FREEexなう。

2014年07月18日

【緊急企画】岡田斗司夫『借りぐらしのアリエッティ』を語る

アリエッティの中に出てくる家政婦のばあさんがいるんだ。これがスゴイ不思議なキャラで映画の中の役割では悪役なんだよ。顔見たら宮崎駿そっくりなんだよな。
宮崎駿そっくりでその婆さんがやってる事は何かと言うとアリエッティのお母さんを捕まえようとするんだ。これ明らかにメタファーだよな。


本日、21:00から金曜ロードSHOW!で
ジブリアニメ借りぐらしのアリエッティが放送されます。
番組紹介http://tv.yahoo.co.jp/program/90504403/ 
 
ニコ生岡田斗司夫ゼミ(2012年7月号)より
岡田斗司夫がアリエッティについて解説している部分の文字起こしを全文公開致します。

  

(ネタバレがあるのでご注意ください。)

*ジブリ・アリエッティ解説は75:30くらいからです。


【質問】これからのジブリ作品の可能性についてヒトコト‥‥

ジブリ作品はもうホントに駿以外で本当に面白いものが出きるかどうかだよな。今までのジブリ作品はジブリだからって言うのがくっついてきて、それ取っちゃうとなかなか成立しにくかったんだけども、そうじゃないところから本当に出てこれるのかどうかなんだよな。

岡:細田さんとか、押井さんとか。うーん。細田さんはジブリでなくて良いじゃん。つまりジブリは何が難しいかと言うと、昔押井守がジブリに入らないかと宮崎駿から勧誘受けた事があって、次に庵野秀明も宮崎さんに「ジブリに来ないか」と言われた事があったんだって。

その時に二人ともすごく考えたワケだ。と言うのはスタジオのクオリティとして明らかに全盛期のウォルトディズニーを超える超クオリティスタジオなわけだよな。フリーの演出した人間なら誰でも分かってんだけどさ。映画やアニメの演出って言うのは素・裸で出来るもんじゃないんだよ。自分の手持ちのスタッフをどれくらい良い環境で集められて、新人スタッフをどれくらい教育できるのかで映画作る労力の半分位をそこに使ってしまうんだよ。

ジブリはそれが全部揃っている、所謂ワンパッケージになっている状態だから、しょっぱなから自分が持っているイメージを作れる所ではあるんだけれど。ジブリはジブリでジブリらしさに捕らわれている。つまりこう言う作品を作る事がジブリらしいのか、もしくは宮崎駿がこの路線に行ったから敢えて逆をやらなきゃいけない、みたいなものがあって、そこで素の状態にはならないので、使いにくいと言う話しを聞いた事がある。

岡:あのね、ジブリにとって宮崎駿って言うのは財産なんだよな。祝福であり呪いであるとオレは良く言うんだけども。そう言う風な事があると言うのはすごくラッキーな事であると同時にすごいきつい事でもあるんだよな。だって自分たちで何を作ってもあの100年に一度の天才と比べられちゃうんだよ。そんなのやってられないじゃん。吾郎くんが何やっても親父が宮崎駿って大ハンディキャップ背負ってるわけだよ。それ考えるとしんどいなと思う。

借りぐらしのアリエッティ』ってあったじゃん。アレ観た時にオレは凄く面白くて、「ああこれはジブリの人たちが脱宮崎駿をやろうとしているな」『借りぐらしのアリエッティ』ってシナリオを宮崎駿が書いたんだっけ? 確かそう言う風な作品だったと思うんだけど、アリエッティの中に出てくる家政婦のばあさんがいるんだ。これがスゴイ不思議なキャラで映画の中の役割では悪役なんだよ。

アリエッティたちの家を暴こうとして小人たちを捕まえようとしていて明らかに悪役なんだけども、スタッフの描き方がそうじゃないんだ。すごい無邪気ですごい迷惑な人って言う書き方なんだ。顔見たら宮崎駿そっくりなんだよな。

宮崎駿そっくりでその婆さんがやってる事は何かと言うとアリエッティのお母さんを捕まえようとするんだ。アリエッティのお母さんと言うのは凄くカマトトぽいと言うか、おばさんなんだけど女の子らしい「いやいやっ」ってクネクネするような女なんだ。それを一生懸命捕まえる。

これ明らかにメタファーだよな。つまり宮崎駿が追い求めているアニメの中に再現しようとしている少女性って言うのは「アンタの年代の世界観であって、すでに現在では通用しないカマトトぶった少女性なんじゃないの?」みたいな暗喩が入ってる。それをシナリオで書いた時は絵でそう言う風に考えていなくて自分の中の自然な流れで書くんだけれども、絵を描く人間は明らかにそれをメタファーとして乗っけてる。けど宮崎駿を憎んでいないからそこをトリックスター的に描いちゃう。愛すべき変なキャラクターとして描いちゃうからストーリー上は悪役であるべきなのに、悪戯っぽくて悪意が無いになっちゃうんだから。

オレがそれに気が付いたのはアリエッティのお母さん捕まえて瓶に入れる時にサランラップみたいので上からキュッとかぶせてピタッと乗せるんだよ。それは言わば幻想の少女みたいなものをセロファンの中に包み込んでしまおうと言う、アニメのセルの中に少女を閉じこめてしまおうと言う、宮崎駿がアニメーション作る時に持っている根源的なエロティシズムと創作の持つダイナミックさの根源をもう「映画みている人に分からなくても良いよ! でも俺達が今作らなきゃ行けないのはこれなんだ。宮崎駿は愛しているんだけど敢えて悪役になってもらってそこから脱出する女の子の話描かないと、俺達には将来がないんだ。それがジブリがいる場所そのものじゃねえか!」メッセージ性がバーンと出ていて「カッコイイ、ロックンロールだあ! でも映画としては中途半端!」って思っちゃったんだよな。(笑) あと10分。わあああ。

岡:ホンネ言っちゃった、企画倒れ‥‥でもねラストシーンがジブリらしくなくて面白かった。病弱な少年がいてカレがアリエッティを助ける事でさあどうなるかって言うんだけども、あれ明らかに死んでるよね。

ただでさえ心臓手術が成功するか失敗するか、失敗の確率が高いって言ってるところにアリエッティ助けるのに夜露に濡れながら徹夜で探し回っているワケだよ。何でオレが死んでると言えるのかと言うと、皆映画を作る人間の立場で考えてみて。映画を作る人間の立場だったら絶対にカレが手術を生き残っているんだったら、ちゃんと病院の中で生き残っているシーンを入れるはずなんだよ。

でもそれを入れないってことは「それは視聴者の想像に任せます。私たちは分かってますけどね」って言うメッセージなんだよ。(読んで)ああ、ネタバレ。わりいわりい。(笑)

岡:オレの番組見たらネタバレあるから今のうちから謝っておく。そう言う調整は出来ないだよ、すまない。アリエッティの面白さってそう言うストーリーじゃないよ。

岡:そう言う風なものでありながら、アリエッティがその病弱な少年に言われるんが「君たちは滅び行く種族なんだね」どういう事かと言うと本編の中では何度も出てくるんだが、アリエッティは最後の1人なので子供は残せないと言うやけに生々しいことが出てくる。子供が残せないと言うところにもう一人『未来少年コナン』のジムシーみたいな元気で野蛮な少年が現れて「他にもいる」って言うので、その少年と二人で川を下るところで終わるんだ。

川を下る時アリエッティは髪を下ろしているんだ。髪の毛下ろすと言うのは映画上の暗喩で「女になる」って言う意味なんだよな。それを川を流れる、つまりそれまでの自分の人生とか罪が洗い流されて流れる、子宮の比喩、女性の比喩とか、色んなものに乗っかりながら。アニメ作る人間は絶対に考えるんだよ。

で隣にいるのは肉体派でさっきの病弱で知性派の少年のところから離れて、これからこの肉体派と子供を作るために二人で旅立つと言うメタファーがこうやってきて、ジブリ作品としては「こっちの方向に俺達は持っていかなきゃいけないんだなあ」と言うメッセージとアリエッティの生き方、ストーリーが上手いこと重なっている。

でも重ねる事に一生懸命になってストーリーとしては要するにワタゲタになっちゃった。この辺りもアニメ見る面白さだよな。テーマとかストーリーって言うのは自分の本にも書いたんだけどさ。アニメのテーマと言うのは観ている人のためじゃないんだよ。スタッフが一致団結するためでもあるし、自分たちが絶対これを言いたいと言うのは、観客に届けたいためでもあるんだけども、言いたいだけって言うのもあるんだよな。

このコメント「自己満足か?」うーん、自己満足かと言われたらそうなのかも分かんないけども、それが無いと1年や1年半なり大の男、大の女が三十過ぎて自分の人生を削りながら、睡眠時間を削りながら、ホント言えば手を抜いた方がラクな生活が出きると分かりながら、子供向けのアニメとかバカにされながら、1本の作品作りきれないよ。

それは自己満足じゃなくて表現って言ってあげようよ。その方がたぶん近いと思う。その自分たちの言いたい表現と観てる人に伝えたい表現と言うのものを、被せて同時に出すと言うのが大人の技なんだよな。

そこら辺が上手くできている時の、例えば冨野作品とか言うのは物凄く面白いんだ。高畑作品が面白いようでいてちょっと物足りないのは何かと言うと、自分たちの言いたい事と言うのがストーリーの中に完全に組み込まれてしまって、そして子供たちへのメッセージもキレイに組み込まれてしまって完成度がやたら高いから、逆に言えばフレームが見えてしまう建築物みたいなものだよね。アリエッティみたいに多少作りが緩やかな方がその骨格がうすら見えてオレには面白かったな。

「借りぐらしのアリエッティ」DVD&Blu-ray はこちら




otakingex at 20:00コメント│ この記事をクリップ!

コメント一覧(新規コメント投稿は、上のFacebookソーシャルプラグインをお使いください)