ついにオンエアを開始したドラマ『アオイホノオ』に合わせた岡田斗司夫の解説を1話から3話までの感想こみで皆さんにお知らせするぞ!
録画をした君は、この解説を頭に入れてもう一度みてみよう!
- ホノオくんの恋愛感のひみつ
- 赤井くんのひみつ
- 東京に持ち込みのひみつ
- クリエイターの葛藤を代弁する矢野健太郎
- アオイホノオのここが変
ドラマ24『アオイホノオ』(テレビ東京系)毎週金曜日24時12分
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・トンコを抱きしめないモユル
宮崎駿初監督作品『ルパン三世 カリオストロの城』のラストシーンより。「おじさま!」と抱きつくクラリスを、逆に抱きしめられないルパン。アニメ史上に残る名シーン。宮崎は後に「抱きしめてくっついても、どうにもならない。男はやがて女に飽きて、女はやがて男に幻滅する」とクールに語っている。
宮崎にとってルパンはロマンチストだけど徹底的にろくでなしであり、そのろくでなしが数日間だけ恋をしたから美しいのである。その美しい数日間も、一時の激情に流されたら「当たり前の男と女の話」になってしまう。だからルパンは抱きしめないのだ。目の前のクラリスよりも「クラリスの恋心」を大事にしたいために。
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・「ウルトラセブン45話のフクシン君」
TV特撮シリーズ・ウルトラセブン第45話「円盤が来た!」
主人公のフクシン君は、昼は騒音まみれの鉄工所で働き、夜は星空を望遠鏡で見るのが唯一の楽しみ、という心優しい青年。しかしフクシン君のアパート向かいには、夜中も騒音を出す自動車修理工場がある。すっかり現実がイヤになったフクシン君は、夜空に円盤群を発見する、というストーリー。
赤井が「このアパートは騒音がうるさい」と嘆くのに対して、庵野は「この騒音はセブン45話のフクシン君の工場と同じ騒音だからいいじゃないか」と反論したのだ。
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・赤井の部屋の特撮セット
単にミニチュアセットがあるだけではなくて、ちゃんと70センチほどのテーブル上に配置されているのに注目。小さいミニチュアを撮影するときに巨大感を出すため「アオリ構図」で撮影するのは当たり前。そのためにはミニチュアセットは床の上では無く、テーブルなどに並べて地面より下の位置にカメラをセットする必要がある。
赤井が作ったセットは、そのまま「映画を作る」という意思と準備がうかがえるのだ。
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・赤井の作ったゴジラ
このミニチュアセットでもっともすごいのが、ゴジラ本体。岡田斗司夫が赤井孝美の才能をはじめて実感したのは、このゴジラを見たときである。
自在に曲がる針金で骨格を作り、その上に台所スポンジをちぎって貼ってカタチを作り出す。さらに皮膚として表面に風呂場用充填剤バスコークを塗って独特の皮膚感を出した。
当時の特撮や怪獣好きのマニアたちの作るフィギュアなどより、あきらかに数ステージ上の「撮影用ミニチュア」を、当時の赤井は独学で完成させていたのだ。
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・息を吹きかけて作る夜空
まるでモユルのオリジナル技法のように語っているが、これ岡田は中学校の時にすでにやっていた。当時からも各種の技法「筆を吹く」「筆を振り回す」「割り箸にホワイトつけて垂らす」などがあったように思うのだが・・・。
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・夏休みに持ち込み
マンガ編集部では、毎年夏休みになると地方から上京した学生の持ち込み原稿が寄せられる。その中にはモユルのようにペン入れ・仕上げ済みのものもあるけど、中には「ペン入れのみ」「下書きのみ」「構想を口で語る」などさまざまな中途半端作品がある。
そういう中途半端なしろものに貴重な編集者の時間を割くわけにはいかない。なので出版社に持ち込み電話したら、かならず「原稿は完成しているの?」と聞かれるのだ。
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・喫茶店でマンガを描く
「東京では全員、喫茶店でマンガを描いてる」とホノオは断言する。
もちろん間違いだが、これ当時のマンガファンは、たしかにそう信じていた。特にマニア人気の高いマンガ家・吾妻ひでおは、大泉学園前の喫茶店カトレアで毎日、仕事しているという噂があった。
これに憧れて、80年代のマニアたちは必要もないのに喫茶店で同人誌の原稿を書いたりした。ドラマ版「アオイホノオ」には登場しないDAICONスタッフ澤村タケシは、梅田の喫茶店でプラモデル一式を作り上げた伝説がある。喫茶店のテーブル上にカッターやヤスリ、塗料や筆を並べて半日がかりで作ってしまったのだ。
もちろん、こういうことをしてはいけないので真似は厳禁。
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・エンディングのマンガ
原作者・島本和彦が当時、持ち込みに行った原稿の実物。
これを見ると矢野健太郎の「石森章太郎に永井豪をプラス。それに松本零士も入ってる」と分析したのもよくわかる。
しかし見逃してはならないのは、関西の同人出身作家・聖悠紀の影響。メガネフレームの大きさや線の細さなど、当時のマンガマニアは聖の影響を強く受けた。島本の原稿は、ギャグのリズムや画風など、本当に80年代初頭の「マニアが描いたマンガ」としては100点満点のサンプリング具合なのだ。
「アオイホノオはどこまで真実か?」という質問が来ています。どう語ろうか。
ドラマ版『アオイホノオ』はテレビでやっている局が少ないから見た人はあまりいないかもわからないけど、あれいいだよ。なにがいいかって心がすごい痛いところなんだ。
┃クリエーターの葛藤を代弁する矢野健太郎
特に第3話のクライマックスで、矢野健太郎先生が出てきて演説するというのがおかしいんだけどさ。あのころの矢野先生は単なる漫研の部長なんでけども、矢野先生がシャアのセリフの引用をしながらも「若者はみんな心の中に王国があって、その王国の中では他人の才能というのを見ずに自分が一番と思う。たまにあいつのほうが才能があるじゃないかといって王国の政治が揺らぐ時があるんだけど、それを必死で打ち消すんだ」みたいなセリフがあるんだよ。この辺は原作でも確かにあるはあるんだけど、作者のモノローグで書かれているんだよね。このセリフを自分よりもちょっと先を言っている矢野先生に言われることで、焔モユルという主人公の葛藤がものすごくうまく出てるんだね。
矢野先生の服装も原作と同じでドラマ版も真っ白なダブルのスーツなんだけど、さすがにツイッターで「あんな服着てるやつがいるはずないだろう」とツイートしたんだけど、矢野先生本人の「確かにああいう服を当時着たけど」とツイートされてて「着たんだ矢野先生、馬鹿だな」と思ったんだよね。
ドラマ版のアオイホノオの優秀な所は、原作の焔モユルというのは、かなり先を読んていてクレバーなやつで、だいたいのつっこみをほすべて想定しているという。俺らみたいなやつで「わかるわかる感」がすごいんだ。対してドラマ版の焔モユルは、ほとんど顔芸をしている熱いおバカさんという描かれ方をしていて、モノローグで書かれていたつっこみを、内面のセリフとかナレーションでやっているのを全部どれかのキャラクターに仮託っていうんだけども、別のキャラクターにしゃべらせることによって対立関係を作りだしているんだ。そこがすごく面白いんだよな。
┃アオイホノオのここが変
一番のドラマ版と現実との差は庵野秀明の彼女が出てこないことだよね。『DAICONⅢオープニングアニメ』を作っていた時から庵野くんはリア充で結婚する現在まで、俺が知る限り彼女が途切れたことがないんだよね。どこにいっても。結構モテるし、あとコミュニケーション能力もかなりあると。アニメを作ってる時の呑み会とか打ち上げの時も、庵野くんは陽気で楽しくていろいろしゃべりかけるし、誰かに世話になったら必ずビール瓶とかもって、世話になりましたってざっとまわるったりしていて、必ず庵野くんがアニメ作りの中心になるんだよね。
庵野くんは、才能もあるし人間関係作るのが上手というやつで、ドラマの中で描かれるサンライズに行ってボンズを作る南くんとか、あのドラマの中で語られている山賀くんにわりと近いんじゃないかな、今もテレビ局とかのお偉いさんと酒を呑むって言ってるぐらいだから、本当にね村上隆も舌を巻く世渡りのうまさで、かなりできる政治家みたいなんだよね。ここらへんは宮崎駿監督より大物感があるんだけど、ただ単に仮面ライダーが好きだったりというところが、庵野くんのバランスが狂った面白さなんだよ。
ちょっと話がそれたんだけども、庵野くんは当時から彼女がいたし『DAICONⅢオープニングアニメ』を作っていた時も彼女を時々連れ込んで一緒にチキンラーメン食べてたりしてたんだけど、なんでこの事実が描かれてないのかというと、『アオイホノオ』は青春ドラマでみんなに彼女がいなくて夢を語ってるからこそ成立しているんだけども、漫画版でもドラマ版でもそこをスルーしているところが、僕らとしては「おやおやおや……」とちょっと思っちゃうなと思いました。
そう、ホノオくんもかなり女の子が寄ってくるんだけどさ、ホノオくんは島本先生自体の性格が出ていて、童貞感がすごく強いんだけど、あのドラマの中で出てくる他の登場人物は、あそこまで童貞感強くないと思うんだよな。
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ライター:城谷尚也(FREEex / アルテイド)