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2012年06月12日

【ガンダム】小説版あとがきで、富野監督との出会いを語る!

映画をつくるという作業のハードさ。
そしてその頂点にいるという、気の狂いそうな孤独と不安。
絶対の自負心と完全な自己否定。


もちろん僕はそれを知っているべきだった。
富野監督は、同じアニメ界の者として僕に矛盾した言葉を投げかけてきたのだ。


角川スニーカー文庫『機動戦士ガンダムⅡ』 あとがき より

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小説版ガンダム(富野由悠季)Ⅱ巻のあとがきを、岡田斗司夫が担当しているのを存知です?
少なくとも、今の岡田斗司夫ファンでご存知な方は少ない気がします。

初版 昭和62年11月。
「王立宇宙軍、オネアミスの翼」公開が3月ですので、ちょうどその半年ほどあとのエピソードのようです。

作家「岡田斗司夫」誕生よりずっと以前です。
文体がどことなくサブカルっぽいのも、時代を反映しているのでしょうか?
そう言えば、あとがきの中でもふれられている「アニメック」でも、「ためになるゼネプロ講座」などを連載をしていましたね。

富野監督とのこのリアルの出会いの強烈な思い出が、岡田斗司夫が語る「富野由悠季」論の中心に常にある気がします。
この「あとがき」では、まだ整理されていない熱くゆれる思いがそのまま放りだされるように語られていて、興味深いです。



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最初に約束しよう。つまり、これから何ページか、解説という文章が印刷されている。
し君が、あのいわゆるアニメファンではなく、たまたまガンダムの原作本を読みたいなと思ってこの本を買って、このぺージを開いているなら、もう読むのはやめなさい。

これから先は、いわゆる『アニメファン』でないと判らないギョーカイ用語や優越感が一杯のたいへん見苦しいページなのだ。
もし君が『ガンダム』に関して、あくまで一人の観客でいるのならば、この本はここまでと思うことだ。
なぜなら、僕は今から、僕や、僕の友達・仲間にしか判らない話をするからだ。あしからず。


さて、ここを読んでいる君。君はアニメファンなんだね?



もちろん僕は、君がなぜこの本をひろげているか知っている。
本屋の店頭で、なにげなく
気になった本だからバラバラ見ているんじゃないはずだ。
君はこの本の中に何があるのかは、あらかじめ知っている。
このカバーイラスト、タイトル、作者名が全てを物語っている筈だ。


もちろん君もそれに気がついてとの本を手にとった筈なのだ。


そう、これは、あの『アニメ』の本なのだ。


ここで注意!
結論を急いではいけない。
僕は君をからかおうとしているんじゃない。
冷やかして、貶めようとしているんじゃない。僕は知っている。
君や僕達が、どんなに注意して『おたく』『マニア』『暗い』『いまさら』なんて言われないようにしてきたかを。

僕はこの本の解説を引き受けた。

その時点では自信があった。
自分自身のなかで『ガンダ
ム』とは何なのか、アニメとは何なのか。云々。それを書けばいい筈だ。

過大な自信はこの世界の最大の悪徳というわけではない。
しかし、困った。


そこで僕は考えた。
この文章を読んでいる人に考えてもらおう。
それなら僕が『ガンダ
ム』について知っていることを並べるだけでいい。
小さい頃から親には要領だけはいいけどあつかましいと言われた僕にはぴったりの方法だ。


僕たちはマイナーリーグに所属している。
メジャーっていうのは車とか、スキーとか、音
楽とか、フィットネスとかその他、となりで誰かが話していても君が話題に入れないやつのことだ。
いや、勿論入るだけならできるだろう。
しかし、君の心の中に何か餓えたものが残るだろう。
否定してもしょうがないことだ。
僕たちはそういう人間なんだから。

もちろん僕たちがそういう人間である事を誇れた時代があった。
一九八一年の二月に行わ
れた『アニメ新世紀宣言』がそうだ。
(恥ずかしくても最後まで読む事。書いてる僕はもっと恥ずかしい)
僕はその時、大阪にいたので、そのイベントに参加できなかった。
なんでも
新宿東口アルタ前という広場に二万人近いアニメファンが集まったという。

その熱気たるや凄まじいものだったという。

当時の僕はこれを聞いて、いささかの恥ずかしさを覚えながらも誇らしく思った。


『どうだ。
SFだのアニメだのと、いままで認められなかった文化が市民権を獲るために動きだしたぞ。さすがにヤマトじゃ恥ずかしすぎるがガンダムだったらいける』


きっとあと十年もすると泉麻人みたいな奴が
TVで『ミノフスキー粒子が云々』なんて語っている筈だ。



ガンダムが教えてくれた幾つかの事実。

l、リアルなメカはかっこいい。

2、リアルな戦争はかっこいい。
       (落ち着いて! ここは朝日新聞日曜版じゃない。知り合いしかいない。『ガンダムは戦争アニメ』と言われる心配のない場所だ)

3SF野郎はアタマが固い。
       (例の高千穂遥のSF発言だ。あの当時、僕たちSFファンは肩身がせまかった。何てったって日本中の大学SF研ではガンダムブームだったのだ)

 


ガンダムが教えてくれなかった幾つかの事実。

1、どんな祭りもいつかは終わる。

2、以上終わり。

 


一九七九年、ガンダムの放映が始まった。
そして戦争アニメ論争も同時に始まった。つま
り『機動戦士ガンダムはストーリー的面白さの中心は戦争シーンだ。これは戦争的なものを肯定するアニメである』という意見と『ガンダムにおいて製作者は、反戦的姿勢を貫いている。
これを戦争アニメと呼ぶと大人たちに誤解されてしまう』という意見が大真面目に戦っていた。


当時の僕を含めてのアニメファンのホンキさ加減をつたえるのはむずかしい。
今、考える
とガンダムが戦争アニメかどうか、なんて、どーでもいい気がする。

 


一九七九年 一九八二年の主な大人向き本格派戦争。

ソ連・アフガニスタン戦争

イラン革命

中国・ベトナム戦争

ベトナム・カンボジア戦争

ナミビア独立戦争

ローデシア戦争

エルサルバドル内乱

イラン大使館事件

チャド内戦

イラン・イラク戦争

エチオピア内戦

アイルランド内乱

レーガン大統領暗殺未遂

東チモール独立戦争

ポーランド内乱

バングラデシュ内乱

レバノン戦争

フォークランド紛争

 


もちろん僕たちは、この戦場から送られてくる記録を熱心に見つめた。
次のアニメの爆発
パターンやミサイル発射パターンに使える!と踏んだからだ。

 


『バンダイ』という存在も君や僕たちの支持の中から生まれてきた。
一九八〇年以前のこ
のオモチャ会社はヨンパチスケールという田宮に対抗するためだけとしか思えないAFVデルや超合金の会社だった。
しかし、その会社がカンダムモデルを出すというので、僕たちは圧倒的に支持した。


ブームは過熱化し、まるでスケバン刑事のように、マイナーメーカーのバンダイはマニアの声援をうけて一気にメジャー化する。
それを僕たちはまるで自分たちの力がそれをなしたかのように、まるでアニメが市民権を得たかのように祝福した。
あとは御存じの通り、つまりレイズナーだ。


君や僕たちと一緒にボウボウと燃え上がったのがアニメ誌だ。
ニュータイプ創刊前の蜜月
時代。
君や僕たちは『メジャー・保守・アニメージユ』対『マイナー・革新・アニメック、
アウト』という構図を楽しんだ。
だれもそんな対立を本気では信じてなかった。
ただその両方に目を通すのを忘れなかった。

 


もちろん、今でもガンダムを評価してくれる人もいる。
ジェイムズ・キャメロン。エイリ
アンⅡのクライマックスシーンを『ガンダム・ムービー』と自称した。
喜んでいいのやら。

 


ともあれ当時の君や僕たちは、アニメについて正当な評価()を読もうと思うと、アニメ誌にたよるしかなかった。
アウトはみんなが同じムラにいるような共同幻想を与えてくれたし、アニメックはシオニズム
(ユダヤ人の選民理論、ジオニズムじゃない)のような甘い優越感をふりまいてくれた。


そしてアニメージュは保守党の機関紙みたいな安心感



話はかわるけど、どうしてアニメ誌はあんなに共存してて、そして減ったんだろう。
マク
ロスについてゆけなかったから?ナウシカを徳聞が独占したから?業界の冬?

どれもそうといえるし、それだけでもないだろう。
十年後の泉麻人に任せよう。


今、読んでいて一番エキサイティングな本は『アニメック別冊・ガンダム大事典』だ。
う懐かしい人名や固有名詞なんかがガバガバ出てきて楽しめる。
古本屋で見つけたらぜったいに買おう。
富野氏と編集者の会話がエグくて泣かせる!

(いやー、モスク・ハン博士とか、『ジンバ・ラルの息子、ランバ・ラル』とか連邦突撃紙パブリクだとか、ベルガミノの浮きドックなど、冷汗がでるほどイイ!!)

当時の僕たちはアニメを、ガンタムをいわゆる大人たちに認めさせようと必死だった。
まり真の文化として、だ。
しかし、認められたらどうなるのか誰も考えはしなかった。

子供たちだけがガンダムを認めた。
そしてその子供たちは日本各地のデアパートでガンダムプラモを求めて階段大雪崩という芸を披露してくれた。
この件についてはノーコメント。


ガンタムの次の神輿は『イデオン』になるはずだった。
これについては言いたい面白い話がいっぱいあるけど、別の機会に。


アメリカの
SF大会に参加して驚いた。
彼の地のアニメファンはロボットアニメという用語を使わずに『ガンダム・ムービー』と言っているのだ。
たしかに日本のロボットアニメを外国から一歩引いて観察すると、全部ガンタムに見えるのだ。


ひょっとしたら本当にそうだったのかもしれない。

 


僕自身は会社の仕事として新作・劇場版ガンタムのメカニック設定を手伝うことになった。

そこで初めて富野監督と話をした。以下はその抄録。


「あなた、『ガンダム』好きですか?ぼくは『ガンダム』なんかやりたくないの!キライなの! 何でロボットアニメなんかしてんの!でもね、そのキライっていうのは、ぼく自身の問題であって、大人として、仕事として、務めっていうのか、義務を果たすべきだと思うんです」


「つまり、ああ結局、富野のやつにはガンダムをやらせるしかないという判断が一方である。それはとてもくやしくってイヤなんです。でも大人として、仕事として、それをやるしかないって自分に決めたんです。わかりますか?」


その時の僕には判らなかった。
イヤな仕事なんだったらやめればいい。
そんなにして造った『ガンダム』なんか見たくない。
これがその時の正直な気持ちだった。

会話はまだ続いた。

「『オネアミス』ご立派でした。でも『ガンダム』は作品じゃないの。あんな立派な作品じゃないんです。ただの、本当に古臭いロボットアニメなんです。つまんないアニメなんで
す」

愚かにも僕は質問した。


「へぇ、『ガンダム』ってつまんなくて、やりたくないんですか?」


富野監督は激怒した。


「私の言うことをいちいち額面どおりとらないで欲しい。私にだって、どんなに小さくて
もプライドもあります。方法論も持っているつもりです。でもね、私、卑下しているんです。しなくちゃいけないんです!」


説明できるだろうか。
つまり映画をつくるという作業のハードさ。
そしてその頂点にいるという、気の狂いそうな孤独と不安。絶対の自負心と完全な自己否定。


もちろん僕はそれを知っているべきだった。
富野監督は、同じアニメ界の者として僕に矛盾した言葉を投げかけてきたのだ。
それは言葉として矛盾していても作品の中で
-テーマ的な繋がりをもつ。本来は観客が聞くべきではない叫びである。
観客は作品内でクリンアップされた発言を聞けばよい。

しかし、このページを見ている君も僕も、すでに観客ではない。
それは最初に約束したと
おりだ。
君と僕は、この富野監督の発言を聞いてもいい世界にいる。
すなわちそれはアニメ界というムラだ。
ようこ
そ。
初参加の方のために拍手を。

 


本当にアニメブームは終わったのだろうか?
アニメ誌がつぶれて、サンライズが『味っ子』なんかやっていれ.ば、そーいう気にはなる。
が、アニメブームなんて始めからなかったのかも知れない。

『ヤマトブーム』『ガンダムプーム』『マクロスブーム』『ナウシカブーム』という巨大な波が連続していただけ。

しかし、アニメはそのパワーを失っていないのかも知れない。


実写の日本映画はダメだ。
いや、いくつかの偶然作はある。
しかし、その平均点とアニメ
映画の平均点を較べると、いまだに日本が誇れる映像はアニメしかないのではないかと思えてくる。


ルーカスやスピルパーグやキャメロンがパクるのも当然だ。


つまりかつての日本映画が特撮技術を世界に誇り、特撮映画を誇っていたように、今、世
界に誇れる(世界に誇れる、という考え方もそーとー おかしいんだが)日本映画は結局アニメしかないのかもしれない。


海外のSFX映画を見て『ちくしょー、あんなの日本で作れないのかなー』と思っている人。
作れません。
二十年も前、アメ車を見て日本人技術者は『ちくしょー、あんなの日本で作れないのかなー』と思っていた。
そいでアメリカへ、最初は日本の得意な小型車の輸出を
始めた。
ところが、今や日本車が世界の主流になりつつある。
でも、今も日本車にはアメ車の魅力はない。

同じ事だ。


本当は僕たちアニメファンは、もっと顔をあげて歩ける筈だった。

電車の中でメージュやニュータイプが堂々と広げられる筈だった。
しかし、今はそうじゃない。

だからといって虚ろに笑いながら、かつて自分が熱中していた物を棄ててしまえるわけじゃない。

『ガンダム』はいい。
素晴らしいロボットアニメであり
SFアニメだった。
それは誰よりも君や僕たちが信じたものであり、その価値のある作品だった。


来年か、再来年、もう一度あの『アニメ新世紀宣言』をやってみないか?


僕がガンダムについて君に言えることは以上で終わりだ。
感情的な部分もあるし、自分で
もびっくりするぐらい醒めている部分もある。
イヤミな文章だと思った人も多いだろう。
ま、しかしそのどこかで不快になってもゆるしてほしい。

なにせ君と僕は、あの『アニメフン』なんだから。

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ライター:のぞき見のミホコ






otakingex at 18:00コメント│ この記事をクリップ!
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