週刊アスキーにて連載されていたコラム、
「岡田斗司夫の ま、金ならあるし」の記事再録です。
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岡田斗司夫の最終ビジネス(2)
************************************ なにかに熱中している若者は、いつの時代も貧乏と相場が決まっている。 アイドルのおっかけにはまっているヤツは、夜行バスや激安航空券情報にやたら詳しくなる。劇団に所属して熱心に活動しているヤツは、短期日払の割高バイト情報にやたら詳しくなる。 ご多分に漏れず、僕も大学時代、若さゆえの情熱のせいでイヤになるほどの貧乏を経験した。 当時、僕が熱中していたのはSFだ。SF小説に熱中したってたかが知れている。バイトで稼いだお金は全部SF小説を買うのにつぎ込む。そんなことは僕にとって「当たり前」で、苦労とも貧乏とも思わなかった。 ところが、僕が熱中していたのはSF小説だけでなく「SF」という活動すべてだった。SF映画やSFアニメ、そしてなによりSFファン活動。そのファン活動の頂点として僕たちの上に君臨していたのが「SF大会」だ。
「SF大会」とは、年に一度開催される「SFファンの、SFファンによる、SFファンのための」イベントだ。
日本各地のSFファンたちが立候補し、毎年夏に持ち回りで開催する。SF作家の先生方もゲストできてくれるが、基本的には学生を中心としたボランティアだけで自主的に運営する、というところは学祭に似ている。
しかし学祭と違って会場を借りなければいけないし、そのために入場料もとるので、動くお金は見たことも無いほどの金額になる。イベントのレポートがSF専門誌に掲載されたりもして、華やかだ。
大阪の片隅でそんなレポートを読むしかなかった僕にとって、心からあこがれるイベントだったのだ。
当時、熱烈SFファンだった僕は、SF小説を読みまくったせいで浪人し、それでも懲りずに読みまくり、関西で一、ニを争う偏差値の低い大学にSFサークル入会を目当てに潜り込んだ。
勢いこんだ僕は入学式の翌日、SF研究会に入会し、木曜には「やたら熱い一年生が入会してきた」と先輩たちをビビらせ、その週の土曜には関西中の大学SF研究会の連合組織・関西SF研究会連盟、通称「関S連」の大集会に出席していた。
大集会といっても梅田の喫茶店でイケてない文系大学生が集まってクリームソーダとかカルピス飲んでSF論を交わしているだけである。
そこにいきなり登場した、やたら生意気な一年生が「関西のSFファンの力を結集して、大阪でSF大会を開催しましょう」とぶちあげたわけだ。他大学の先輩たちは、一年坊主がいきなりやってきて、場違いなほど熱苦しく語り倒すのを、あきれ返って見守るばかりだった。
反対されなかったのを良いことに、僕はさっそく唯一のSF専門雑誌「SFマガジン」の読者蘭に告知を出した。
「来年一九七九年は大阪でSF大会を開きます!申し込みは大阪府堺市中百舌鳥町~~岡田まで!」
二ヶ月遅れて、その告知はSFマガジンに掲載された。するといきなり、大学SF研OBから呼び出された。
「お前ら、なんちゅうことをしでかしてくれたんや!とにかく東京へ行って謝ってこい!」
東京ではBNFの方々が激怒しながら僕たちを待ちかまえているという。
BNF? ビッグ・ネーム・ファン、つまり業界内で有名な影響力の強いファンのことだ。
有名なのにファン?それはなんだ?
首をかしげながら、僕たちは夜行バスに飛び乗り東京へと向かった。待ちかまえる大説教が、僕たちを超貧乏に叩き込むとは知らずに。
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