。
 しかし、これ以上に凄かったのが売り上げ不足だ。大会参加者千二百人のうち、なんと二百名近くが参加費を払っていなかった。ゲストの作家さんや出版関係者、その家族や友人・取り巻きみたいな人たちが、いわゆる顔パスで入場したのだ。

 参加費六千円×二百人で百二十万円。予想外の出費と売り上げ不足で赤字合計は二百万円となった。大会グッズは評判も良く売り切れになったので、利益が三十万ほど出た。それでも百七十万のマイナスだ。
 SFショーの時、たった80万円の赤字でも、あんなに大変な思いをしたのだ。百七十万円を学生たちがバイトで返すのは不可能だ。
梅田の喫茶店で僕たちは頭を抱えた。

 アニメを売ろう。
 もうそれしか手はない。なにも一般売りするわけじゃない。SF専門誌に告知を出して「今年のSF大会は大赤字を出してしまいました。助けると思ってみなさん寄付をお願いします」と土下座すれば、カンパに応じてくれるんじゃないか?そう考えただけだった。

 深刻な会議の雰囲気は一変した。なんかいけそうな気がする。でも、たった五分のアニメをビデオにダビングして、はたしていくらで売ればいいんだ?千円?二千円?
 常識的な金額だ。たしかにそんな値段ならひんしゅくも買わないし、カンパと笑って許してもらえるだろう。
 でも、百七十万の赤字解決にはならない。僕は思いきった金額を提案した。

 一万二千円。
 全員、引きつった。たちまち、猛反対の嵐だ。しかし引き下がるわけにはいかない。喫茶店の紙ナプキンを裏返し、ボールペンで試算を殴り書きした。

●一本二千円で売った場合・・・テープ代千円、ダビング費無料だから利益は千円。赤字回収まで千七百本売ること。

●一本一万二千円で売った場合・・・利益は一万千円。赤字回収は百六十本程度で可能。

「SF大会参加者は千二百人です。買ってくれるのは、あのアニメを見た人だけ。つまり売り上げは最大千二百本しかあり得ないのです」 僕は数字を示しながら説明した。「映像特典をつけて、一万二千円で売りましょう」

「でも」とSF研の先輩たちが反論した。「俺たちの評判は最悪になるぞ」「がめつい大阪人がエグい商売してる、と言われるぞ」

 もうたくさんだった。SFショーでも実際にバイトして金を返したのは、僕を含めて二人きりだったくせに。手を汚さずに口だけを出すな!
「じゃあ他にどんな手があるんですか?ありませんよ!」
 

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