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2013年11月14日

『風立ちぬ』を語る 11/15発売記念! プロローグ『人間・宮崎駿に迫る』全文掲載☆

 特に最新作『風立ちぬ』において、人間「宮崎駿」という視点は強力です。

 というのも『風立ちぬ』は、宮崎駿が初めて自分の作りたいテーマに真正面から向き合い、作った作品だからです。ある種、私小説的な要素を持った作品ともいえるでしょう。
 一度、宮崎駿像を交えた視点で作品を見てしまうと、もうどうしても、そういう見方でしか楽しめなくなるはずです。
プロローグ『人間・宮崎駿に迫る』より


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岡田斗司夫が宮崎駿を語る時、そこには常に、尊敬と同時に畏怖の影が見え隠れしていました。
平たく言うと、しっぽがまるまっているのです。
ガンダムの監督・富野 由悠季を語る時の、愛情あふれるスタンスや表情と比べてみるとはっきりとわかります。

それが、ある時、急に変わリ始めました。
息子、宮崎吾郎との確執を語り始めた頃です。

「人間的な魅力というのは、その人の欠点のことだ」とは、岡田もしばしば語っています。
が、欠点=魅力 というほど単純なものではありません。
そこには、その欠点を自分に引き寄せて考える優しい視点が必要なのです。

そのころ岡田が、人間「宮崎駿」の欠点を、魅力的に語る「視点」を手に入れたということだとも言えます。

その視点で語られた、今回の『風立ちぬ』論。
宮崎駿が本気で作りあげた作品を、岡田が明解に読み解いていくきます。

風立ちぬ宮崎駿と息子・宮崎吾郎の関係、宮崎駿とプロデューサー鈴木敏夫の関係、宮崎駿とライバル高畑勲との関係・・・
様々な人間関係のエピソードを通して丹念に拾い上げ、編み上げた結果生まれた「宮崎駿論」が、この
『『風立ちぬ』を語る 宮崎駿とスタジオジブリ、その軌跡と未来』 に収録されています。

まとめて読むことによって、より鮮明になる人間「宮崎駿」像と、それによって違う意味をもってくる『風立ちぬ』を、是非お楽しみください。

この本を読んでから、もう一度、『風立ちぬ』をご覧頂ければ、きっともう一つの『風立ちぬ』に出会えるはずです。

光文社新書
『風立ちぬ』を語る 宮崎駿とスタジオジブリ、その軌跡と未来
価格:777円
仕様:新書版 190ページ

電子書籍版

『風立ちぬ』を語る~宮崎駿とスタジオジブリ、その軌跡と未来~  [Kindle版]
 
価格:693円
フォーマット:Kindle版
ファイルサイズ:935KB 



まずは、プロローグを立ち読み頂ければと思います。

ライター:のぞき見のミホコ

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プロローグ 人間・宮崎駿に迫る


 僕が初めて宮崎駿の名前を意識したのは、1980年代、人の紹介で出会った庵野秀明のおかげでした。
 
 彼はのちに『新世紀エヴァンゲリオン』(以下『エヴァンゲリオン』)というとんでもない作品を生み出し、僕も「ガイナックス」というアニメ・ゲーム制作会社を立ち上げることになるのですが、お互いにまだ何者でもなかった学生時代のことです。
 
 その頃は宮崎駿も、今のような世界に誇るアニメ監督というわけではありませんでした。
 それでも庵野秀明は、「宮さん、宮さん」と親しみを込めて呼びながら、何度も宮崎駿のすごさを、まわりの人々に熱心に語り倒していたのです。
 
 僕の自宅の大型プロジェクタで、『ルパン三世』の「宮さんの回」の爆発シーンを何度も何度も繰り返し見ていた彼の姿は、今でも鮮明に記憶に残っています。
 
 爆発のタイミング、炎や煙の色、広がる速度……。それらのタイミングに合わせ、何やら口から効果音を出し、両手で爆発の速度や威力を再現しようと試みる。庵野は宮崎駿のアニメーション技術を、まさに全身で「体得」しようとしていたのです。
 
 そして、それがDAICONⅢの爆発シーンに、見事生かされたのです。
  
 と言っても、これが何のことだかわかる人は、ほとんどいないでしょう。
 
 DAICONⅢは、1981年に開催された「第20回日本SF大会」の愛称です。
 SF大会は、日本各地のSFファングループが1年ごとに持ち回りで開催する巨大なイベントで、この夏は、僕と武田さん(ガイナックス・現取締役)、澤村君(同・元社長)の3人が中心となって、大阪で開催されました。正式名称は日本SF大会ですが、大阪で3回目に行われるコンベンション、という意味で「DAICONⅢ」と呼ばれたのです。
 
 このDAICONⅢの開会式(オープニング)用に制作したのが、DAICONⅢオープニングアニメでした。
 たった3分間しかない、8ミリのアマチュアアニメーション作品です。
 
 庵野秀明、赤井孝美、山賀博之の3人を大阪芸術大学からクリエイターとして迎え、大量の人間を投入して、僕たちはこのオープニングアニメーションを作りました。
 ちなみにこれは、僕が初めて作った映像作品で、その頃僕の家は、アマチュア・アニメの制作現場になっていました。
 この辺の経緯は、島本和彦の漫画『アオイホノオ』(2007年~、小学館)にもあるので、興味のある人はどうぞ。 
 
 その後、宮崎駿は劇場版アニメーション『風の谷のナウシカ』(1984年)の監督をきっかけに、日本で一番有名なアニメ監督になっていきます。
 
宮崎駿監督作品は、すでにさまざまな角度から語られ、論評本も多数あります。ですが、作品だけでなく人間「宮崎駿」を中心に据えて語ると、まったく新しい風景が見えてきます。
 
 ライバル・高畑勲との関係。
 息子・宮崎吾朗との関係などなど。今まで一ファンとして知っていたバラバラの情報を、「宮崎駿」という個人に焦点をあてて組み直してみると、そこから宮崎駿の価値観や生き様が浮き彫りになってきたのです。
 
 これが僕は、面白くて仕方がなく、ことあるごとに宮崎駿やスタジオジブリについて語ってきました。
 トークライブハウス「ロフトプラスワン」のステージで、あるいはニコニコ生放送の公式ゼミで、あるいはインタビュアーを前にして……。
 
 話すたびに、僕はいつも大きな発見をすることになります。
 さまざまなピースを並べてみせることで、誰も想像しなかった、僕自身ですら考えもしなかった宮崎作品の読み解き方が、鮮やかに浮かび上がってきたのです。
 
 特に最新作『風立ちぬ』において、人間「宮崎駿」という視点は強力です。
 というのも『風立ちぬ』は、宮崎駿が初めて自分の作りたいテーマに真正面から向き合い、作った作品だからです。
 ある種、私小説的な要素を持った作品ともいえるでしょう。
 
 一度、宮崎駿像を交えた視点で作品を見てしまうと、もうどうしても、そういう見方でしか楽しめなくなるはずです。
 
 さまざまな切り口で語った話を俯瞰すると、もっと多角的な宮崎駿作品の読み解き方が見えてくるのではないだろうか――。
 そんな狙いから、『風立ちぬ』をベースにしつつ、あちこちで語った僕の「宮崎駿」論をひとつにまとめてみることにしました。

 今年(2013年)9月6日、とうとう宮崎駿が引退宣言をし、この作品は、最後の長編監督作品となりました。
 本書を執筆している2013年9月末には、興行収入は100億円を突破し、観客動員数も1000万人に達すると見込まれています。
 
 ところが、こうした人気の一方、作品をどう見ればいいかわからないという声も多く聞こえてきます。
 二郎と菜穂子のロマンスに泣くほど感動したという意見もあれば、ストーリーに釈然としない、理解に苦しむといった人もおり、賛否両論です。
 
 そんな読み解き方がわからない人にこそ、この本をぜひ読んでいただきたい。
 そして、すでに一度見てしまった人も、僕の解釈を知っていただいた上でもう一度作品を見ると、新たな発見があることでしょう。
 
 そして、宮崎駿ファンの人、今後のジブリが気になる人、あるいは「なぜここまで人気があるのかわからん」と思っている人も、ぜひページをめくってみてください。








otakingex at 07:00コメント│ この記事をクリップ!

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