「幕の内は新幹線で食べたから、ショウガ焼きだな・・・」とつぶやいた古谷さんに、たまらず僕は吹きだした。だって「あの声」なんだよ。無理!笑わないの、ぜったいに無理!アムロがショウガ焼き選んでるの、面白すぎたのだ。
週刊アスキー 2013年5月21日号
「ガンダム芸人1」からの続き

テレビで時々、ハイジやドラゴンボール悟空の声優さんが素で出てる時、なんとも言えない気分になる。
「その声は知ってるけど、その見た目とは連結できません」と脳内でリンクが拒否される。
数年前、NHK番組の収録で『機動戦士ガンダム』の主人公アムロ・レイ役の古谷徹さんとご一緒した。司会者とディレクターを交えた打合せで古谷さんがしゃべるたびに、その違和感がした。古谷さんを見てる時は平気なんだけど、台本に目を落とすと聞こえてくるのは、絶対にあのアムロの声だ。
「大阪は久しぶりです」「カラオケは行かないですね」「どっか美味しいお好み焼き、今夜探します」
アムロがこんなこと言うはずないのわかってるんだけど、でも声だけ聞いてたらアムロが、ホワイトベースが大阪に不時着してコック長のタムラさんがお好み焼き焼いてるようにしか聞こえない!ものすごくおかしかったけど必死で笑いをこらえて、打合せを乗り切った。
あとは収録開始まで休憩。この日はスタジオではなく公開収録なので、全員が同じ楽屋、つまり「大部屋」というやつだった。
まだ本番までは2時間近くある。なんでNHKってこんなに早く楽屋入りさせるんだろう、と軽くイラっとしていた。
しかし古谷さんはさすがベテラン。「待つのもタレントの仕事」と割り切って落ち着いておられた。
しかし古谷さんはさすがベテラン。「待つのもタレントの仕事」と割り切って落ち着いておられた。
そこへAD君が弁当を抱えてやってくる。古谷さんはそれを物色する。
「幕の内は新幹線で食べたから、ショウガ焼きだな・・・」とつぶやいた古谷さんに、たまらず僕は吹きだした。だって「あの声」なんだよ。無理!笑わないの、ぜったいに無理!アムロがショウガ焼き選んでるの、面白すぎたのだ。
・・・という話を『ガンダム塾』イベントで若井おさむさんに話した。吉本所属の若井さんは別名ガンダム芸人。その古谷徹さんとまったく同じ声が出るので、アムロのセリフものまねで大人気の芸人さんだ。
意外だったのは、若井さんは「モノマネ芸人」という意識がまったくないことだった。子供の頃からガンダムが好きで、友達と一緒にテレビのセリフを冒頭からぜんぶ暗唱する、という遊びに熱中した。その過程で「再現度を上げるために」「必要に応じて」「アムロの声が出るようになっただけ」というのだ。
「だから僕のやってるのはモノマネではありません。オリジナルの再現です。アレンジして、こう言ってくれ、という注文は正直、ちょっと苦手です」と言われた。
しかしそんな若井さんがアムロの声で「オリジナルの再現」をはじめると、場内は爆笑に包まれる。これも古谷さんアムロの「ショウガ焼き」と同じく、声の違和感によるマジックなんだろうか。