タコ部屋って知ってるかな?
暴力団とか怖い筋のおにーさんたちが土木仕事を請け負う時、労働者を人里離れた現場近くの寮に住ませる。逃げようとしても毎晩バクチとかで金を奪って、せっかく稼いだ金をスッテンテンにする。それがタコ部屋だ。
ガイナ荘はもちろん断じてタコ部屋じゃない。でもハタから見るとかなり「タコ部屋みたいなもの」だったのも事実だ。
週刊アスキー 2013 4/23 ガイナ荘、というのはもちろんあだ名だ。ガイナックスやゼネプロの若手男性社員、つまりほぼ全員を対象とした社員寮が当時、三鷹にあった。
いや社員寮という言い方も美化しすぎだろう。
貧乏だから個別に部屋が借りれない。だから一軒家借りて住んでしまえ、という発想だ。
どうせ部屋なんか別々に借りても、それぞれの部屋にテレビとビデオデッキと本棚という同じものを揃えて、その本棚のマンガも大半が同じに違いない。だったらもう、いっしょに住めばいいじゃん!
そのとおり、社員全員がオタクのメンバーたちは、趣味も所有物もかなり似通っていた。夜に見るテレビも、ビデオで見るアニメもほぼ同じだった。
趣味や仕事で共通点のある男同士がいっしょに大きな家に住む。いまだったらシェアハウス、というカッコいい言葉で言われただろう。でも当時は当たり前のように「タコ部屋」と呼ばれていた。
タコ部屋って知ってるかな?
暴力団とか怖い筋のおにーさんたちが土木仕事を請け負う時、労働者を人里離れた現場近くの寮に住ませる。逃げようとしても毎晩バクチとかで金を奪って、せっかく稼いだ金をスッテンテンにする。それがタコ部屋だ。
ガイナ荘はもちろん断じてタコ部屋じゃない。でもハタから見るとかなり「タコ部屋みたいなもの」だったのも事実だ。
違う部分はバクチや酒や暴力がない、ということ。同じ部分は「一度入ると、まず抜けられない」こと。趣味が似通った若いオタクが合宿生活してるんだから、少し慣れればもうダメ人間への道まっしぐらだ。一人暮らしするために独立資金を貯めるより、トランスフォーマーのレーザーディスクBOXを買う方が大事に思えてきてしまう。
MANGAを英語にした男、トーレン・スミスはこの疑似タコ部屋に入居した。家賃はゼロ。そのかわり掃除や庭の手入れなど雑用を任された。
トーレンは日本のマンガを北米で出版するために来日した。しかし彼は肝心の日本語が話せない。そして低学歴のガイナックスメンバーたちも、もちろん英語が話せない。
敬愛する故・中島らも氏によると「日本人の英語には三種類ある」らしい。すなわち「英語が苦手」「英語がダメ」「英語が無理」の三つだ。僕たちガイナックスメンバーはもちろん三番目の「無理」カテゴリだった。
トーレンとの同居が決まった時、僕やメンバーたちは「これで俺たちも英語が話せるようになるのでは?」と期待した。だって週7日、一年365日ネイティブスピーカーと同居するわけだ。
マンガやアニメの話をしてるうちに、トーレンは日本語ペラペラに、そして俺たちは英語ペラペラになってるに決まってるでしょ!
トーレンが引っ越してきた暑い夏が終わり、秋が来て冷たい冬が来た。ガイナックスメンバーたちははたして英語ペラペラになっていただろうか?
とんでもない。トーレンはあいかわらず日本語ダメ。僕たちの英語力もさっぱり以下だった。
理由はまた次回ね。
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