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2012年07月28日

【赤井孝美特集】えっちゲームなら、ガイナックスの独占市場です

わが社はアニメ業界では最強ではありません。が、絵、特にパソコンユーザーが見たいと思っている『かわいい女の子』に関しては、超一流のスタッフ揃い。我々の実力で絶対に勝てます。


7/25に1時間半の超拡大版で放送されましたニコ生シンクタンク 【就活特集】憧れ産業はオワコンなのでしょうか 
赤井孝美監督との対談、お楽しみ頂けましたでしょうか?

「アニメ業界に就職するには?」という問いから視点を広げて、「アニメで食うためには?」「食いながらアニメを作るためには?」という発想で「戦略的なお話」が展開されました。
就活で悩んでいる方には、福音になったのか、引導になったのか・・・
新しい価値観で解決策を見つけるきっかけになって頂ければ幸いです。

そんな対談を記念した【赤井孝美特集】、第三弾は週刊アスキーの連載コラム「ま、金ならあるし」【パソゲー開発】をお届けします。

赤井孝美の言う「絶対に勝てる場所」は、岡田の想像をはるかに超えたものでした。
そしてそれは、ガイナックスにかつてない資金を、パソコン業界に新しい潮流をもたらすことになります。

天才軍師「赤井孝美」の活躍が、今、始ります!

【パソゲー開発】#1

「金がないなぁ」
ガイナックス社長・僕は毎日ぼやいていた。今を去る十ン年前の話だ。
いつも同じぼやきを聞かされるのは、赤井孝美。その頭脳から出る戦略や作戦は恐ろしいほど当たるんだけど、哀しいかないつもお金には縁がない。

「金がないですか」
「ない。もう本当に今月末はない。給料も払えない」
「どうしてそんなに、金がないんでしょうねぇ」
赤井の話はいつも本質から入る。「どうすれば儲かるか」ではなく、まず原因を考えさせる。

「そりゃ凝ったアニメ作っちゃうからじゃないの?」
「じゃあ、凝ったアニメ作ってる会社はみんな倒産してますか?」
「倒産はしてないけど、どこもみんな苦しいと思うよ」
「それなら、アニメを仕事にしなきゃいいんです」
赤井はシレっと言い放った。

「アニメをやめろと言うのか?」
「そんなこと言ってませんよ。庵野や貞本、山賀は我が社の宝です。手放すなんてとんでもない」
「でも、アニメをやめろと・・・」
「仕事にしちゃダメなんです。アニメは趣味で作りましょう」

とんでもないことを言い出した。しかし、こういう時の赤井はレッドゾーンまで頭脳が回転中、と長年の付き合いで知っている。しばらく彼の話を聞こう。

「なぜ、我々がもうからないのか?答えは簡単です。アニメ制作で儲けるのはムリなんです。アニメ業界は、儲けることが難しい構造になっている」

僕は大きくうなずいた。『王立宇宙軍~オネアミスの翼』は破格の製作費として三億六千万円ももらったが、三億八千万円使ってしまった。
赤字を取り返そうと受けた仕事『トップをねらえ!』の時は、慎重に予算管理した。それでも一話千五百万円をきっちり使い切ってしまった。

赤字になる依頼は受けない、と仕事を選んだら、仕事自体がなくなってしまう。
仕事はしなくても社員に給料は払わなくてはいけない。
スタジオ家賃や給料ぜんぶあわせて、毎月二千五百万は何もしなくても消えてしまう。アニメ制作は、本当に儲からないのだ。

「ゼネプロのグッズ制作もたいして儲かりません。原価率が高いからです。数もたいして出ない」

僕は、またも大きくうなずいた。
原価千五百円のTシャツを二千三百円で売っても、荒利は一枚八百円。大ヒットしても千枚、儲けは八十万だ。
マグカップの原価は三百円、定価千二百円で荒利は九百円。売れてもせいぜい五百個、儲けは四十五万程度。
これだけでは、赤字部門のアニメ班を支えられるわけがない。

「でも岡田さん。パソコンゲームの原価を知っていますか?フロッピーディスク一枚百円。説明書とパッケージで最大二百円」
「あわせてたった三百円?」
「それを秋葉原では四千八百円で売れます」

じゃあゲーム、作ろうよ!と叫びかけて思いとどまった。素人の僕たちにゲームが作れるわけがない。
「大丈夫。策があります」
天才参謀・赤井孝美の目が光った。

「名付けて、ゲーム業界・天下三分の計」
背筋がぞくっとした。ゲーム会社ガイナックスの誕生した日だった。


【パソゲー開発】#2

「パソコンゲーム業界でいま一番ヒットしてるゲームとは?」
「大戦略と信長の野望だろ?」
考えるまでもない。発売すれば数万は売れる超ベストセラーだ。
「わかった!つまり戦略シミュレーションゲームを作ろうと・・・」

「まさか」と赤井は嗤った。「ガイナックスにあんな高度なゲームは無理です。少なくともあと数年は。しかし」
「しかし?」
「高度でなくても売れているゲームはあります。これです」

赤井が取り出したゲームに僕は目を疑った。粗悪なエロゲームだ。
とてつもなく下手くそな女の子イラストがパッケージに描きなぐってるだけ。
中身と言えばスカスカの、小学生レベルのクイズに答えたり、アドベンチャーと言うも恥ずかしい選択肢を選んでるうちに画面の女の子が脱いでくれる、あのエロゲーム!

「エロゲームじゃないか!こんなの売れるはずないよ!」
「売れてますよ。現に岡田さんパッケージ見ただけでエロゲームってわかったでしょ?買ったことあるでしょ?」
「あ、うん・・・」
「僕も買ったことあります。たぶん、みんなこっそり買ってます」

「でも、せっかくガイナックスがゲーム業界に参入するなら、もっとちゃんとしたゲームで」
「ちゃんとしたゲームには、ちゃんとした予算が必要ですよ」
社長室のホワイトボードに赤井は数字を書き出した。

「信長の野望を作るには、何人が何ヶ月かかるでしょう?少なく見積もっても10~15人。ゲームバランスの調節やデバッグを含めると二年は必要です」
赤井はマーカーで 10~15人×15~24ヶ月、と書く。

「プログラマーとゲームデザイナーには月給50万、その他には月20万で働いてもらうとします。これでも格安の条件ですよ」
50万×2名×15~24ヶ月=千五百万~二千万円
20万×8~13名×15~24ヶ月=二千四百万~六千二百四十万円
マーカーの音がやけに響いた。

「ちゃんとしたゲームには音楽や分厚いマニュアル、綺麗なパッケージも必要です。初期投資に最低五千万~八千万円。社運をかけた勝負に出て、一万個量産したら一個あたりの原価は?」
「五千円から八千円・・・」
「その通り。まったく儲かりません。つまり立派なシミュレーションゲームとは、『絶対に売れる実績ができるまでは手を出してはいけないジャンル』なんです」
「・・・ダメなのか」

「ところが、エロゲームは違います。プログラムは中学生並み。グラフィックは岡田さんの落書き以下。音楽は無し。必要スタッフは四人かな?僕と岡田さん、あとプログラマーとグラフィック二人いれば一ヶ月でできるはずです。開発費、百万かかりませんよ」

「でも、エロゲームってそんなに売れないんじゃないの?」
「そこで『天下三分の計』です」
赤井は数式を書き殴ったホワイトボードを消し、巨大な円を描いた。
「これがゲーム業界すべてです。『大戦略』も『信長の野望』も『イース』も『夢幻の心臓』もすべて、この丸の中に含まれます。そこで・・・」
息をのんで赤井の言葉を待った。
「この横に小さな丸を描きましょう」


【パソゲー開発】#3


時に一九八九年。アニメを作っても作っても赤字の額は増える一方。困り果てたガイナックス社長の僕に、赤井孝美は奇策を授けた。

「大きな丸がマジメなゲーム業界。『大戦略』も『イース』も含まれます。そして隣の小さな丸が、エロゲーム業界です。二つの業界は接点がない」

僕はうなずいた。今からは考えられないが、当時のゲーム業界は超マジメ。「女の子の裸」とか全然なしだった。

「しかしこれからは違います。ビデオデッキが普及したのもアダルトビデオのおかげ。パソコンがマニアだけのもので無くなる時代が来るなら、そのキッカケは、やはり女の裸でしょう」
「やっぱりエロゲームを作るの?」
「違います。マジメゲームとエロゲーム。どっちも不完全です。マジメゲームはマニアックで、次々と参入してくる初心者にはハードルが高い。エロゲームは裸だけがウリなので、パソコンというIQ高いジャンルに参入してくるシャイボーイたちには、下品すぎる。第三番目のジャンルが必要なのです」
「三番目・・・」
「えっち、です」

いきなり脱力した。え、えっち?
「マジメでもエロでもない。さわやかな裸。教科書ではないけど、アサヒ芸能の温泉芸者グラビアでもない。BOMB!とか『すっぴん』とか、岡田さんもしょっちゅう買ってるアレです」

なるほど。それなら話がわかる。
たしかに既成のエロゲームに出てくる女の子は、なんか小汚い。女の子の裸が出てくるだけで売れるから、グラフィックも手を抜いたものばかりだった。

「ゲーム業界にガイナックスが参入するなら勝機はどこにあるか?ゲーム性やプログラミングでは勝てない。我が社がパソゲー業界で対等以上に戦えるのはグラフィックの分野、それも『可愛い女の子のちょっとえっちなポーズ』描かせたら敵なんかいませんよ」

ホワイトボードに描かれた大きな丸「マジメゲーム」と小さな丸「エロゲーム」の間に、赤井はもう一つ丸を加えて「えっちゲーム」と書いた。

「パソコンを買った人は、必ずゲームを買います。彼らは一本目にはマジメゲームを買うでしょう。
でも同時にもう一本買うとしたら、二本目のゲームは?
肩の凝らない気楽なゲーム。今夜、すぐにプレイできるゲーム。それでいて、レジで売り子に渡すときにエロゲームほど恥ずかしくないゲーム」
「えっちゲームか!」
「そうです。わがガイナックスの独占市場ですよ」

・・・すごい。やっぱり赤井は天才だ。
「これまでは『光のマジメゲーム』と『闇のエロゲーム』しか世界には存在しませんでした。しかし今この瞬間より薄闇のゲーム、夕暮れのえっちゲームが生まれました。ゲーム業界は三つが覇を争う時代になったのです!」
「をを!まさにゲーム業界・天下三分の策!」」

感心したら、逆に不安になった。
「でもエロゲーム、売れないだろ?」
「本格的シミュレーションゲームに比べたらですよ。目標を三千本にしたら充分儲かります」

ホワイトボードで検算した。
売り上げ:定価八千八百円×三千本×掛け率50%=千三百二十万円
経費:開発費百万+量産費五百円×三千本=二百五十万円
粗利=売り上げ-経費=千七十万円
あ、これは儲かる。よし、えっちゲームを作ろう!



【パソゲー開発】#4


マジメゲームと、エロゲームしかないパソコンゲーム業界に「えっちゲーム」というソフト路線を盛り込もうと決意したガイナックス。
たった二人のゲーム事業部、僕と赤井は二日で企画と仕様を決め、せっせと作り出した。
とにかく簡単にできるのが目的だ。
お約束の「クイズに答えたら女の子が脱いじゃう」でかまわない。
この単純なゲームのグラフィックやセンスをひたすら上げていけばいい。

僕の担当は「読むだけで面白いクイズ問題と解答」、赤井は「中学生男子なら漏らしそうなエッチな絵」だ。

プログラムには「経験がある」という知人を何も聞かず雇った。
僕にプログラマーの優劣を見分ける目がないんだから、それがせいいっぱいだった。

「本当にこれで売れるのか?」
赤井はマウスで器用に乳首の色を塗りながら答える。
「大丈夫ですよ。ことグラフィックに関してはパソゲー業界はオーストラリア大陸ですから」
「?」

赤井の説明によれば、こうだ。

オーストラリアの自然は、閉ざされた環境で独自の進化を遂げたので、有袋類が食物連鎖の頂点にいる。
有袋類最強の生物はフクロオオカミだ。
ところがこのフクロオオカミ、オオカミではなく小さめの犬にすぎない。
オーストラリアで一番強い生物は犬以下。ライオンもトラもハイエナもいない。だから犬が最強なのだ。
ユーラシア大陸から豹とかが渡れば、必ずそいつが最強の生物になれる。

「ここまでいいですね?」と赤井。
「ゲーム業界はオーストラリア大陸です。プログラム好きの理系が集まってゲーム性を追求し、独自の進化をとげました。その結果、グラフィックに関しては異常に弱い。
対してわがガイナックスはアニメ業界では最強ではありませんが、それなりの実力をもっています。絵、特にパソコンユーザーが見たいと思っている『かわいい女の子』に関しては、超一流のスタッフ揃い。オーストラリアに進出すれば、彼の地のグラフィックはフクロオオカミ同然です。我々の実力で絶対に勝てます」

なるほど!思わず膝を打った。
「そうか!僕たちの長所を生かしたゲームを作ればいいんだ!」

舞い上る僕に赤井は釘をさす。
「ゆめゆめゲームを作ろうと思っちゃダメですよ。ゲームを作る実力は、今の僕たちには全然ない。
ゲームと呼べるものを作るのは、あと数年は無理です。
いまできるのは、モニター画面にすごくかわいい女の子のアラレもない姿を見せて、それをユーザーにゲームだと信じ込ませることだけです」

僕は、赤井の言葉をかみしめた。
「俺たちの作るゲームは偽物なの?」
「マジメゲームとしては偽物でしょう。でもえっちゲームとして超一流を狙いましょう。卑下して自分たちを安売りしてはダメです」

「わかった。じゃあゲームの定価は八千八百円にしよう」
「・・・本気ですか?」
「本気だよ。一流メーカーはその値段でゲーム出してるよ。僕たちもえっちゲームとしては超一流の内容を出すんだろ。だから、お客さんが八千八百円払って買っても怒らない。それどころか『さすがガイナックス』『次回作も買うよ』と言ってくれるゲームを考えてよ。どうせ作るんだったら、売り逃げじゃなくて値打ちのあるゲーム作ろうよ」
赤井は腕を組んで考え込んでしまった。


【パソゲー開発】#5


時は一九八九年、天才赤井孝美の「ゲーム業界・天下三分の計」に乗ったガイナックスは、いよいよパソコンゲーム業界進出を決意する。

「大戦略」のシステムソフト。「イース」の日本ファルコム。「ハイドライド」「遙かなるオーガスタ」のT&Eソフト。「ミッドガルド」のウルフチーム。「マンハッタン・レクイエム」「琥珀色の遺言」のリバーヒルソフト。

綺羅星のごとく輝くこれら超一流メーカーは当時、どんどんゲームを巨大化させていた。
5インチ・フロッピーディスク二枚や三枚組は当たり前。ゲームのオープニングだけでフロッピーをまるまる一枚使うゲームが持てはやされていた。
それらのゲームは歴史シミュレーションやファンタジーRPGの大作。いわば「中身のある」ゲームだから過剰な演出も許されていた。
しかし、その渦中に我々が投入するのは、女の子のエッチ画像だけでフロッピー四枚も必要とする大馬鹿ゲームだった。
「たしかに大馬鹿かもしれません。でも、ちゃんと綺麗な絵をパソコン画面で再現するのは難しいんですよ」と赤井は美少女の乳首を塗りながら言った。

そのとおり。
当時のパソコンゲームでは使える色が少なかった。基本色は8色~16色。それを混ぜてパレットを作る。
絵ごころのない人やセンスのない人はパレットを作らずに基本色を塗るから、ひどい色使いになる。
どピンクの肌に黄色や緑といった原色の髪の毛。
まだ「美少女ゲーム」という言葉すら生まれてない時代、そういうキャラが唯一パソコン画面に住んでいる女の子だったのだ。

真っすぐ立ってるポーズを真っ正面から描いてる。なのにスカートがめくれてパンツだけは見えてる。ありえない構図だ。ゲーム中には絶対に「パンチラ」か「ブラジャー見せ」か、「おっぱいポロリ」がある。あるにはあるんけど、なぜかまったくうれしくない。

それに比べて赤井の描く女の子の可愛さとエッチさときたら!
慎重に配色したパレットから選んだ乳首の色は自然で無理がない。
メラニン色素の少ない色白の女の子の乳首はこうだ、という中学男子の祈りがいっぱい詰まったような絵だった。

もちろんゲーム内には複数の女の子が登場し、ひとりごとにメラニン含有量や脂肪層の厚みまで討論しぬいて乳首の色はこだわった。
色黒の女の子や陽に灼けた女の子の乳首も描き分けた。
僕が担当していたテキスト部分、メインのクイズも進んでいた。
当時、アニメやSFの雑学クイズなど探してもなかった時代だ。
このゲーム部分のプログラムだけでも、ガイナックス社内スタッフにはハマる者が続出した。


以降、連載は、「パソコンゲーム誌コンプティーク副編集長Sさんのエピソード」へと 続く


ライター:のぞき見のミホコ






otakingex at 18:00コメント│ この記事をクリップ!
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