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2012年03月31日

「ふしぎの海のナディア」徹底研究! インタビューノーカット版 その(1)

『ふしぎの海のナディア』再放送 決定を記念して作成された特別番組、 
「ふしぎの海のナディア」徹底研究! もうご覧頂きましたでしょうか?

まだの方も、NHK Eテレ(教育テレビ)で再放送がありますので、ぜひ!
 4月2日(月) 午後11時30分~11時55分(再)
 4月6日(金) 午前3時00分~3時25分(再)---深夜です
 4月7日(土) 午後4時00分~4時25分(再)

番組に使用されたインタビューシーンは、わずか数分ですが、実際には30分もある中身の濃いインタビューでした。
インタビュアの佐藤由加里さんが、感心したり、驚いたり、笑ったり、叫んだり・・・予想外の裏設定と、その読み解き方に、スタッフ一同がどよめいた30分間でもあったのでした。
120330①
撮影前に、岡田コレクションからノーチラス号を発見!


そのインタビューの文字起こしノーカット版を、お届けします。
何しろ、30分もありますので、3回に分割しての連載になります。
特に3回目は目からウロコ続出ですので、ぜひ、最後までお読みください。

120330②

おおぜいのスタッフに囲まれ、撮影開始!

「ふしぎの海のナディア」徹底研究! インタビュー文字起こし その(1)


〈佐藤〉まず、『ふしぎの海のナディア』がどうやって生まれた作品なのか、お聞きしたいんですけど。

〈岡田〉NHKさんから持ち込まれた企画だったんです。

〈佐藤〉あ、そうなんですか。

〈岡田〉NHKさんの、アニメやりたいっていうプロデュサーの方がいらっしゃって、その人が、普通のアニメじゃなくて、黒人の女の子が不幸なサーカスに売られていて、『海底2万マイル』のお話と組み合わせてっていうので、もう、その人が企画書をバッチリ書いてきたんですよ。
当時、僕らは若くて、全員20代だったもんだから、NHKのプロデューサーが考えた企画なんかやってられるか! と正直思ったんですけども。

〈佐藤〉ちょっとつっぱってたんですね。

〈岡田〉はい。でも見ると、けっこうイケるんですよ、失礼な言い方なんですけど、「使えるじゃん、おじさん」って思って。

〈佐藤〉そのときの企画だけで、けっこうおもしろいですもんね。

〈岡田〉そうなんです。そのときの企画で結構骨が決まってて、たとえば、主人公はナディアで、動物と話せる。お父さんと昔、悲しい別れをしたと。ナディアの首から下げているブルーウォーターという石を狙っている、悪い男女がいる、と。おばあちゃんと、息子たちが追いかけてくる。これ、使えると思ったんですけども、なんかね、設定の一部が、宮崎駿さんが作ったアニメにちょっと似てたところがあったんですよ。

〈佐藤〉はいはいはい。

〈岡田〉そこの部分はちょっと切り替えなきゃいけないなと思って、どんどん、継ぎ足して継ぎ足して作っていったら、ヘンな話になっていった。そのNHKのプロデューサーさんが、どんどん対話して新しいものを作っていこうよっていってくれたから、僕らも気にせずどんどんどんどん上にアイデアを乗っけたら、なんかね、だいたいの企画にOK出ちゃったんですよ。

〈佐藤〉はああ。

〈岡田〉それでできたのが『ナディア』。

〈佐藤〉だから展開が、いろいろ、ころころ変わりますよね、『ナディア』って。

〈岡田〉普通のアニメって、原作の漫画があって原作の人が「この原作を守らなきゃダメ」っていったり、オリジナルのアニメの場合でもプロデューサーの人とか局の人たちが「こういうのにしてください、このおもちゃを売るためです」というのがあるんですけど、『ナディア』はそんなのが一切なかったから。完全にフリーダムだったんですよ。

〈佐藤〉ああ。

〈岡田〉何やってもいいのかって思って、二十代後半の、いちばん馬力がある時代の、何をやってもいいといわれたときにやりたくてやりたくて仕方がなかったことを、全部つぎ込んじゃったアニメなんです。

〈佐藤〉ああ……じゃあ、いろんな人の思いがバーッて詰まってるってことですよね。

〈岡田〉そうです。詰まりすぎて、途中ではち切れてしまったときもあるんですけど(笑)

〈佐藤〉『ナディア』の、今見てもすごいところってどんなところですか?

〈岡田〉今見ると、『エヴァンゲリオン』の庵野秀明監督のターニングポイントになった作品なんですね。それまで庵野秀明監督は、他の人に呼ばれて一スタッフとしてやってた。たとえば、宮崎駿さんに呼ばれて『ナウシカ』をやったときは、巨神兵のシーンとか、見せ場をやってくれといわれた。でも、『ナディア』のときに初めて全39話という長いシリーズで自分の思ってることを出した……。
 ナディアが結構いやな女の子なんですよ、見てる人には悪いんですけども。

〈佐藤〉そうなんですよね。ちょっと……。

〈岡田〉冷たい性格だったり、ワガママだったりする。それは庵野秀明の女性観なんですよ。

〈佐藤〉あああ!

〈岡田〉庵野のカノジョ、全部こんなタイプだったんだっていう……(笑)

〈佐藤〉そうなんですか。庵野さんのイメージってことですか?

〈岡田〉それまで、アニメに出てくる女の子のイメージってそうじゃなかったんですよ。その当時、「アニメージュ」っていういちばん売れているアニメ雑誌があって、人気投票1位がずーっとナウシカだったんですよ。つまり、けなげで……。

〈佐藤〉純粋で。

〈岡田〉そう、心がまっすぐで正義のためにっていうナウシカをナディアが抜いた回があって、「やったぁ!」と。

〈佐藤〉へえええ!

〈岡田〉ナウシカのような美少女もいいんだけど、今を生きてる本当の女の子……庵野が恋をして、ふられて、泣いてる、そんな女の子って本当はどんなのかっていうのを、アニメの中に入れたかったんですよね。それが1位になったとき、ホントにうれしかったです。

〈佐藤〉ナディアは等身大の女の子、今どきの女の子、ワガママで、イヤなことはイヤだっていう……でも、芯が強いところがあって。

〈岡田〉スタッフの間でも、嫌いな人は嫌いだったんですよ。描きながら、「オレ、このオンナ、嫌い」って(笑)
 マリーっていうちっちゃい女の子が出てくるんですけど、「マリーはいいよなぁ」とか「オレはハンソンとサンソンが描ければいいや」とかって、みんな、モンクいいながら。

〈佐藤〉はああ。

〈岡田〉でも、庵野の近くにいて、庵野の女性観とか恋愛観とか知ってるメインスタッフは、ナディアの良さがわかるから、「じゃあ、ちょっと俺に貸せ。ナディアだけは俺が描く」。

〈佐藤〉はああ。

〈岡田〉やっぱり、若さの暴走が作った作品ですね。

〈佐藤〉今までになかったキャラクターとかも、いっぱい出てきたということですかね。

〈岡田〉そうですね……マスコットのライオン、キングっていうやつが出てくるんですけども、これがどんどんヘンになるんです。

〈佐藤〉そうですね、あの「島編」で……。

〈岡田〉おや、ごらんになりましたね(笑)

〈佐藤〉はい、見させてもらったんですけど、キングがおかしくなっちゃうときがありますよね。

〈岡田〉二本足で立ちますよね。書き置きを残して家出するんですけど、あのへんも「何をやってもいい」といわれたから、じゃあ、コメディでどこまでフレームを崩していいのか……と。
『ナディア』って39話なんですけど、13話ごとの3ブロックになってるんです。最後の13話はものすごいことをしよう、NHKのアニメとは思えないようなこと……海から始まって最後は宇宙に行って、人類の文明とは何かまでやろうと。
 そのために最初の13話は地味に、じっくりと人間ドラマをやろうと。そうすると、僕達はここで力尽きると(笑)
 真ん中の13話は思いきり気持ちを変えて、リラックスして、新人の演出家・樋口真嗣(ひぐちしんじ)くん……後に『ガメラ』とか『日本沈没』の監督もやって、今は大監督になった彼がまだ一本分の演出を任されていなかった時代なんですけど、真ちゃんに全部任せちゃおうってことになった。
 真ちゃんが「どこまでやっていいですか?」って聞いたら、庵野くんが「どこまでやってもいいよ」って。
「岡田さん、ホントですか?」「いやもう、どこまでやってもいいよ」って。
 NHKの人たちも「ガイナックスは何するかわからない」って諦めて、「いいよ、もう、基本フレームさえ守ってくれたら」っていってくれたので、キングが立って歩いても、ぎりぎり大丈夫。

〈佐藤〉あはは。

〈岡田〉「こういうのは今回で終わりにしてね」とはいわれたんですけれども(笑)

〈佐藤〉いきなりコメディになりますもんね、ものすごく。

〈岡田〉それも、最後の方で暗い話がガーッと続くから、エンジン、溜めておきたかったていうかね……。
 楽するわけじゃないんですよね。楽にはならなかったんですけど、気分転換にはすごいよかったんですよ。

〈佐藤〉確かにずーっと重い話というよりも、ちょっとコメディがあって最後に重いから、スルッと見れる感じはしました。

〈岡田〉あの真ん中へんの13話の、いわゆる「島編」というのが、マニアにはたいへん評判が悪かったりするんです(笑)

〈佐藤〉あははは、そうなんだ(笑) 確かにいきなりガラッと変わりますよね。

〈岡田〉でも、あれがあるおかげで、スタッフも逃げずにすんだ。

〈佐藤〉うーん。

〈岡田〉アニメのスタッフって逃げるんですよ、案外。約束してても、しんどかったら、「いや、よその作品やりますから」って。

〈佐藤〉逃げちゃうんですか……。

〈岡田〉「宮崎さんから呼ばれましたから」って逃げるから、それをつなぎとめるためには『ナディア』にも結構おもしろいところがあるよっていわなきゃいけない。だから、真ん中へんのああいうシーンを入れとくと、みんな喜んで、「じゃ、もうちょっとやってみようか」ってなるんです。

〈佐藤〉岡田さんが印象に残ってるシーンは、やっぱり「島編」ですかね。

〈岡田〉うーん。「島編」もそうなんですけど、あとね、初めて人がはっきり死ぬ回っていうのがあって……ノーチラス号の中での事故の回があって。

〈佐藤〉はい、私もそれ、すごく印象に残ってます。

〈岡田〉あれはホントに、シナリオ段階から、NHKの人から「これ、大丈夫?」って聞かれて、僕らも「たぶん大丈夫です」って……「血とか直接流さないし、死ぬシーンは入れません」っていったんです。
 死ぬシーンがなければ大丈夫かなっていわれてるんですけど、死ぬ音はさんざん入ってるんです。死にかけた男の人の声とかが入ってて、残酷かなと思ったんですけど、やっぱりこういうのをちゃんと見せないと……。
 アニメの中で、戦いをやったら人が死ぬ。人が死ぬってことは本当はこういうことなんだよ、キレイごとじゃないんだよっていうのをいわなきゃいけないと思ってて、そこを作ったんですよ。
 だから、試写やったときは、みんな声が出ませんでしたね。「俺たち、これ作っちゃったんだ。来週からどうしよう」って。

〈佐藤〉うーん。

〈岡田〉試写が完成するときって、もう、6話くらい先を作ってるんです。ということは、その死ぬシーンとか、ナディアとネモ船長が初めて親子だとわかる、あのへんって、もう「島編」のバカみたいな話を作画していて(笑)

〈佐藤〉たいへんですよね、切り替えが。

〈岡田〉そう。「今日。10話の試写ありまーす」っていわれて、「わかった」って現像してるパートに行ったらそんなのやってて、このアニメってこんなのだったんだ、そういえば……っていって、また帰ってきたらテンション変えなきゃいけないから。
 でもやっぱり、あの試写見たときは、「俺たち何かやったな」ってつかんだ気がしましたね。

〈佐藤〉確かに、見ている人にすごい伝わるというか、一気にグッて引きこまれるなって思いました。

〈岡田〉そういう声、すごく多かったですね。あと、エレクトラさんとネモ船長の関係とか、そういうのをきちんと描けたのは、すごくやりがいがありましたね。


その(2)に続く。


文字起こし  無銘のマサフミ/活字のマリ/ヤムアキのタクマ
アンカー    後藤みわこ
プロデュース のぞき見のミホコ






otaking_ex_staff at 18:20コメント│ この記事をクリップ!
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