週刊アスキーにて連載されていたコラム、
「岡田斗司夫の ま、金ならあるし」の記事再録です。
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岡田斗司夫の最終ビジネス(4)
************************************ 若干ハタチの若者たちが手にしたSF大会予算は、なんと総額七二〇万円!よっしゃ。これだけあれば何でもできる!赤字とはおさらばだ! ていうか、むしろ使い切るなんて、無理じゃない?わはははは!資金の豊かさに目はくらみ、これまでの学生らしい金銭感覚は一変した。会場費70万円?安い!本番二日プラス、リハーサル含めて三日間押さえてまえ!それでもたった二百十万円だ。 プログラムブックも、これまでの4Pや8Pのペラペラしたのはカッコ悪い。全48ページいってみよう。 使っても使っても、予算は使い切れず、ガレージキットやオリジナルグッズも、たくさん制作した。それでも無駄遣いはビタ一文していない。フェルトマスコットは、実家の刺繍工場から夜中に生地を盗みだし、プリントごっこで印刷し、女子スタッフたちに縫わせた。男子は、ガレージキットを手流しで作らせた。
と、お金には困らないイベント運営をやっていたある日、スタッフの一人が「大阪芸術大学におもしろい学生がいる」と言い出した。「赤井というヤツは、コーヒー一杯おごると、かわいい女の子をいくらでも描く。庵野というヤツは、トースト一枚で戦車やロボットをいくらでも描く」
それはいい。何か描かせれば、プログラムブックも豪華になるだろう。
「毎日十杯でも二十杯でもコーヒー飲ませてやる。腹いっぱいトースト食わせてやると引っ張ってこい」と、軽い気持ちで、スカウトに行かせた。ほどなく、興奮気味のスタッフから電話だ。
「庵野って奴、すごいです!トースト食いながら、ダイエーの計算用紙に複雑きわまりないロボットをすごいスピードで描くんです。パラパラめくると、ちゃんと動いてるんです!」
後にエヴァンゲリオンを作る天才・庵野秀明と僕たちとの出会いだった。彼と赤井孝美、オマケとしてくっついてきた山賀博之の三人と僕たちは、五分間の8ミリアニメをSF大会のオープニング映像にすることに決めた。
たった五分でも、アニメを作るのは大変だ。スタッフは大学のSF研からいくらでも呼べるので、まず彼らに作業するための広い場所が必要だ。仕方ないので、僕の家を使った。結婚して家を出た姉の部屋を半年以上、常設スタジオとして占拠した。隣の僕の部屋は、スタッフの寝部屋になった。
紙や鉛筆といった文房具は値段もたかが知れている。しかしアニメはそれだけではできない。セルという透明のプラスチック板に専用の絵具で色を塗らなければならない。専用セルも売っているけど、すごく高い。
僕たちは南大阪の工業団地まで買い出しに行き、ばかでかい透明塩ビ板を買って必要サイズにカットし、事務用の二つ穴パンチで穴をあけた。本物の三つ穴よりガタるけど、手作りセルの完成だ。
絵の具も東京から専用塗料を取り寄せた。ダイエーで組み立て鋼材を買って、手作り撮影台も作った。大量のフィルムに現像費、テスト撮影にもスタッフ教育のため失敗したセル塗りにも、どれも金がかかる。塗りムラや色ミスがひどくて、まるまるやりなおしなど当たり前だった。
姉の部屋だけでは手狭になって、僕は両親に頼み込んで小さな工場のワンフロアを借りた。フロア一面に作画机や塗装机、画材が並ぶさまは壮観だった。家賃こそタダだったけど、気がつくと、金はガンガン出ていった。
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