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2014年10月13日

岡田斗司夫のひとりマンガ夜話 『逆境ナイン / 無謀キャプテン』~島本和彦作品を語る

島本和彦の魅力・面白さが全て入った漫画は
この逆境ナインなんですよ!

この記事のポイント
  1. アオイ島本和彦が『逆境ナイン』で掴んだもの
  2. 作者の実体験漫画としての『無謀キャプテン』
  3. 島本作品のおさえ方

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 本当はね、『ダ・ヴィンチ』の提供でマンガ夜話というのをやるにあたって、「最新作をやってくれ~」とか「できれば、デジタル系で~」みたいなことを言われて。僕はそれに「はいはい! そういうのをやります!」って答えたんですけど。それは大ウソで(笑)

 今回、取り上げるのはコレですね。島本和彦の『逆境ナイン』です。

 逆境ナインは良いですよ! 島本先生自身も「自分の一番の作品だッ!」って言ってたんだよね。

 まあ、今は『アオイホノオ』があるし、あるいは『燃えよペン』や『吼えよペン』が一番好きだって言う人もいるんだけど。僕が思うに、島本和彦の魅力・面白さが全て入った漫画っていうのは、この逆境ナインなんですよ。

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┃アオイ島本和彦が『逆境ナイン』で掴んだもの

 『逆境ナイン』の第一話は、まず「逆境とは!?」というナレーションから始まるんですけども。直後、主人公の野球部キャプテン・“不屈闘志”(ふくつとうし)が校長室に呼ばれるシーンに続きます。で、闘志が「入ります!」と威勢よくドアを開けると、次のページで待ち構えていた校長から、いきなり「廃部だ!」と宣告されるんです。そして、先ほどの続きの「逆境とは、自分の思い通りにならない状況のことを言う!」というナレーションがドカーンっと入って、ここからドラマがスタートするんです。

 つまり、連載第一話目の掴みからいきなり島本節なんですよ。島本先生が『アオイホノオ』のホノオモユルだった時代にはなかったスピード感があるんです。

 それ以前の島本先生……というか、あらゆる若い漫画家はそうなんですけど。“漫画の模写”をやっちゃうんですよね。「既存の面白い漫画を自分なりに写して、コマ割りをするとこういうふうになる」ということを。だけど、そうすると自分のリズムっていうのが出ないんですよ。

 でも、この逆境ナインの頃の島本和彦は、ついに自分のリズムを掴んだ。そして展開される第一話がとにかくカッコいいんです。

 「廃部だ!」という校長の言葉に打ちのめされた不屈闘志。しかし、落ち込んだのもつかの間、すぐに彼の目は生き返り、こう言うのです。「フッフッフ……。校長、この校長室には甲子園の優勝旗がありませんね?」と。そして、「この男は今、大きな風呂敷を広げようとしている。だが、その風呂敷はあまりにも大きい!」という、漫画ではありえないナレーションが続き、「校長! この部屋の隅にでっかい優勝旗が欲しいとは思いませんか!?」という展開になる。

 で、いろんな段取りのセリフがあった後での第一話の最後。「もうおわかりだろう。この男こそが本編の主人公である! 君たちの夢を叶えてくれる不屈の闘志を持つ男! それがコイツ! その名も“不屈闘志”だッ!!」っていうめちゃくちゃ熱いナレーション。これで第一話ですよ。

 もうね、バカなのはわかってるんだよ。この作者がバカなのは別に今に始まったことじゃなく、「時は1980年、大阪芸大」の時代からバカだったんだけど(笑) でも、こんなにもカッコいい漫画を描いてくれるんだよ、この島本和彦という男は!

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┃作者の実体験漫画としての『無謀キャプテン』

 で、こんなにカッコいい漫画を描いたあとの、『無謀キャプテン』のダメっぷりがまた良いんだよ!

 この間、『しくじり先生』っていう芸人さんたちが自分の失敗談を話す番組を見たんだ。その中で、かつて売れっ子だったオリエンタルラジオの二人が「俺達はテングになりました!」って、テングというのがどのような状態で、どうやって始まり、そしてどのように落ちていくのかを話していたんだけど。もう、逆境ナインから無謀キャプテンへの流れっていうのが、まんま「テングになった!(逆境)」そして「ダメになった!(無謀)」なんだよね。これ、島本先生がこの話を聞いてたとしても強く頷いてくれると思うんだけど(笑)

 逆境ナインでの島本和彦はあまりに天才だったんだ。島本先生って、元々、SFとかコメディが描きたくて漫画家になった人なんだよ。その人が自分には絶対に向いてないと思っていた“スポ根モノ”を逆境ナインで描き尽くした。ここまではよかったんだけど、「ああ、俺、なんでも描けるんだ。じゃあ~」ってことではじめたのが、無謀キャプテンだったんだ。

 これがどれくらい無謀だったかっていうと。毎回、漫画の最後のページには「先生! 今回はこんな感じで終わったんですが大丈夫ですか!?」「大丈夫だ!」という編集者との漫才が入ってるんだ。つまり、それくらいその場その場で無謀に展開していく漫画なんだけど。これはなにかというと、少年ジャンプの車田正美の漫画の書き方を踏襲したそうなんだよね。車田正美の漫画は2週間先の展開までしか考えないんだって。「今週が面白ければ来週もなんとかなる。再来週のことも1週間考えればなんとかなる」という方式なんだそうだ。

 だけどそれは、不条理なことを描こうとも、ヤンキー漫画的な絵の力で不条理を押し返せるタイプの作家にだけ出来ることだったんだよ。島本先生って一見、ヤンキー漫画っぽい力押しな作風に見えるんだけど、実は、すごく繊細でクレバーな論理的な作家なんだ。そんなことが出来るはずがないんだよな。結果、全2巻を描き上げた末に、作者自身が「二度と思い出したくない!」というくらい、完全なダメな話になっていったんだけど。

 この無謀キャプテンという漫画では、主人公“堀田戊傑”(ほったぼけつ)が無謀な試みを繰り返すんだけど。それと同時に、作者自身も、毎回毎回、自分でも続きを描きようがないラストシーンを重ねていって、「なんで前号の俺はこんな墓穴を掘ってしまったんだ!?」って苦しみながら描く漫画。つまり、作者の実体験漫画だったんだよ。

 で、そんな実体験漫画が成功すりゃあ良かったんだけど、見事にスッ転んじゃった! ……っていう、いい漫画です(笑)

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┃島本作品のおさえ方

 島本先生には、自身の“代表作”となりかけた漫画はすごく多いんだよ。どの漫画にも全力投球するから。

 でも、僕はやっぱり、最初期の『炎の転校生』、島本節が花開いた『逆境ナイン』、そこから大スベりした『無謀キャプテン』、そのスランプから復活した『燃えよペン』、最新作の『アオイホノオ』というのが、島本漫画の読み方だと思う。まずはこれらを読んでみて、そこから何を読むのかは個人の自由だと思います。

 特に、逆境ナインは本当に良い漫画だよ。だから、ぜひ読んでみてください。


この動画の全長版はクラウドシティ岡田斗司夫のひとり漫画夜話 まずは「進撃の巨人」を語るで絶賛公開中

ライター:矢村秋歩(FREEex)


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