FREEexなう。

2016年09月02日

「一.五秒だけの映像」

週刊アスキーにて連載されていたコラム、
岡田斗司夫の ま、金ならあるし」の記事再録です。

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岡田斗司夫の最終ビジネス(5)
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 一九八十年から八一年の夏まで、僕たちはSF大会のことしか考えていなかった。

 本場アメリカのSF作家から日本SF大会へのお祝いメッセージをもらってくる。いまや地方TV局でもやってるような、なんでもない映像を撮るために、ボストンで開催された世界SF大会に参加した。
 ネットもメールもない時代、海外のSF大会に参加するだけでも大変なのに、アポなしでSF作家や彼のエージェントに交渉し、当時重さ十キロもあったビデオカメラを廻した。録画するのはこれまた十キロの携帯型ビデオデッキだ。
 
 もちろん、取材の渡航費用や滞在費はすべて自分持ちだ。どんなにSF大会の予算が潤沢になろうと、自分たちの打合せ費用や移動費など電車賃に至るまで絶対に大会予算には手をつけなかった。
 だから、安心してSF大会の企画に予算をじゃぶじゃぶ使った。ディズニー映画『ファンタジア』の上映をはじめとする二日間で70種以上のイベントも準備した。
 最初は不可能に思えたオープニングアニメも、徐々にカタチが見えてきた。

 八十一年の春、ついに最初のフィルムが現像所からあがってきた。
 部屋のカーテンを閉め切り、八ミリ映写機のモーター音がけたたましく響き、ハロゲンランプが眩しく輝く。もちろん映写スクリーンなんかない。ただの白壁にカウントダウンマーカーが映り、あわててピントを調整する。

 写った!主役の女の子だ。彼女が振り向き、髪をなびかせて笑顔を見せる。そこでフィルムは終了、たった一.五秒だけの映像だった。
 一.五秒で充分。男女の区別なく、僕たちは完全にその女の子と恋に落ち、アニメ作りに魅せられていた。何度も一.五秒の映画を見て、彼女の笑顔、その振り返りの演技、髪のなびきの自然さや膨らみを称えた。

 この女の子は俺たちが作ったんだ!このアニメは世界にただひとつ、俺たちが作ったアニメなんだ!
 酒なんか一滴もなくても、人間は酔える。一晩じゅう僕たちは語り合い、来ていない仲間を呼び出して、また一.五秒の試写会を繰り返した

 翌日から、さらにアニメ作りはヒートアップした。赤井の描く女の子や庵野の描くメカは作画用紙に鉛筆線で描かれている。これを透明セルにペン描きで写す。トレスという作業だ。
 数十人のスタッフはまず全員、トレスの試験を受ける。優秀な数名がトレス係に任命されて、残りはセル塗りだ。
 塗ったセルは数時間、乾かさなければならない。数十人が作業するため、乾かすセル枚数も膨大になる。段ボールでセル乾燥棚を作り、やがて百畳敷きの工場フロアは、完全にアニメ工房に変身した。

 東京から取り寄せたセル塗料の瓶やセルの本体。惜しげもなく使われる作画用紙に塗装筆やセロテープ、ガムテープなどの消耗品。スケジュール進行を張り出すための模造紙やマジックインク。
 フィルムは一カット三秒ていど撮影するたびに現像に出し、試写して気に入らない部分があるとそのカットは全部やり直し、リテイクした。
 深夜のテスト上映で、アニメの女の子は走り、跳び、戦い、そして微笑んだ。メカは爆発し、ミサイルは乱舞した。

 永遠に続くかと思われた僕たちの夏。しかしその裏では、無尽蔵に見えた大会予算が底を尽きかけていた。
 

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