宮崎駿のような監督・演出の天才が、無駄なカットを一秒たりとも入れるはずがありません。つまり、二郎の初恋の相手はお絹ということを示しているのです。
二郎は菜穂子と恋愛する段になって「はじめて君と会ったときから好きだった。帽子を受けとってくれたときから」と言いますが、それは違います。関東大震災あたりのシーンでは、二郎はお絹に惹かれていたのですから。
二郎は菜穂子と恋愛する段になって「はじめて君と会ったときから好きだった。帽子を受けとってくれたときから」と言いますが、それは違います。関東大震災あたりのシーンでは、二郎はお絹に惹かれていたのですから。
そう、菜穂子に「はじめて君と会ったときから好きだった」と言ったのは、悪意のない嘘なんです。
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宮崎駿の『風立ちぬ』をご覧になった女性なら、二郎と菜穂子の純愛に涙した方も多いと思います。
私もぼろぼろ泣きながら見ました。
が、岡田斗司夫の分析は明解です。
指摘されて、私もはっきり思い出しました。
二人が初めて出会う、列車でのシーン。
菜穂子が飛ばした帽子をとってもらい、お礼を言いながら列車の中に戻る。
列車の中に戻っていく菜穂子とお絹を見つめる二郎。
小さくなっていく二人。でも焦点があっているのは、ずっとお絹の方でした
そのシーンを見ながら、「あれ?」と小さな違和感が残りました。
だって、ヒロインは菜穂子だよね?
二人が初めて出会う、列車でのシーン。
菜穂子が飛ばした帽子をとってもらい、お礼を言いながら列車の中に戻る。
列車の中に戻っていく菜穂子とお絹を見つめる二郎。
小さくなっていく二人。でも焦点があっているのは、ずっとお絹の方でした
そのシーンを見ながら、「あれ?」と小さな違和感が残りました。
だって、ヒロインは菜穂子だよね?
つまり、最初に二郎が恋をしたのは、ヒロイン菜穂子ではないのです。
その後、震災のシーンでも、風呂敷包みが届けられたシーンでも、ずっと二郎はお絹を想っています。
そう意識すると、二人の恋愛がリアルなものに感じられてきます。
『風立ちぬ』はそういう映画なのです。
以下、岡田斗司夫の宮崎駿論を集めた「『風立ちぬ』を語る」より、ハイライトをお届けします。
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『風立ちぬ』を語る 宮崎駿とスタジオジブリ、その軌跡と未来
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●二郎が最初に恋したのは誰か?
この映画のヒロインは、結核を患うお嬢様の里見菜穂子です。
しかし、実は二郎が最初に恋をしたのは、里見家の女中、お絹のほうでした。
しかし、実は二郎が最初に恋をしたのは、里見家の女中、お絹のほうでした。
1923年、関東大震災が発生したそのとき、二郎は同じ列車に乗り合わせたお絹と菜穂子を助けます。
二郎は名乗ることなく彼女たちと別れるのですが、二年後、二郎が大学の教室でいるときに、女の人が荷物を置いていったことを告げられます。
届けられた風呂敷包みを開けると、二郎が彼女たちに与えた着替えのシャツと計算尺と手紙が入っていました。
その瞬間、二郎の脳裏にはお絹の後ろ姿が浮かび、その女性をすぐに追いかけようとします(結局、彼女は去った後でしたが)。
下宿に帰宅した後、久しぶりに訪ねてきた妹の加代に「(震災の後)その家に行ってみたの?」と訊かれ、「行ってみたけどもう誰もいなかった。焼け跡だった」と答えます。
二郎は名乗ることなく彼女たちと別れるのですが、二年後、二郎が大学の教室でいるときに、女の人が荷物を置いていったことを告げられます。
届けられた風呂敷包みを開けると、二郎が彼女たちに与えた着替えのシャツと計算尺と手紙が入っていました。
その瞬間、二郎の脳裏にはお絹の後ろ姿が浮かび、その女性をすぐに追いかけようとします(結局、彼女は去った後でしたが)。
下宿に帰宅した後、久しぶりに訪ねてきた妹の加代に「(震災の後)その家に行ってみたの?」と訊かれ、「行ってみたけどもう誰もいなかった。焼け跡だった」と答えます。
なぜ二郎は、そのとき里見家を訪ねたのでしょう?
もちろん、彼女たちのことが心配だったからというのもあるでしょうけれど、「お絹に会いたかったから」というのが一番の理由ではないでしょうか。
もちろん、彼女たちのことが心配だったからというのもあるでしょうけれど、「お絹に会いたかったから」というのが一番の理由ではないでしょうか。
そうでないなら、荷物を開いた瞬間、二郎の脳裏にお絹の後ろ姿だけが浮かぶはずがありません。
宮崎駿のような監督・演出の天才が、無駄なカットを一秒たりとも入れるはずがありません。
つまり、二郎の初恋の相手はお絹ということを示しているのです。
宮崎駿のような監督・演出の天才が、無駄なカットを一秒たりとも入れるはずがありません。
つまり、二郎の初恋の相手はお絹ということを示しているのです。
二郎は菜穂子と恋愛する段になって「はじめて君と会ったときから好きだった。
帽子を受けとってくれたときから」と言いますが、それは違います。
関東大震災あたりのシーンでは、二郎はお絹に惹かれていたのですから。
帽子を受けとってくれたときから」と言いますが、それは違います。
関東大震災あたりのシーンでは、二郎はお絹に惹かれていたのですから。
そう、菜穂子に「はじめて君と会ったときから好きだった」と言ったのは、悪意のない嘘なんです。
●里見菜穂子の狡猾な計算
菜穂子という女の子は二郎に対してすごく健気に尽くしますが、その健気さは純粋さからくるものではありません。
関東大震災の日に出会い、少女の菜穂子は二郎に一目惚れしてしまいます。それから大人になって再会するまでの9年間、ずっと二郎のことを好きだったのでしょう。
このとき、彼女は二郎がお絹に惹かれていることに感づいています。
このとき、彼女は二郎がお絹に惹かれていることに感づいています。
軽井沢のシーンでは、突風で飛ばされた菜穂子のパラソルを、偶然二郎がキャッチします。
菜穂子はすぐに二郎に気づきますが、二郎は彼女に気づきません。
菜穂子はすぐに二郎に気づきますが、二郎は彼女に気づきません。
では、どうするか? ここから、菜穂子の戦略が始まるのです。
彼女は純真なように見えますが、二郎の気を引くため、手練手管を使います。
前日には、イーゼルを丘の上に立てて絵を描いたところ、二郎と再会した翌日は泉に伸びる森の入口にイーゼルと絵、そして同じパラソルを置いておきます。
この光景が変だということがおわかりでしょうか?
前日と同じ絵を描くためなら、構図からいっても丘の上にイーゼルを置かないと描けないはずです。
それなのに森の入口にイーゼルを置き、絵を立てかけっぱなしにして、昨日と同じパラソルを開いていました。
これは、「私はここにいるから来てください」「森の中に入ってきてください」と、二郎を誘っているのです。
これは、「私はここにいるから来てください」「森の中に入ってきてください」と、二郎を誘っているのです。
菜穂子にしてみれば、震災の日の二郎のことを覚えていて「あっ、あのときの人だ」とすぐに気づきました。
だから、彼も自分のことを覚えてくれているとばかり思いましたが、そうではありませんでした。
だからこそ、「あなたがここへ来てくれるように、泉に願をかけていた」という言い訳、つくり涙を使ったのだと僕は感じました。
だから、彼も自分のことを覚えてくれているとばかり思いましたが、そうではありませんでした。
だからこそ、「あなたがここへ来てくれるように、泉に願をかけていた」という言い訳、つくり涙を使ったのだと僕は感じました。
その後、にわか雨に見舞われた二郎と菜穂子は、菜穂子のパラソルにいっしょに入り、会話をしながら帰ります。
その間に菜穂子は、「お絹は嫁に行きました」、「この間2人目が生まれました」と、二郎に話します。
ちょっとひどい言い方になりますが、これは恋敵を完全につぶすための菜穂子なりの戦略、幼い女の性(さが)の現れでしょう。
そうやって、ひたむきに二郎の心を自分に向けようとするわけです。
その間に菜穂子は、「お絹は嫁に行きました」、「この間2人目が生まれました」と、二郎に話します。
ちょっとひどい言い方になりますが、これは恋敵を完全につぶすための菜穂子なりの戦略、幼い女の性(さが)の現れでしょう。
そうやって、ひたむきに二郎の心を自分に向けようとするわけです。
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