朝日新聞連載の人気人生相談「悩みのるつぼ」が、新書として幻冬社から発売されます。
タイトルは『オタクの息子に悩んでます 朝日新聞「悩みのるつぼ」より』。
発売は9月28日(金)。amazonや書店で絶賛予約受付中です。
これを記念して公式ブログでは、「悩みのるつぼ」特集を開催します。
読者のほぼ全員が、「困った母親をどうしたらいいのか」というスタンスで読んでいたであろうこの相談。大どんでん返しの回答に、唖然とすると同時に、人生の切なさをかみしめた人も多かったのではないでしょうか?
「実家の母に電話してみよう」とか「近いうちに実家に顔を出そう」といった感想も、あちこちで聞かれました。老いを自分にひきよせて考えられた回答でもありました。
***********************************
母が何も捨てられず困ります
78歳の母のことです。
母は物を処分することを極度に嫌い、あらゆるものを捨てられません。カタログ通販を利用し、どんどん物を増やし続けており、身の周りには物があふれかえっています。
バランスボールや竹馬など、使ったら骨折間違いなしという類のものや、大型オーディオセットの前に小型セットが鎮座していたり。壁は絵画や写真で埋め尽くされ、1畳を越す大きさの額が廊下に立てかけてある。折り畳み傘十本近くが埃をかぶり、等身大マネキンまで居ます。
残りの人生では使いきれないほどの衣類・食器類を所蔵、備蓄品もたっぷり。父と二人暮らしの広めのマンション内は、大家族の生活の場のようです。
新聞には上手な老い支度を促す連載や、身辺整理を決意した投稿などが掲載されているのに、です。
どうすれば、自発的に片付けるようになるでしょうか。折に触れ、分類整理を申し出ても、勝手に処分されることを心配し、拒絶されます。
私は、物は利用価値が全てだと考える方なので、現在も将来も使用することが見込めないものは、どしどし処分してほしいのです。合理的に判断し、足腰の弱くなった状態にふさわしい安全で整然とした環境で生活してほしいと願っています。
母の意識改革は無理でしょうか?
○回答者 岡田斗司夫
相談を読んで、僕はひどく落ち込みました。あなたは母親のことがわかっていない。いや、僕が感情的になっても仕方ないですね。説明します。
お母さんがカタログ通販で物を買う理由は簡単です。「もっと生きたいから」。それ以外にありません。
バランスボールや竹馬を買うとき母の心に浮かんでいるのは、それをちゃんと使いこなしている「健康でエネルギーあふれる自分」です。オーディオや絵画を買うのは、心の豊かさを取り戻そうとしてるから。
通販で商品を買うのは、「そうなる可能性を買う」ということです。78歳の母親は、未来や夢を買ってるのです。
もちろん実際には使いこなせてません。あなたが言うとおり愚かなことでしょう。でも母にとって、いまや通販番組やカタログを見て「欲しい」と思う時が「生きている」と感じられる時なんです。それを「使わないなら処分しろ」というのは、「夢を捨てろ」「これ以上、生きるな」と言っているようなものなんですよ。
あなたの言う「上手な老い支度」は、母にとっては自分の年齢を自覚させ、死がすぐそこまで来ていると意識させることに他なりません。
「生きる」とは欲望と不安を受け入れること。無駄と混乱は当たり前なんです。
母に「安全で整然とした環境」を与えたいのは、あなたが心配させられず、安心したいからでしょ?母の幸せは増えませんよね。
使いきれない食器であふれている?父と二人暮らしのマンションは大家族のような備品でいっぱい?
お母さんの望んでいることはあきらかじゃないですか!
あなたにも事情がおありでしょう。でも母親の道具や買い物を規制したり整理したりするのだけが解決の本質でないのは、わかりますね?
家族を連れてお母さんの部屋で食事してはどうでしょう?沢山の食器からお気に入りを探して。食後はあなたがバランスボールや竹馬に乗ってみては?
お母さんが買い求めたのは「生きる希望」です。邪魔であろうと、あなた達家族がちゃんと受けとめてあげてください。
「こんなふうに生きたかったな」という想いを受け取ること。
それが「相続」です。
********************************************************