4月10日に開催された朝日新聞主催の講演会「よりよく生きる――be10周年 読者とともに」 。
本日の朝日新聞朝刊に、当日の講演内容のまとめが掲載されました。
掲載されたのは、1時間弱の講演を、朝日新聞編集部が90行にまとめたものです。
せっかくですのでこちらのブログでは、当日の講演会の音源を、まるまる公開したいと思います。
お時間あるときに、ゆっくりお楽しみください。
この講演を、そのまま文字に起こしたものも作成しました。
お急ぎの方は、こちらをお楽しみください。
と言っても、2万文字近くとかなり長いです。
前編、後編、二つに分けてお届けします。
また、当日までの新人スタッフ奮闘記 も公開中!
併せてお楽しみください!
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(みなさまお待たせいたしました。それでは再開させていただきます。
後半の部は評論家・岡田斗司夫様より「メイキングオブ悩みのるつぼ」と題しまして、ご講演をお願いしたいと存じます。
それでは、お呼びしましょう。岡田先生、よろしくお願い致します。)
ポストイットっていう、付箋なんですけども。そこにいっぱい貼ってあります。
で、ちょっと、かなり多くてびびってます。
みなさんがトイレ休憩に行かれる前までは、7枚くらい貼ってあったそうなんですね。
で、楽勝楽勝!って思ってたんすけども、やばいっすね。
ちょっと場所入れ替えします。こんな感じのほうが見やすいかな。ここ本当はこういうふうに、みなさんにまっすぐ向けなきゃいけないんですけども、自分が話しやすいようにちょっと斜めに置いたりします。
はじめまして、岡田斗司夫です。よろしくお願いします。
ありがとうございます。
悩みのるつぼというですね、朝日新聞で毎週土曜日のですね、人生相談コーナーというのの回答者の一人を担当しております。
なやみのるつぼを読んでるよ、という方、ちょっと手を上げていただけますか。おお。ありがとうございます。
ぶっちゃけ正直な話を聞きます。
上野千鶴子の回答が一番好きだという方。ちょっと手を挙げてください。
はーいもうさっさと降ろしてください。はい、分かりました。心折れない。
なんでですね、なんでというか自分自身の自己紹介からしないとだめですよね。
僕はもともとはアニメを作る人間、だったんですね。
新世紀エヴァンゲリオンというですね、大分まえに大ヒットしたアニメなんですけど、それを作ったガイナックスという会社がありまして、それの初代の社長をやってたんですよ。
で、初代の社長ということは、もう本当に自分たちで会社作ったわけなんですけども、大阪で8mmでアニメ作っていて、まだ僕が25歳くらいのときです。で、東京に行って一旗あげようぜ、っことで当時の友達を全部連れてきて東京でアニメを作って。
でその後、まあ劇場アニメを作ったあとで、今度あのNHKでもまた再放送が始まる「不思議の海のナディア」というですね、海洋冒険SFアニメを一年間やらせてもらって。その後ですね、会社の経営が火の車になりながらもなんとかやってきた。
僕が辞めた後でエヴァンゲリオンが大ヒットしたからですね、僕は会社は作ったけれども大したいいことしたわけではないという人間なんですけれども。そういう人間です。
それだけの人間がまあ別に朝日新聞で人生相談の依頼が来るわけではなくて。
じゃあアニメ作ったあとで東京大学で非常勤講師として、オタク文化論というですね、アニメとか漫画とかゲームとか、たぶん皆さんより皆さんの子どもやお孫さんが好きなものだと思います。アイドルとかも含めてですね。ゲームとか。そういうものを教えるっていうふうなことを2年半くらいやってました。
で、その後でですね、ちょっと人生の生き方が変わってですね。
その当時僕120キロくらいあった体重をダイエットでがーっと減らして、レコーディングダイエットって自分で考えた方法なんですけれども、それでですね体重をですね1年半くらいでですね、55キロくらい落としたんですね。
で、それでまたちょっとテレビとか出るようになってですね。徹子の部屋に呼ばれ、あの難しい徹子さんを、質問に答えるなどしてですね。
たぶんそこら辺がいくつか重なってきて面白いと思われたんでしょうけども、悩みのるつぼというとこの回答者にならないか、と言われました。
で、ちょっと考えたんですけども、すぐ受けました。
なんでかっていうとですね、お節介な性格なんでですね、子供のころから人の悩みを聞くのが好きだったんですよね。
で、これ会場の方女性の方が多いんですけども、数少ない男性の方にですね、もう僕からの助言です。男性は悩み聞くのが下手です。僕を含めて。
なんでかっていうと、こういう会場に来る人はですね、多分、物事をある程度理屈っぽく考えるのが得意だし好きだと思うんですね。
で、理屈っぽく物事を考えたり答えたりする人の癖としてですね、悩みを解決しちゃおうとするんですね。こういう風に悩みがあるんだと言ったら、相手が悩みを言いきる前に、それはまとめるとこういうことだね、とかですね、それはこうすればいいよ、っていうふうにすぐ答えを言っちゃう。
これ、絶対にやってはいけないことなんですよね。
最後まで聞くっていうことをやらなきゃいけないんですけども。
僕はそういうことができない子供だったので、子供のころから周りの悩みとかがあったらすぐに答えよう答えようとして、俺に任せればどんな悩みでも答えるのにな、とかってそんなふうに考えてる、自分で言うのもなんですが、嫌な子供でした。
で、大きくなってからですね、大人になってからもですね、この癖続いてるんですけども。同時にですね、社会とか政治とかに対してですね、ここが問題だとかですね、こうすればいいのにって言う人があんまり好きじゃないんですね。
よく飲み屋とかでいらっしゃいますよね。こういうところが問題だよな、自民党は、民主党は、とか言ってみたり。いやいやいやうちの会社にはこういう風な悪いところがあるんだよな、ってふうに言ってみたり。
そういうふうな人が問題点を解決できる考えを持っているかというと、あんまり持っていなかったり。もしくは聞いてみたら、現実不可能なこと。金がいっぱいあればね、みたいな返事をしてくる。あんまりこう、つまんないな、って思ってたんですよね。
で、そんな僕なので、ですね。「悩みのるつぼ」っていうのの相談が来たとき、正直やりたい、ってお節介ですから悩んだんですけども、同時にですね、えらい悩んだは悩んだんですね。
で、誰がほかの回答者でいらっしゃいますかと聞いたらですね。上野千鶴子さんと車谷長吉さんとあと金子勝さんだった。
これはいけるなと思いました。
上野千鶴子さんはおそらく、読んでいてすっとする回答するはずなんですね。読んでいて、「よく言ってくれた上野千鶴子」という回答なはずです。ということは、言われたほうは必ずへこむだろうと。
つまり、読者の30%はすっとするけど、7割を潜在的な敵に回すに違いない。上野千鶴子のファン層の特質からいって多分そうであろうと。
ということは俺が勝てるポイントがあると考えました。
次に車谷長吉さんの相談は、第1回目のやつを見てですねパターンが大体こうだろうというのがわかったんですけれども。
この人はすべて深遠な人生で語ろうとすると。
なんか苦しんでる人から相談がきたら、「私はもっと苦しんでた」ってですね。14歳の頃からこんなに不幸だ、ってこう不幸返しをバーンとして、相手が「すんませんでした」と言ったところで滔々と語るというですね。
これは長期的な戦略には大変いいんですね。たとえば何か悩みがあったときに、今のこの悩みをなんとかしようという、この1週間2週間の悩みから1度解放してくれて、あ、人生っていうのは基本的に苦しいものなんだっていうふうに考えれば、重荷が下りたように楽になるんですけども、悩んでいてパニック状態の人に、今簡単な解決策を与えることはできない。
ということは新聞の読者の中で半分くらいの人は「車谷さんの話は深い」って感動するけど、残り半分は「何だよこいつ、何も答えてないじゃないかよ」と思うに違いない。
勝てると思いました。
金子勝さんは大変優秀な経済評論家であって、大学教授なんですね。
なので、現実可能なメソッド・方法論で常に答える。
ということは、そんなに回答が面白くなるはずがないんですね。当たり前ですけども。
面白い回答というのは上野さんを見ても分かる通り、車谷先生を見ても分かる通り、本来、そんなもん回答になってねえよ!というのが1番面白いんですよ。
で、その本来そんなもん回答になってねえよ、たとえば私はどんどん老けていくのが不安です、とか、もっと男にモテたいです、というのに対して、上野先生みたいに「何を言っとるか」というようなことを言えば、全く悩みには答えてないんですけども、読んでる人は面白いと思う。
車谷先生のように、そういうことを考えてるから人生はより苦しくなるんだ。というようなことをいうと、やっぱり目の前の答えにはなってないです。
でも金子勝先生は、必ずその人が現実可能な答えでできることをちゃんと回答で出してこられる。
ということは、その分面白みが少ないはずだと。
ここも僕が勝てるかなあと思ったポイントですね。
以上ですね、このあと上野千鶴子先生が講演に立たれて、おまけに今日客席にいらっしゃるそうなんですけど。
この3人の取り合わせだったら自分独自のポジションっていうことはないんですけども、考え方でなんとかやっていけるんじゃないかなと思ったんですね。
で、僕自身のですね、おおざっぱな問題解決の方法っていうのをちょっと、1番最初に少しだけ説明しておきます。
僕ですね、悩みって言うのは何かと。
月へんじゃないや。はい、みなさんより馬鹿です。
悩みっていうのは何かって言うと、こんな風にですね、複数の問題がこんがらがってる状態のことを「悩み」というんですね。1つ1つはですね、単純な問題なんですよ。
たとえば、明日どうしようとか。今晩の晩御飯どうしようとか。これら自体は単純な問題なんです。
しかし、今晩の晩御飯どうしよう。じゃあ旦那になに食べたいか聞いてみよう。この間もそんなのお前が考えろって言って怒られた。でも聞かないとだめだ。なんでかっていうと、この間カレー作ったら昼もカレーだって怒られた。昼もカレー夜もカレーがまずいんだったら、あらかじめ何が食べたいのか聞くのが1番早いはず。もしくは今日私はカレー作ると宣言して、昼カレー食べないでって言えばいいのか。なんかこれも怒られそう。じゃあカレーと決めればいいのか。ところが、晩御飯っというのはその日市場に行って、何が安いのか何が美味しそうなのかで決めてたい。
という、複数の問題があって初めて悩みになるんですね。この複数の問題がぐちゃぐちゃでこんがらがって、なんかこう結び目みたいにほどけない状態のことを僕は「悩み」というふうに定義しています。
だから悩みの解決法というのはですね、僕を含めて4人の先生方がやってることはそんな複雑なことじゃないんですね。
それらを因数分解って言うんですかね、悩みのごちゃごちゃになってる状態を、うまく整理仕分けして、で、解決可能な問題と解決不可能な問題にきれいに分けてしまえば、かなり楽になるは楽になるんですよ。
でも普通の人はそれがなかなかできない。
なんでかっていうとですね、普通の人の方がおそらく、頭の使い方が複雑すぎるんですね。
これはあの僕ら物書きとかですね、大学の先生とか、人前で教える仕事の人間が頭を使うのがうまいとかですね、もしくは頭を複雑に使ってると思われるかもしれませんけど逆です。
僕らは単純なことにしか頭を使わないので、回答に要する時間が短いんですね。
でもみなさんはおそらく、頭の中に複雑な状態で物を置いてる。さっき言った悩み、晩御飯どうしようっていうのは、でも、あれもどうしようこれもどうしようこれもどうしよう、でもこっちがこうなるとかですね。
あとこれお返ししないといけないかしら、と思うときでも、でもこの人に返すと前こんなこと言ってた、こんなことおっしゃってた、前これで怒られたという風に、複雑な問題が頭の中でいっせいに動き出す。
これを僕は「頭の中でお手玉をしてる」といいます。
頭の中でいろんな問題を思い出しながら、お手玉してるんですね。そうすると、お手玉に忙しくて、本来脳が問題解決に使うパワーの9割くらいをお手玉に使っちゃうんですね。
あんなこともあったこんなこともあった。思い出すことに使っちゃう。そうじゃなくて1度、それらを全てテーブルの上に並べて、頭を楽にした状態で考えれば、もっと楽なはずなんですね。
あの、アンドリュー・カーネギーというですね、アメリカの鉄鋼王がいてですね。昔すごい悩んでて、自殺しようかと考えたんですね。目の前にピストル置いて、ものすごいなんか悩んだ。なんせあの、100年以上前のですねアメリカの財閥を作ったおっさんですからね、悩みも複雑なんですよ。
仕事のこと、部下のこと、株価のこともそうですね。で、どんどん反乱してくる専務たちのこと。いろんな悩みがある。家族でも悩みがあると。奥さんがもう別れようと言っていると。次に一緒に食事してくれないともう私は家を出て行くと言っている。アメリカの白人の、なんでしょうね、高級文化層の間では、離婚するということは妻の一族との交信が絶えるということになって大問題になるんですよ。
そんなことできるはずがない。でも、仕事で家に帰れない。でも、晩御飯一緒に食べてくれなかったら妻は離婚すると言っている。でも、この目の前の問題を解決しないと、とても夕食には行けないし、家になんか帰る気になれない。
そうこうしているうちに甥っ子の1人が警察に逮捕されたと連絡が入って、今すぐ自分が助けに行かないと、今晩留置所にぶち込まれたままだという。その甥っ子の親は自分の弟妹で、前に縁があって、ちょっと恩もある。
どんな風にしていいのかわからない。
いったい俺には何百何千の悩みがあるんだろう、と思ったわけですね。アンドリュー・カーネギーはこれで、机の上でじっと、本当にね、矢継ぎ早に指示を出して1秒も無駄にしない男って言われてたのが、30分くらい全然動かずに、目の前の自殺用の拳銃だけ見てたそうです。
で、彼はですね、もうこうなったらキリがないと思って、黄色い便箋出して、鉛筆出して。悩み全部書き出そうと思ったんです。
これがなんか、ちょっと彼の発想の面白いところで、普通こういうときって人間って悩んで悩んで悩んで、もうついに死んじゃうか諦めるか選ぶんですけど。
書き出してみようと思ったんですね。
こんなに悩みが多いってことは、俺はこの悩みを書くだけで1晩かかるはずだと。で、多分、1000個くらい悩みがあるだろうと思って、カーネギー書き出したんですね。バーッと1つ1つ悩みを具体的に書いていって、全部書いてやろうと思って書いたら、30個くらい越えたら、あれ? ちょっと待ってよ。半分くらいになってきた気がする、と。
そして50個越えて60個越えて、70くらい書いたところでぴたっと手が止まっちゃったんです。こっから先いくら考えても、ただ単にその70個の順列組み合わせにしか過ぎないんですね。あれ? って思ってですね。
アンドリュー・カーネギーは、これどうしようと思ったんですよ。便箋をみたらですね、70いくつだったかな、72個かなんかの困った問題がずらっと並んでたんです。
それを次はびりびりと破いていくつかに分けた。今すぐ解決しければいけない問題、明日解決しなければいけない問題、年内に解決しなければいけない問題、人に任せていい問題というふうに、分けて分けて分けて箱に入れた。
で、今すぐ解決しないといけない問題だけ解決しよう、と考えたんですね。
で、分けていくと、今すぐ解決しないといけない問題が0であることに気がついたんですね。
あれ? って。さっきまでの俺の悩みなんだったんだろう。なんで俺目の前にピストル置いてるんだろうと思って。
とりあえず、明日解決しないといけない問題が5個が10個で、残りほとんどは、年内とか人に任せれる問題ばっかりだったんです。で、カーネギーは、じゃあ明日考えればいいやと思って、ピストルを引き出しにしまって、奥さんとご飯を食べに行ったそうです。
で、これ何かって言うとですね、悩みっていうのは、アンドリュー・カーネギーというような財閥を作るような人でも、おそらく僕ら自身であっても、頭の中でぐるぐるぐるぐる考えてるから苦しいんですね。
これが悩みの「るつぼ」です。
悩み単体ではなくて、悩みがるつぼ化して僕らを苦しめるんです。だから悩み自体は多分、単純なもの。お腹が空いたとか、晩御飯どうしようとか、お金がないとか。それ自体苦しいかもしれないですけども、お金がないっていうのはお金がないことの苦しさしかない。でも、お金がなくて恥ずかしい、お金がないことを人に言えない、どういう風に親に相談しようという風にるつぼ化していくんです。
お金がないこと自体の苦しみが100だとしたら、るつぼ化することで、苦しみが200とか300になって僕らを追い詰めていく。
これがアンドリュー・カーネギーの話から僕が得た教訓みたいなもんなんすけど。
そういうのをもうちょっと解決する方法、なんか提案できるんじゃないかなと思って、「悩みのるつぼ」引き受けることにしました。
あまりこのホワイトボード、まだ使ってません。
どうしようかな。これ。
ここまでですね、僕、15分くらい話してるんですよ。
で、これがかなりありますね。
結婚して16年。子供を作らずにきたのですが、今からでも自分たちの子供をつくるべきか。赤ちゃんボックスとかでもらうほうがいいでしょうか。46歳。
面白いですね。作るべきか、赤ちゃんボックスからもらうほうがいいでしょうか。
この選択肢の中に、「子供を作らない」は入っていません。
ということはこの人は、子供をいかにして得るか、という部分だけで悩んでるわけですね。
ならば悩みは簡単。
今すぐ子供を作りましょう。
で、そうですね、46歳ですね。2年間がんばりましょう。2年がんばってできなかったら、ボックスからもらってきてください。
日本の林業をどう思いますか。スケールがでかい!
うーん。個人的言うと、スギ花粉なんか振りまいている林業なんて滅びてしまえ、って言いたいんですけどもw そんなの絶対言っちゃ駄目ですよね。
林業に就きたい息子、生活はできないと、もしくはできないかと心配です。応援もしたいです。
日本の林業どう思いますか、ですか。
基本的に地面とか海とかいわゆる生産、1次産業に近ければ近いほど、現金収入は少ないかもわかりませんけども、生活は僕は安定してると思うんですね。
お金には縁が遠いかも分からないですけども。
これからの世界はですね、お金に縁があるよりも生活手段、ですね。つまり儲かりやすいものより、食べるものや仕事が手に入りやすいポジションの方が絶対に有利だと思ってですね。
息子が林業に就きたいと言い出したら応援したい。
応援できるんだったらしてください。
林業に就きたいということは、今この息子さんがいくつで、大学で何をやってたのか、もしくは今高校生なのかなんなのか、全く分からないまま僕が答えようとしてますが。
10年くらい息子さんをまだバックアップできる財力とか気力が自分にあるんだったら応援しましょう。
で、それがなくて、お互いギリギリの状態だったら、息子さんがその林業ですぐに稼げるんだったら応援すべきですし、すぐに稼げないんだったらそれは趣味程度に留めておいて、さっさとみんなで食うために稼いでくれ、というふうに言うほうがいいと思います。
とまあ、こんな回答をえんえんえんえんとこっちからこっちに持っていくこともできるんですけども。
えー、人生相談のですね、依頼を受けたときに僕はこれまで自分が好きだった人生相談というのをですね、考え直してみました。
ちょっとすみません。ちょっとそこに置いてるとずっと、こう立ちっぱなしじゃないといけないのが嫌だ。
あの、僕人生相談で1番印象に残っているのがですね、高校生の時にホットドックプレスという雑誌がありまして、そこに掲載された北方謙三さんの「心の地平線」という人生相談があるんですね。
これあの有名なやつです。ハードボイルド作家なんですね、あの、北方さんの作風。
で、ハードボイルド作家らしくですね、人生のこととか女性のこととかですね、そんなことで悩んでいるとすぐに、「風俗に行け。」と答えてしまうんすんですね。
これがなかなかインパクトがあって、まああの、風俗に行けとかですねあのそういうのだけじゃなくて、色んな悩みの相談に対してハードボイルド作家という立場で答えるんですね。
で、本来作家というのは、僕も物書きの端くれだから分かるんですけども、ハードボイルドでもなんでもないんです。大変女々しくて女性的、と言ったら女の人に失礼なんですけども、何か言われたら心の中でずっと引っかかってて、何か言い返したくてしかたないとかですね、どうにかして、なんかこう自分の思いを伝えたいというですね、割とあのねちねちした人が多いはずなんです。
北方謙三さんの答えも、この人、多分若いころこんなこと言われて散々悩んだから、これだけずばっと切るようなことを言うんだろうな。好きだったんですよね。
その次にですねあの僕が好きだった人生相談というのが、同じあの朝日新聞でですね、ずいぶん昔に掲載されてた中島らもさんの「明るい悩み相談所」ですね。
これあの覚えてらっしゃる方も多いと思うんですけども、名作ぞろいですね。
僕1番好きなのは、「山に帰れと言われて困ってます」ってやつです。
何かというとあの、お母さんからの投書なんですね。
もう50いくつのお母さんで、娘が2人います。娘がこどものころ、つい嘘をついてしまいました。お母さんは本当は狸なの。お父さんに昔山で助けられて、恩返しのためにあなたたちのお母さんをしているの。でも、もうすぐ山へ帰らなくちゃいけない。と言ったら、娘がわんわん泣きながら、「帰っちゃやだママ」って言ってくれた。
正直、ぶっちゃけ、気持ちよくてしょうがなかった。それを聞くたびに今年は帰らない、来年帰ることにするね、とか言ってて、早10数年。娘は、「そろそろ山に帰らないの。」と言うようになりましたと。もう帰っていいよと言われてしまった。どうすればいいんでしょうか。
僕ひっくり返って笑いました。こんな面白い人生相談があるんだなと思って。
相談が面白すぎて中島らもさんの答え、覚えてないくらいです。
で、こういうですね、人生相談というと、この悩みのるつぼみたいに、本当にこんがらがってどうしようもなくて、で、もう助けてほしい人が来るもんなんですけど、中島らもさんのやつの場合は、週に1回、つまんないようでいてなんか考えさせられる、ですね。
親っていうのは実は、子供に媚びたくて、そんな嘘をついてしまう。で、そこまでして子供に、女の子ですね、子供に、ママ行かないでって言ってもらわないと、実は親っていう仕事は続けられないくらい大変なものなんです。母親って言うのはそれくらいストレスがかかるもんだな、っていうのが、その相談文からも分かるんですね。そういうことを思わせてくれる、すごくいい人生相談でした。
青空人生相談所って言うのがですね、橋本治さんが昔連載されてたんですね単行本にもなってるんですけども
橋本治さんて文学の作家の方がやってたやつで、僕あのそれで驚いたのが例えば差別されてますとかですね。もしくは背が低いと言われましたっていうですね、凄い答え難い相談が有るんですね。
僕もるつぼでですね、答え難いと言うよりは元来この質問に答えるのは不可能、解決策を提示する事が出来ないって言うような、回答不能系の問題って言うのをいくつか貰ったことがあるんですね。
で、凄いパニックになっちゃうんですけれども、橋本さんの切り返しは本当に凄くて、ギリギリ正直に言っちゃうですね。だから人にバカにされました差別されますってのに対して橋本治さんが一貫して答えたのは「偉くなってみ返しなさい」って事なんです。
そう言いうふうに子どもの頃傷付けられたり、人から何か言われたっていうのは、言い返してもダメだし、自分のことを理解してもらおうと思って明るく振舞って、結局友達が増えても仲間が増えたりしても絶対に解決はしません。
それは上手くやったという成功体験になるんだけど、心の中ででもそんな事言われたシコリはズーッと残ると。そのシコリを大人に成って溶かす事も多分できない。でも、その秤の反対側にその自分の傾いて仕舞った心の反対側に重りを乗せる事はできる。その重りを乗せる事が偉くなってそいつらを見返す事です。って書いてるんですね。
だから人間っていうのは努力するし、だから人間って偉くなる。で、偉くなった後で、そんな差別してきた奴らみたいな事をやらなきゃいいって書いてあったんですね。
凄く感動して、ああなんかこういう人生相談の答え方は、僕もいつか出来るようになりたいなって思ってました。
あとですね、橋本さんは何だろうな。例えばなんでこんな事しちゃいけないんですか、とか、大人は皆ずるくってこうやってます、だから僕もこういうふうにしようと思います、という質問に対して、一貫して言ってたのが、「世の中の人にダメな人が多いのは分かった。
大人にダメな人が多いのはその通りだろう。君が失望するのは良く分かる。だからと言って、君がダメになって良い理由は無いよ。」って言ったんですね。
別に世の中の人全員がダメで在ろうと貴方がダメになって良い理由はそれには為らない、って言ったんですね。世の中の人が全て裏切り者で嘘つきであっても、貴方が裏切り者になって良い理由には為らないし、貴方が嘘つきになって良い理由なんて何処にも無いよ、と答えたんです。
なんかね、厳しい様でいてとことん読んでる人を信をじてないと、橋本治の読者ってこれが伝わるだろうって言う信頼が無いと、できない答えだなと思って、凄い僕は感動したんですね。で、こういう回答ができたらなって思ったりもしました。
今、人生相談てのはですね、Yahoo知恵袋って所で皆やるんですね。
相談小町とか色々有るんですけどネット上に有るんです。
ネット上で相談を自分が書くとそれを見てる人が何百人とか、ひょっとしたら何千人とかが一斉にそれに対して答え書いてくれるんですね。
で、見てた人がそれに点を付けるんですね。これ上手い事答えてる、これ解決になってる、そしたらベストアンサーってのが上の方にこう来るんですよ。
なので現代の悩みの相談っていうのはですね、実は朝日新聞がやってるような、何でしょう、識者とか知識人とか文化人ですね、悩みの回答に答えるのを上手い人を何人か選んで答えさせるって方法は、実は20世的で、本来は21世紀的な問題の解決方法と言うのは、それを自分で書いてネットに掲示すれば何百人かが一斉に考えてベストの回答を出す。
それに、それの方が上野千鶴子で在ろうが岡田斗司夫で在ろうが他の誰で在ろうが、マイケル・サンデル教授で在ろうが、たった1人の人間がどんなに頭を捻って1週間2週間考えようが数百人数千人が考えた方が、これを集合知と言います。集まった知性ですね。
常に平均的に上向きで在ろう、平均値としてたった1人の答えより上であろう。こういう考え方なんです。
こういうのをネットで無料でバンバンやられてしまっては、僕なんかこれ太刀打ち出来ないなと思うんですね。
なので、悩みのるつぼでいつも質問貰った時の僕の考え方は、これが発言小町とか Yahoo知恵袋に乗った時に、絶対に出ない回答を出すしか無いな。いつもソレで考えてしまいます。
こういうふうに話してるとですね、岡田さんは考えるときには上野さんや車谷さんに勝つこととか、他の人と違う面白いことばっかり考えてるんですかと思われるんですが、半分までは完全にそうです。そうでなければ、お金取って新聞で物なんか書いちゃいけないと僕は思うんです。
半分までは僕は絶対に、人と違って面白いことを書こうとしてるんですけど。
で今日話すのは残り半分の、どうやって答えようかって言う考え方のプロセスみたいなのを説明しようとしているんですけども、ここまでで時間の半分以上を使ってますね。
後編に続く