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2012年07月30日

【赤井孝美特集】世界初の育成シミュレーター『プリンセスメーカー』

赤井君は『信長の野望』が大好きなんです。部下を鍛える教練の部分だけでゲームを作りたい。何とかゲームにできないか。


7/25にスペシャルとして放送されましたニコ生シンクタンク 【就活特集】憧れ産業はオワコンなのでしょうか 
赤井孝美監督との対談はお陰さまで大好評でした。
これを記念した【赤井孝美特集】、最終回はいよいよ『プリンセスメーカー』です。

「プリンセスメーカー」は赤井孝美の代表作であると同時に、
シミュレーションゲームとして、パソコンゲーム市場に新たなフロンティアを開拓した作品でもあります。
人気も高く、5まで作られ、様々な機種にも移植されています。

その功績ははかりしれないのですが、実は、赤井孝美がはまっていた「信長の野望」の教練部分と、岡田斗司夫がリクエストした「女の一生」を合体した結果産み出されたものだそうです。

クリエイティブの不思議を感じるエピソードです。


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世界初の育成シミュレーター『プリンセスメーカー』

 そんな中、赤井君が「じゃあ、そろそろわが社の第三世代ゲームの出番ですね」と判断してとりかかったのが『プリンセスメーカー』です。
 初期段階のタイトルは『プリンセスメーカー』ではありませんでした。

 第一世代の『電脳学園』シリーズで脱衣ゲーム。

 第二世代のアドベンチャーゲーム・シリーズが、『サイレントメビウス』『ふしぎの海のナディア』。

 アドベンチャーゲームは、映画とか漫画に近い物もので、実はゲーム性は低いんですよ。
 クイズ・ゲームより低いくらいです。選択肢があるからゲームみたいに見えるんだけど、間違った選択肢はすべてダミーですから、実は決まった絵を順番に見せるだけなんです。

 結局、ストーリー性でひっぱっていくしかない。
 アニメ出身の僕らにしてみれば、得意で当たり前とも言えます。
 絵コンテの状態で完成度を上げていけばいいという、ゲームとアニメのハーフみたいな、不思議な物だったんですよ。

 第三世代はそうじゃなくて、もっとコンピュータゲームでなければ出来ないようなことをやろうと言って、始まりました。

『プリンセスメーカー』の企画のきっかけは、やっぱリクエストを取られるところから始まるんですよ。

 いつも赤井君が「岡田さん、何かやりたいですか」って聞いてくる。
で、僕が「いやあこんなゲームが欲しい」って言ったら赤井君がそれを、まあ、意外な方向に回転させて作ってくれるんですよ。

 『電脳学園』で言えば「岡田さん何がしたいですか」って聞かれたときに僕は「『はっちゃけあやよさん』みたいな、脱衣ゲームでもっと面白いのがやりたいよ」って言ったわけです。
 そこで、脱衣ゲームという部分をどんどん進化させたようなものを赤井君が作ってくれました。

 第二段階でも赤井君が、
「岡田さん、どんなのがやりたいですか」
「いやリバーヒルソフトみたいな本格的なアドベンチャーゲームがかっこいいからやりたい」
 と言ったら、赤井君から「リバーヒルソフトみたいな、大人っぽいんだけど実はユーザーが望んでないような物じゃなくて、もっとアニメファンが心から楽しめる物にしよう」って言って作ってくれたわけです。

 だから第三段階の時には、「どこそこみたいなゲーム」じゃないのを考えました。
 僕たちがいつもこだわってる女の子。
 その女の子の生涯をシミュレーションできるような作品が見たい。

 「女の一生というのをゲームに出来ないか」と僕は答えました。
 「男として生まれたから、女の子というものがどうもよくわかんない。女に生まれて死ぬというのはどういう事なのか、ゲームで味わってみたい。女の人生、一生というものをそのままゲームにすることは出来ないのか」ってリクエストしました。

 そうしたら赤井君、「うーん」と考えこんでるんですね。
 実は赤井君の方にはやりたいゲームがすでにあったんです。
 赤井君は『信長の野望』が大好きなんですが、その中の戦闘シーンが邪魔でしょうがない。『信長の野望』で、部下を鍛える教練の部分だけでゲームを作りたい。なんとかゲームにできないのかと考えていたんです。

 初めてそれを聞いたとき、僕は「なんじゃそれは!」と思いました。突拍子もない事です。
 『信長の野望』は戦闘シーンがメインのゲームです。部下を鍛えるのは、その準備にしかすぎない。そんなものがゲームになるのか、と思いました。

 それをゲームにするだけでも難しいのに、「おまけに岡田さんが言ってる『女の一生』というのも足さなきゃいけないんですね」って言うんですよ。

「いや、それ無理に足さなくていいから」って言ったら、赤井君が「いやいや、一度決めたことですからやります」って。

「信長の野望」+「女の一生」って言いながらずーっと考えこんでしまった。
 週末ずっと考えて、翌週になると赤井君が晴れ晴れとした顔で「女の子を育てるゲームにしよう」って言い出したんです。

 これが日本で初めて、というより世界で初めて「育成シミュレーション・ゲーム」が出来た瞬間なんですよ。

 ここから『プリンセスメーカー』の外郭が決まっていったんです。
 まず、主人公が勇者であって男性であるというのは、ユーザーが主に男性一般であるからそこは変えられないであろう。
 いきなり主人公が「あなたは女の子です」「女の子としてどういう風に育って行くでしょう」というのは、ゲームとしてはとっつきにくい。

 そうじゃなくて、自分が父親になって女の子を育ててみる。
 それもリアルな父親だときついだろうから、戦争で親を亡くした子供を引き取って、父親みたいな気持ちで育てていく。
 小さな女の子がだんだん大人になっていくというゲームにしよう。

 それを聞いたとき、僕の方はすごく不安で、大丈夫かなあと思ったんですよ。

 赤井君が言うには「女の一生の六十年間をゲーム化するのは、この第三世代のゲームでは無理。それができるとしたら、ガイナックスがずーっとゲーム作り続けて行って、おそらく第六世代か第七世代になります。マシンも、二世代くらい変わったら可能かもわかんない。でも、今のところ、それは考えられない」。

 言われて、よくよく考えたら、確かに僕が元々言い出した、女の一生をゲームにするのは難しいです。

 かわりに、「女の子の一生を横で見ている」というカンジのゲームにしようということで企画始まったのが『プリンセスメーカー』です。

 当時は『プリンセスメーカー』というタイトルすらなくて、赤井くんはずっと『マイ・フェア・チャイルド』という仮題で話していました。
 「我が愛しき娘よ」とか「我が愛しき子よ!」みたいなタイトルです。

 仕様書の段階では漠然と理解していたつもりでしたが、制作がすすむに従ってゲームのシステムがだんだん飲み込めてきました。

 赤井君が言ってる『信長の野望』の戦闘シーンがないというのが、どんなものかもわかってきたのです。

 基本はシミュレーションレーション・ゲーム。コントロールするのは、女の子の一週間の予定表です。毎日の時間割を割り振って、その女の子のパラメータを上げていくだけのゲームなんですね。

 パラメータを上げていくだけでも、実は『信長の野望』オタクの赤井君はニタニタするぐらい嬉しいんです。
 でも、自分はニタニタするぐらい嬉しいこの感覚が、他人には伝わらないこともよくわかる。

 そこで仕掛けを考えました。勉強するとか、魔法の練習するとか、お掃除するとかいう選択をすると、画面隅に小さなウィンドウが開いて、その中で女の子が一生懸命動く。

 女の子がバイトしてお金を貯めたら、ご褒美に服を買ってあげる。すると画面上でもちゃんと女の子の服が替わる。

 女の子の年齢が上がるにつれて、少しづつグラフィックを切り替えていく。
 そういうビジュアル的な変化を付けていく。これやり出すと、必要なグラフィックが際限ない枚数になって行くんですね。

 第二世代の『サイレントメビウス』とかのアドベンチャーゲームなら、背景班とキャラクター班で、分業させて作れたんですよ。枚数自体はどんなに多くても、分業ができれば製作はコントロールしやすい。

 魅力的な絵が描けるスタッフはキャラクターを描いて、それ以外は背景を担当する。
 こうすると「魅力的な絵が描ける」という希少なスタッフの作業負担が軽減し、効率がUPします。

 極端なことをいえば、背景はパース(遠近法)が取れる人だったら誰でもいい。
 多少は画力がなくても、正確な線が引ければいい。
 『マンガ夜話』でいしかわじゅんが言うところの、「いい絵じゃないけど、上手い絵」で十分なんです。
 画力が凄くあったら、味がある絵とかいい絵が描けます。
 でも、画力がそんなになくても、練習さえして、パースをちゃんと取ったら、ある程度上手い絵は誰でも書けるんです。

 でも『マイ・フェア・チャイルド』は動きもあるし、全てのキャラクターが可愛く見えなくてはいけない。
 だから本当に上手い人にしかグラフィック頼めない。
 結果、作画枚数を増やすにも限界がある。
 なのに、細かい動きがいっぱいあるわけです。

 そこで、どれくらいウインドウ小さくして処理できるのかという部分に苦心しました。

 延々と作業が進んで、ゲームがベータ版みたいな状態まで完成したところで、タイトル問題が浮上しました。

 僕は『マイ・フェア・チャイルド』というタイトルがあまりにもど真ん中過ぎるし、主人公がいい人過ぎる。
 ハウス食品提供の『世界名作劇場』★みたいで、それはヤだなぁとは思っていました。

 なによりタイトルが覚えにくい。一年以上の製作期間、ずっとぼくは「ええと、なんだっけ?」と思い出してから口にしてました。
 だからずっと、タイトルは変えなくっちゃと思っていたんです。

 ゲームがほとんど完成した段階で、あいかわらず僕が「タイトルどうしよう」と悩んで赤井君が「マイ・フェア・チャイルドでいいじゃないですか」って返す中、いきなり思いつきました。

 ゲーム目標はプリンセスになることだから、プリンセスメーカー。
 目標と題名が一致してる。だから覚えやすい。

 目を輝かせて赤井君に話すと、はじめて興味を示してくれました。
 それまで描いていたパッケージ案ラフの「マイ・フェア・チャイルド」という文字の上に「プリンセス・メーカー」と簡単にレタリングした紙を載せて「いいかもしれませんね」と言いました。

 また、ゲームのラストを決めなきゃいけないのもこの時期です。
 ゲーム目的は「プリンセスになる」だけど、このゲームはそれだけを唯一の正解にしていません。
 
 マルチエンディング、すなわち「いろんな人生があることの肯定」が言いたかったテーマそのものです。

 女の子の育て方で、魔法使いになったり学者になったり、平凡なお母さんになったりする。
 運が良ければプリンセスになっちゃうかもしれない。
 どんな人生であっても娘が幸福でありさえすれば、父親であるプレイヤーはうれしい。

 でも、幼い頃にこの娘が望んでいた「お姫様になりたい!」という夢を、親としては叶えてあげたい。
 これが『プリンセスメーカー』のテーマです。



プリンセスメーカー
サイバーフロント
2004-04-28


プリンセスメーカー2
サイバーフロント
2004-09-30

 






otakingex at 18:00コメント│ この記事をクリップ!
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