シャアのガルマへの友情を認めたテレビ版を富野監督は封印したがっているのだろう。
「もっと自分は、シャアは強くなければいけない」
テレビ版のガンダムにはシャアの、冨野監督の本音が詰まりすぎているのだ。
今回は岡田斗司夫の同人誌「BSアニメ夜話裏話」に掲載されている日記をご紹介します。
BSアニメ夜話「機動戦士ガンダム」の放送で、岡田が何を語ったか、あるいは何を語りたかったかのレポートです。
心の奥まで一気に切り込んでいくような富野由悠季論は、「作り手」と「受け手」という関係を超えた、「制作者」と「評論家」と言う立場を超えた、熱い思いを感じさせます。
「今の富野監督にとってのガンダムより、自分が受け取ったガンダムが、ホンモノ」という主張は、二次創作が当たり前の現在、ようやく「奇異」にみえなくなってきた気がします。
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2004-10-11
・そのまま続けて『機動戦士ガンダム』編の本番に入った。
今回はゲストからそれぞれ自分の一番お気に入りのシーンを選んでいただいてそれを語る、という形式。
これだったらパネラーさえ入れ替えればあと何回でもガンダムができる、というわけだ。
よゐこの有野さんは、あまりの濃い話の連続にもうすっかり観客モード。
私は正月にガンダムを一気見してからずっと気になっていた「シャアはガルマに対して、自分で思っていたよりずっと友情を感じていた」という持論を展開した。
・別にボーイズラブ的な意味ではないけど、あの「坊やだからさ」という名セリフも「俺が坊やだから、ザビ家への復讐にこだわってしまった」と受け取れば、さらにガンダムの世界は奥深くなる。
その時にスタッフや冨野監督がどう考えていたかは関係ない。
いかに面白く読み解くか、は我々視聴者に与えられた権利であり、それが作品に新たな意味や命を吹き込む。
古来より長く人々に愛された物語とはすべて、その時代々々の解釈・異読を許容し、それによってまた語り継がれてきたものばかりではないか。
・シャアのセリフはニヒルに聞こえるので、どうしてもそういう皮相的なカッコよさだけが見えてしまう。
しかし人はそれほど単純ではない。士官学校でずっと「友達ごっこ」を続けたガルマを「親の敵」と憎もうとしても、ふと気がつけばシャアの青春時代はその憎い敵との思い出ばかりではないか。
シャアが切り捨てたかった「弱さ」とは、そういう感傷的な自分であり、切り捨てられたと思っていたからこそ、復讐の後の奇妙なむなしさにいとまどいを感じたのであろう。
親の敵を討つような男である。本来のシャアは感情家であり、冷徹な計算機でも何でもない。
だから最後のアムロとの剣劇であれほど混乱し、生涯最後のセリフはガルマへの呼びかけになったのだ。(私はテレビ版こそガンダム本来の姿だと思っているので、シャアが生き残る劇場版や続編は認めていない)
・その姿は「私はシャアだ」と語る冨野監督その人と重なる。弱い自我を隠すように組織に属さず一匹狼のコンテマンとしてさすらい、「ロボットアニメなんか大嫌い。作りたくない」と叫んでいるのは、シャアの「坊やだからさ」と同じで、けっして本音ではありえないのだ。
・だから、シャアがガルマへの友情を認めたテレビ版を冨野監督は封印したがっているのだろう。テレビ版のガンダムにはシャアの、冨野監督の本音が詰まりすぎているから。もっと自分は、シャアは強くなければいけない。そうだ、ザビ家への復讐は楽しかったし、地球の重力に引かれる奴らは間違っている。劇場版やΖ、ΖΖ、『逆襲のシャア』はそういった「本当の自分をごまかした作品」だ。ガンダムを忘れようとした作品なのだ。だから私はガンダムとして評価しない。アニメとしては面白いと思うが、これはあのガンダムではない。
・マニアの間では私のように「テレビ版こそ正しいガンダムだ」という人間をファースト原理主義者と呼ぶらしい。そういうレッテルを貼ってなにかわかったつもりになっているのか。
考えてみればよい。
シャアはラストで死ぬしかなかった。
いくら復讐のためとはいえ、彼は殺しすぎた。
ザビ家だけでなく、ガルマを愛したイセリナや、ガルマと同じガウ攻撃空母に乗っていた、ジオンの大義を信じた兵士たちまで、謀略で死に追いやった。
だから作家としてそういう登場人物に、最後に大義と死に場所を与えた冨野監督のその時の判断は正しい。
・しかしその後の冨野監督は、自ら作ったものの意味さえ見失い、生き延びたシャアは自分の手が汚されていることを忘れてしまう。
Ζや続編、逆シャアでも、シャアはララアを思い出してもガルマは思い出さない。
そんなシャアは抜け殻だ。
それをわからない監督を抜け殻だと私は思う。
だから私にとって、ガンダムとは最初のテレビシリーズのみで成立した奇跡の作品なのである。
ライター のぞき見のミホコ
資料提供・文字起こし 4月筆頭・安井(クラウド市民)