録画をした君は、この解説を頭に入れてもう一度みてみよう!
- DAICONⅢオープニングアニメのひみつ
- 集英社との因縁のひみつ
- 島本先生のひみつ
- ぼくらの青春のひみつ
ドラマ24『アオイホノオ』(テレビ東京系)毎週金曜日24時12分
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1.ダイコン号の操縦席
モユルが見ている「ダイコン3オープニングアニメ」のラストカット近く、船長服の女の子が微笑んだら、操縦席のデブがスイッチを入れる。この手前のロン毛デブが当時の岡田斗司夫だ。奥に座ってるデブは武田康廣。
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2.「僕の所で仕事手伝って欲しいぐらいです」
これは手塚治虫がダイコンの楽屋で実際に言ったセリフ。「ぜひ東京に来て、24時間テレビのアニメを手伝って欲しい」と言った。24時間テレビのアニメ、とは日テレの「愛は地球を救う」特番で流される『ブレーメン4 地獄の中の天使たち』のことである。
しかし、このセリフが手塚から出たのは1981年8月22日。そして「手伝って欲しい」という『ブレーメン4 地獄の中の天使たち』のオンエアは翌日8月23日。もちろん間に合うわけがない!!
この手塚の恐るべきオファーに、当日は全員が凍り付いた。「手塚伝説はウソじゃなかったんだ・・・」と思い知らされた一瞬だった。
ちなみに、『ブレーメン4 地獄の中の天使たち』は大幅に未完成のままオンエアされ、翌年の24時間テレビのアニメは別会社に移された。 -
3.「なにか・・・ (手塚) ・・・足りませんよね?」
岡田斗司夫演ずる手塚治虫は、「なにか」と「足りませんよね?」の間に声ナシで「手塚」というセリフを入れている。もちろんシナリオにはないアドリブだけど、福田監督はこんなバカな演技にもOKだして、本編で採用してくれた。
この一事をもって、岡田斗司夫は福田監督を「生涯の監督」と呼び、以後は福田作品には「ノーギャラ・ノー出演NG」で望むことを誓ったのである! -
4.「本当にそんなことなのか!?」
もちろん、本物の島本和彦はこんな勘違いはしない。あの1981年の夏、当時の少年ジャンプ編集者・堀江信彦氏が指摘した「お前のマンガは、熱血に照れてギャグでごまかそうとしている。少年読者を舐めちゃダメだ。作者は恥ずかしくても全力で描け!」というメッセージを送ったのに、当時の島本はどうしても自分の作風にこだわって「ベタな熱血」が描けなかったのだ。
ところがなんの運命のいたずらか、島本はけっきょく、初の連載『風の戦士ダン』でベタな熱血を描くように強要される。しかしパロディやギャグしか描いてなかった島本は、原作者・雁屋哲を激怒させるようなパロディやオリジナルを入れてしまった。両者は2009年のパーティーの席上で和解するまで、延々と「気まずい関係」だったという。
かようなまでに、焔モユルにベタな熱血は無理だったのだ。 -
5.「なんて言ったんすか?」
これを聞く若手編集者は、おそらく鳥嶋和彦。つまりDrマシリトこと、鳥山明の担当編集者にして、現在は集英社・小学館の取締役だ。
この役者さん、若い頃の鳥嶋にものすごく似ている。キャスティングの人の遊び心がうかがえる。
ちなみに実際の関係では、鳥嶋は堀江の3年先輩なので、こういう言葉づかいはあり得ない。
しかし熱血好きの堀江は熊本出身で早稲田。クールでマニアックな鳥嶋は新潟出身の慶應。そしてパロディ好きの島本は、吾妻ひでおを生んだ北海道出身というのも面白い。 -
6.部屋を荒らしまくるモユル
第5話でサンデーまんがカレッジに落ちたモユルは、やけくそになりながらも部屋を荒らせなかった。積み上げた別冊サンデーを崩しただけ。つまり第5話のモユルは「失望したけど、絶望していなかった」わけである。
しかし今回のモユルは絶望している。マンガだけでなく、部屋のあらゆるものをひっくり返す。つまり「これまでマンガやアニメが好きだった自分」までも否定しているのだ。 その絶望は短絡的だけど、昏く果てしなく、やるせない。
おじさん、このシーンでちょっと泣いちゃったよ。 -
7.「彼氏やがな、見たらわかるやろ?」
とミノコ先輩は言うけど、実は視聴者にはよくわからない。
このシーン、台本では
「横から男があらわれて・・・マスミの肩を抱いた。照れくさそうにその手をはねのけるマスミ」
とある。つまり、ややイチャイチャしてるシーンのはず。
しかし実際の演技ではマスミ、なんとなくちょっとイヤそう・・・
これは演技の解釈違い? ひょっとしてAKB48ゆえの事情? -
8.「違うぞ若者!」
という原作者・島本和彦の怪演技。
というか、これ演技ではない。実際の島本も、いつも話し言葉がセリフ口調だからだ。
「なるほど~と言うワケか!」とか、日常生活で使う人はこの人ぐらいである。 -
9.「あえて寝る!」
このシーン、夢オチのように見えなくもない。つまり功成り名遂げてマンガ家となった作者が、辛かった青春時代を思い出してる、という読み方もできる。
しかし、よーくシーンを吟味してみよう。
マンガ家になった焔モユルは、〆切りの限界をとうに過ぎている。しかし体力もすでに限界を超えていて、眠くてしかたない。
ではどうする?
モユルは「あえて寝る!」と叫ぶ。土壇場でまず逃避する彼のクセは、大学時代からなにひとつ変わっていない。唯一、変化したのは「それでもプロか?」と聞かれたときに「オレはプロだ!」と言い返せるようになった、ということ。
ずっとずっと自己正当化→自己欺瞞→自己嫌悪を繰り返してきたモユルは、作家になってついに自己を肯定でき、なおかつ「作品」という結果を出せるようになった。 しかし「あえて寝る!」というモユルの本質はなにひとつ変わっていない。
庵野も、モユルも、自分の生き方を変えなかった。ベタに徹すれば売れる、というジャンプの誘いを断り、自分の信じる「シリアスな絵でバカをやる」にこだわり抜いたモユルは、なにひとつ妥協せずに自分の夢を貫いた。
だから、このラストは大ハッピーエンドなのである。
岡田 次は『アオイホノオ』?
島本 『アオイホノオ』は、いいじゃないですか。もうDAICONⅢまで来ちゃったから。
岡田 えー? どうするの。DAICONⅢまで来たけど、主人公はマンガを描いてないよ。
島本 一生懸命描いてますよ。先を知ってるから、ポロッと言いそうになるけどね(笑)
岡田 先を言ったらダメなんだけども、『DAICONⅢオープニングアニメ』というのは、『巨人の星』でいえば、花形満みたいなライバルなわけでしょ?
島本 花形満だね。『アオイホノオ』は、最初は長期連載じゃなくって、前後編で終わる予定で、人気が出たから続けようということになったんだけど、それでも単行本一冊分くらいで終わる可能性はあって、とにかく連載中に描きたかった4つくらいのテーマのひとつが『DAICONⅢオープニングアニメ』だったのね。
┃DAICONⅢオープニングアニメは絶対描きたかった!
島本 連載初期の時点で『DAICONⅢオープニングアニメ』は重要だから、描いておきたいと思っていたんですよ。長期間連載させてもらう事ができて、本当に良かったと思うんですよね。
岡田 でも、なんか言っちゃえば焔君はずっとマンガを描こうとしているけれども、うまくいかないわけじゃないですか。そしてアニメを作ってみたけれども、なんか違うって段々なってきて。そんな中、庵野くんたちが作っているアニメは着実に進んでいて……。
島本 腹立ちますよね(笑)
岡田 読者としても、どっちが主人公か分かんなくなってくるじゃん(笑)
島本 Twitter見ててもさ。もうDAICONⅢの話だけ描けばいいじゃんみたいな。
岡田 そうならないのは『アオイホノオ』の中に出てくる庵野くん、山賀くん、赤井くんは主人公キャラじゃなくて、対立キャラとしての描かれ方をしていて内面が描かれてないんだよ。リアクションでできているからやっぱり花形満だよ。
島本 まあね。だって、内面が分からないんだもん(笑)
札幌映画祭に『トップをねらえ!』の上映に来たガイナックスの人達と打ち上げで話をした時に「当時はちょっとライバルだったよね」と聞いたら「友達だったじゃん」って返事が来たって話を前回したじゃないですか
あの時に初めて「あ~友達だったのか」と思って(笑)
岡田 ライバル扱いしてもらえなかった(笑)
島本 そう。でもねその時に心の氷が溶けたというか。この集まりがなかったら『アオイホノオ』はこうなってないですよ。
岡田 そうなの?
島本 いまだに「おのれ~」ですから。
┃ガイナ組が味わった悔しさ
岡田 それは、いまだに庵野くんが出渕裕さんに関して感じてる気持ちじゃないの。
島本 そうなの?
岡田 やっぱりライバルなの。先に東京でアニメ界の中心に行って、すごい楽しいことをたくさんやられてしまった。俺たちは遅れて宮崎駿作品から入って、アニメを作るしかなかったんだけど、やっぱり高校生の時とかは、ファン活動を一番したいんだけど、その時になにもできなかったこの悔しさが消えなくて……。
島本 その時の悔しさは消えないですよね。
岡田 一生消えない(笑)
島本 本当に消えてなくて、ガンダムの安彦良和原画集を読んていたら、最後の方で庵野くんと対談していて安彦先生が庵野くんに対して、すごく丁寧な口調で話をしてるんだよね。 「さんづけ」な感じで話をしてて「あの、あなたがなんでこんなに私のことを持ち上げてくれるんだ」みたいな話をしてるんですけど「安彦先生ちょっと待ってください! おかしいですよそれ!」って。
岡田 言える言える(笑)
島本 あのころの俺たちは学生で、ガンダムの映画の原画集とかを「うわ~、こんな本が出て、すげぇな~」と思いながら見てた仲間なのに、そんな丁寧な口調で喋んないでと思いますよね!
でも、もうその時はしょうがないですよね。(笑)
だから結局、常に上にいた矢野健太郎先生も越えられないしね(笑)
┃あのころは熱くて面白かった
岡田 あれ面白い。『アオイホノオ』で矢野先生がなんであんな上の位置に描かれているのかが不思議で。
島本 矢野先生はすごく上なんすよ。当時は会うことすらできなかったですから。
岡田 え!?
島本 CASの人に「会わせて下さい」と頼んだら「君は矢野健太郎さんに会いたいのか?」みたいに言われて、本当に「上の人に会いたいのか?」みたいな感じでしたもん。
だから「あぁ駄目なんだ。作品を見るしかないんだ」って思ってたんだよね。
岡田 すごいな でも当時の上下関係はあったよね。俺も最初に電気通信大学のSF研にいた時に「君も一生懸命やれば、半年ぐらいで武田さんに会えるかもね」と言われたんだよね。「あのおっさんがそんなに偉かったのか?」と今は思うけれども。
なんで俺達は文化系なのに、あんな体育会系の上下関係作ってたんだろうなって思うと面白いよ。
島本 いや、そうだよ。面白いね。
この対談の全長版はクラウドシティと島本和彦×岡田斗司夫対談「島本和彦×岡田斗司夫対談2「オタキングの逆襲」」で絶賛公開中!!
ライター:城谷尚也(FREEex / アルテイド)