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2012年01月17日

AKB48 前田敦子さんが表紙の「週刊プレイボーイ」掲載分 岡田斗司夫インタビュー・ノーカット版

2012年1月16日(月)発売、集英社「週刊プレイボーイ」インタビュー取材記事のノーカット版の掲載です。

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[特集]「失われた30年」を読書でサバイブ!20代のためのビジネス書・これが最新定番だ!「これからはあなた自身も常に格付けされる社会が来る。大切なのは『防衛力』です」 

——今日は「評価経済社会」と「スマートノート」の2冊をふまえたインタビューをさせていただこうと思っています。
 普通につなげると、「来るべき評価経済社会において楽しく生きてくために、自分がまず面白くなろう」って感じになるんですが。とはいえ、ちょっと今日、重点的にお聞きしたいのは・・・今みたいに情報があまりに多いと、どうしてもネガティブな情報も勝手にいっぱい入ってきて、例えば恋愛とか就職とか結婚とか子育てとか・・・まあ必ずしも義務じゃないんでしょうが、やる前にびびっちゃって、どんどん将来が不安になっている人が増えてる感じがするんです。
 そんななかでは「世の中を面白がる」ってことが、生きてくうえでの大きな精神的なセーフティネットになれるんじゃないかなと思っていまして。

 「はい、わかりました。ちょうどいい感じで、この前『いい人戦略』という講演をしたところで、今のテーマにあっていると思いますので、今日はこの本にあわせてそのお話をしましょう。
 評価経済社会において、多くの人は、攻撃力はあるけど防衛力がないんです。防衛力とは何かというと、ネガティブな情報に対する防衛力だったり、自分が評価されることに対する防衛力なんですね。だから匿名で書くのは好きなんですけれども匿名サイトにさらされるのは恐れる。びびるんです。それはなんでかというと、防衛力がないから。
 防衛力があると平気なんですよ。ホリエモン平気ですよね。ひろゆき平気ですよね。これは強いからじゃなくて、防衛力があるんですね。でもみんなこの防衛力がない。ユニクロのヒートテックも暖かい服もないのに寒いところに立ったら寒くて当たり前なんです。あったかい服着ろよ!というのが僕の考える防衛力です。
 その方法がスマートノート。スマートノートとは面白い奴になる。面白いことを言う。そういう攻撃力を増すのと同時に、人に何か言われても、平気、とまでは言わないけど踏ん張れる防衛力をつくれる」

——たとえば理不尽なこと言われても、それを「あいつはこういう気持ちだったんだな」みたいに解釈して消化できるってことですか?

 「というより、それを言われることで、では自分に実際、どれくらいのデメリットがあるんだろうって考えることができる。
 あとは、言われないより言われたほうがマシだとか。
 評価経済社会においてもっともまずいのは非注目の状態。みんなまったく注目されない状態に慣れているから安心しているんですが、それは非注目というもっとも最貧民です。まずは注目を集めないといけない。注目を集めたうえで、注目を評価に変えないとまずい。つまり資本主義で商売するためには、まず借金できる奴にならないとダメなのと一緒です」

——お金借りられるのは、会社が社会から信用されてるってことですもんね。

 「借金したうえで儲けなきゃいけない。みんなはギャンブルで借金してる人とか見てるから、借金が怖いもんだと思うけど、ビジネスやってる人にとっては借金できない人間は信用がないのと一緒なわけです。
 この借金というのはネガティブにとらえちゃうとやっかいなんですが、たとえば工場では『いいですよ、来月の支払いでお願いします』『納期の1ヶ月後の振込みでお願いします』と。これ借金ですよね。ビジネスやってない人間は現金をすべて用意しないといけないと思うから、ビジネスできないわけ。でもそうじゃない人間はまず最初に借金というか、借りる形でビジネスを始めて儲かったら返す。
 それと同じで、注目っていうのは一番最初は負債になるわけですよ、目立つから。目立ったあとで面白いことしないとダメなんですよ。一番最初の負債を恐れて、さらされた人の例ばかり見ているので、ついつい目立つことを恐れたり、あとせっかく評価が集まっているのに名前を出さなかったり。これは評価経済社会的には非常に損な人生です。デジタルネイティブって呼ばれている今の24,5歳以下の人たちっていうのは、この名前を出すことに非常に抵抗がないですね。名前をだしたり顔をだしたりすることに関して当たり前の意識があるんです。
 僕こないだ聞いて面白かったのが、高校生の女の子だったんですが、中学3年のときに彼氏とケンカして別れたと。そしたら彼がニコ生の生主、つまり自分で顔をだしていろいろしゃべる人ですが、彼女の悪口をニコ生でさんざん言ったと。コメントではイヤな女だな、と。で、めっちゃくちゃヘコんだと。で、『すぐに私もニコ生で』と(笑)。その女の子はかわいいからアクセスが彼氏の10倍も20倍もいって、「なんてひどい彼氏なんだ」といったコメントがわーっと流れたのを見て、ああ良かったと思ったと。これが今の16歳なんですね。
 今、週刊プレイボーイを読んでいる世代はまださらされる恐怖があるかもわからないけど、その下になってくると、さらされて何が悪いの?それよりは目立たないことが悪いんじゃないの、というのがきてる。まずは目立たないとしょうがないし、そのためには面白い奴にならなきゃいけないのもそうなんですが、その女の子みたいにニコ生でぼろくそ言われてもやり返せる、そのためには防衛力がないとしょうがないですね。そこでトラウマになって一生ネットに近づかない、とはならない。これを言われたらなんで自分はイヤなのか、実は被害がどれくらいあるかとか、それは自分にとって有利なのか不利なのか判断する力が必要なんです。その判断する力があればさらされることが怖いんじゃなくて当たり前のリスクだと考えられる。ホリエモンやひろゆき化できるわけです」

——今年(インタビュー時は2011年)の、ホテルで働いている女の子がツイッターでサッカー選手のお客のカップルのことつぶやいたのとかは、自分をさらしすぎたんですかね?

 「あれは攻撃力が強すぎたんです。防衛力がないのに。あの女の子が評価経済社会のことをわかっていたら、『私をクビにしたらこのホテルの恥ですよ』と交渉できたんですよ。『こんな女の子も社会人として一人前に育てました』という話でしか、このホテルの名誉回復の方法はありませんよ』と言うべきだったんです」

——なるほどー。

 「それしかない。問題ある従業員をクビにした、イコール、従業員の教育能力がない、という話ですからね。あの女の子はあの場ですぐに、どうすればいいのかって情報をみんなから集めるべきだったんです。目立ったのがチャンスだったんです。その瞬間、彼女のところには評価資本が集まったのに、彼女は情報をクローズしてしまった。そして周りのオトナのいいように扱われてしまった」

——評価資本というのは、物質でない分、ネガティブとポジティブがころころ変わるともいえますね。

 「そうです。注目を集めている企業の株価が上がりやすかったり下がりやすかったりするのと一緒です。注目を集めていない企業の株価はたいへん安定していますけども、注目を集めている会社の株価が乱高下しますよね。ソフトバンク以外からアイフォンがでるという噂が出ただけでソフトバンクの株価は暴落し、ドコモからでなかったというだけでもう一回あがったりする。これも評価経済社会では当たり前のことなんです」

——そもそも岡田さんが「評価経済社会」というアイデアを思いつかれたきっかけをお聞きしたいんですが。この本の前バージョンである『洗脳社会』は、95年、オウムの年に出ていますよね。

 「情報社会の本質っていうのは、情報自体ではなくてその情報の解釈があふれる社会だということにはっとわかったんです」

——でも、ネットが今みたいに普及する前でしたよね。

 「前ですね。そのころ、本の出版点数とかすごく増えていて、でも取材が多くなるんでなくて、取材した媒体から孫引き、ひ孫引きみたいなカタチでどんどん情報が増えていくように見えたんですよ。
 当時のテレビのワイドショーがそうなりはじめていたんですが、『新聞によると』という言い方をしきりにするんです。自分でインタビューとらないで、『スポーツ新聞にはこういう記事がのっている』と、情報がどんどん引用されて面白い部分だけがクローズアップされていく。
 今は、ネットでもニュースでも出たら2chのニュース速報に流れるみたいに、ニュースの本質でなくてニュースのなかでいちばん“つれそう”、一目を引きそうなタイトルがつけられる。それをまとめたまとめサイトがアフィリエイトで稼いだりする。
 『僕たちの洗脳社会』という本を書いたときはそこまでの状況ではなかったんですが、元ソースにあたるんでなく、どれだけ解釈というものが増えるのかという構造が見えてきたからあんな本を書いたわけですね。つまり、世の中はレッテルばりされないと流通しない。
 そこでは、レッテルばりしたほうが勝ちでされたほうが負けに見えますが、でも、流通しなかったら価値はゼロ。この恐ろしい仕掛けが見えてきて、これって経済みたいだなあと思ったんですね」

——本のタイトルは「洗脳」だけどオウム関係なかったんですよね。

 「執筆してたときオウムまだ起きてなかったんで(笑)」

——ではまずはネット社会の前に、マスメディアの状況を見て思いつかれたアイデアなんですね。

 「そうですね。そしてさらに情報がどんどん増えていくなかで、基本いま20代の人に対して思うのは、評価に対する防衛力をつけろと。つまり格付けされることに慣れるしかない。
 格付けサイトを見て自分が行くお店決めたり、会社を見たりするように、同時に自分が格付けされて、今の自分はバイトとしては何点なのかとか、なれていくしかない。
 僕は相互レビュー社会と呼んでいるんですけれども、もうあるんですよ。
 お手伝いネットというネットワークサービスがあって、銀座でいまこの瞬間バイト来れる人をざっと検索できるサービスなんです。いろんな店が登録してて、今夜のバイトを3人募集したいといったら、銀座でスマートフォンもってたら1時間後、2時間後にバイトはいれる人がざっと見つかる。
 そこに登録しないとダメなんですが、お手伝いネットに登録してバイトすると、自分の登録名に、そのお店で雇われたときの評価がつくんですよ、5点満点で。4.2点とか3.8点とか」

——おっかないですね!

 「おっかないんですよ。さて、そこの人たちがどんな人たちを雇うかというと、お手伝いネットで3回以上バイトしていて平均4以上の人を選ぶに決まっているじゃないですか。これが「評価される」ということですよ。それをイヤがっていると徐々にバイトの口がなくなるんです。なんでキミはお手伝いネットに登録してないの?と。いやいやああいうの嫌いだから。ああそう、じゃあキミがどれくらい保障する人はいないんだね。ということになっていく。
 これは一方的に評価されているんですが、次の段階は、働く企業を評価するようになるでしょう。この企業は本当にいったとおりのカネを出してくれたか、休み時間やすめたか、パワハラセクハラなかったかということで、企業も評価されていく。
 いまの食べログやアマゾンの本の評価のように、雇う側と雇われる側が相互にレビューする時代。これが相互レビュー時代です。
 さあ、このときにみんな防衛力がないと、こわくて入れないわけです。
 2点が一回くらいついちゃっても、別のところでリカバーするから大丈夫だと。例えばすごいヤな奴に雇われたら、そいつ雇った奴ぜんぶに1点つける雇い主かもしれないわけです。俺いままでぜんぶ5だったのに、急に1ついたから働かなくなくなったら負けちゃうわけですね。このときの雇い主はこうですからとプロフィール欄にかいて別のところでリカバーしないくらいでないとだめなんです。つまり1回くらい取引で損したからって商売しめちゃうようなヤツはビジネス社会で生きてけないのとまったく同じです。
 この相互レビュー社会は、いまもう来てるわけです。
 みんな防衛力をつけるしかない」

——でもお聞きしてると、健全な気もしますね、ある意味。

「その通りです」

——日本って、バブルのときにサービス業が発達して、そのあとデフレになって、今、すごく安く、よいサービスを受けられるんですが、結果として、山田昌弘さんが言うように「消費者として天国だけど、働く側にとっては地獄」な社会になっちゃった気もするんですよ。そこのバランスが取れるようになるんじゃないかなーと。

 「結局4.5とか4.3といった点数をたたき出す人はより評価が高いところでバイトできる。うちはお店の評価は4.3だから、うちは4.3以上の人しか雇わないといえるわけです。逆に3.5のお店はそのぶんバイト料を上乗せするしかない。
 つまりカネで評価を買うことはできないけど、評価でカネを安くしたり高くしたりすることはできる。評価が高い店は安くてよいバイトを集められる。僕らが昔、ルーカスフィルムだったらタダでも働きたいと言ったのとまったく一緒です。ジブリなら時給安くても働きたいとか思う子いるだろうし。
 評価が高い会社は安くていい人材を集めることができる。
 評価が低い会社は高いお金で評価の低い人を集めるしかない。ブラック企業の噂が広がったら、さらに人が集まりにくくなる」

——では、外資のエリート層におけるヘッドハンティングとは何が違うんですか?

 「それがすべての人になるということです。これまでの就職活動みたいに、就活一発勝負じゃなくなっちゃいます。それまでの人生でずっとやってきたことを見られるわけですから。
 たとえばアメリカでは、フェイスブックをやっていないヤツは雇わないシンプルなやり方が出てきているわけです。キミのフェイスブック見せてと。そこで友達が見れると。友達にやばいヤツがいないかわかると。そしたら雇うよ、と。
 それに対抗するには、子どものころからいいやつでいるしかないんです。シンプルに。
 で、一回でも不良になっちゃったらどうするのか。不良であることをカミングアウトして、なおかつ自分が更正したって証明をしないとダメなんです。
 そんな意味で防衛力が試されるわけですね。一回悪いことをしたからって落ち込んでる人は動きがとれなくなってしまう」

——SNS就活はまさに評価経済ですね。

 「SNSの過去ログをみればそいつがどんなヤツか一目瞭然になるんですから」

——でも、フェイスブックで自分が魅力的に見えるように、ずっと演じ続ける学生が絶対でてきますよね。

 「そうですね」

——たいへんじゃないですかねえ?

 「それを『いい人戦略』と呼ぶわけです。戦略だから」

——あ、そうか。でも、ストレスになりません?

 「本当にいい人にならなくていいんですよ。いい人に見せるだけでいいんですから」

——だから「戦略」なんですもんね。

 「それを、どこでストレスのはけ口があればいいんですかという人は、もう違うんですよ。
 つまり、これまではマネー経済社会でした。マネー経済でお金を稼ぐというストレスを、無駄遣いで解消する人は金持ちになれない。
 同じで、いい人戦略をとってたらどこでストレス発散すればいいんですかと問われたら、いい人戦略に抵触しないように発散するしかないと」

——「面白い人になろう」というスマートノートは、そこでどういうふうに役立ちますか?

 「いい人戦略は、今準備している次の本の内容になるんですが、スマートノートは理屈で考える万能兵器で、自分にぴったりの「いい人戦略」は何なんだろうって考えることもできるわけです。
何で今自分がうまくいかないんだろうというのを、一段階ずつ論理を下のほうにくぐって考える。どうすればいいのかはあとで考える。人間だいたい、困ったときにどうすればいいのか先に考えちゃうんですが、スマートノートではそれをすすめてないんです。どうすればいいかは勝手に結論が落ちてくるから、それは考えない。なんでそうなるんだろう、なんでうまくいかないかだけをひたすら考えていくと、ある時すとんと落ちてくる。それまで考えましょうと。いい人戦略を意識していれば、必ず選択肢もでてきます」

——『スマートノート』を読んだビジネスマンが、勇気づけられるだろうなと思った部分の1つが、さーっと書かれた部分なんですが「自分の立場をふまえて考える」という点でした。たとえば「自分は○○社の人間だから」という立場をふまえて考えることで、逆に、言葉に責任感や説得力が出るという内容です。どうしてもオトナになると、立場によってモノがいえなくなることって多いのですが、本書ではその部分をポジティブに転化させていますよね。(書籍:『スマートノート』P.211)

  はい、大事なのは、立場の限界というのをちゃんとカミングアウトすることです。オレ、○○社の社員だからここまでしか言えないけど、って言い方をすれば、聞いてもらえるんですよ。言えないことも、行間みたいなところで伝わるんです。それを言わず、自社にいいことだけどんなに言ってもだめで。
 これもいい人戦略のひとつで、範囲内でいっぱいやってることを見せると評価される。逆に、範囲を見せずに、それ以上はいえません、だと、逆評価されちゃうんですね。オレが言えるのはここまでだから。みんなも立場があるからわかるでしょ、とやれば伝わるんです」

——政治や行政も当事者がみんなそうやって喋ってくれたらいいですよね。見通しがよくなると思います。

 「みんなが、役職と個人を重ねて話せばいいんですよ」

——いい人戦略って、「戦略」っていうとなんか露悪的な気もするんですが、結局は「正直であれ」ってことじゃないんですかね?

 「正直が一番トクだから、というのがいい人戦略の戦略なんです」

——なるほど(笑)

 「いい人になれっていうと、みんな必要以上にいい人になって、へこむんですよ。傷ついたりする。
そうじゃなくって、戦略ですから、守銭奴にならなくても儲けることができるじゃないですか(笑)それと同じで、腹の底からいい人にならなくても、いい人にはなれるんです(笑)
 逆に、正直なのにいい人戦略を取れない人は、本音で生きようとして人前で不愉快な態度とっちゃったりするんです。そうじゃなくて、これは戦略なんだから、人前で笑顔でいるとか、お店ではお客さんにサービスするとか考えるだけで、その人のトクになっていくんだと。
 効率がいい考え方なんですよ。いろいろ考えずに最適解にもっとも近いところにいくんです。自分が世の中に出て行っている限りはいい人みたいにやっていけば、安定した株価のように評価があがるんです。
自分の才能に自信があったら、あえて露悪的になったり、ネガティブなことを言ってみる賭けにでてもいいんですが、まず、それで成功するのは5%だと思います。すごく難しいと。いい人戦略から踏み出してもいいけど、それはホリエモンやひろゆきへの道です」

——彼らはきわめて「強い正直モノ」ですもんね。
 あと1つ、『スマートノート』でよくわからなかった点があるんですけども。スマートノートには世界に対し主体性を保てるようになる効果がある一方で、岡田さんは本書のなかでキャラ分けを奨励されています・・・・そこはどうブリッジされるんでしょうか?

 「もうキャラを分けざるを得ないと思ったんですよね。今度、内田樹さんとの対談で『イワシ化』という言葉を使っているんですが、人間はどんどんイワシになっていくんですよ。
 イワシっていうのは、中心がとくにないけど群れていきてますよね。群れて生きててすごい勢いでウネがぐわーっと回転して解散してまた他のところで群れつくりますよね。
 それと同じように、僕らも、偶発的な事件があると、ぐわーっと回るんですね。イワシなんですよ。何か中心にポリシーがあると思ったら間違いなんですよ。そうじゃなくて今ある祭りみたいなものでどんどん加速して一緒になって泳いで距離をつめることしか考えていない。イワシのボールが小さくなってぽっと解散して次の群れをつくるんです。どんなイワシもイワシの群れに属していて同じ群れに属するわけではない。それが現代の社会です。
 ネットでどんどん情報が早くなっていてイワシのように水温や臭いとかで近くのイワシを感知してみんなのいるところへ素早く行って祭りに参加するという。
 『僕たちの洗脳社会』を書いたときはそこまでの状況は見えてなかったんです。当時はたくさんの価値観が出てきて、価値観がころころ変わっていくんだろうと思っていたんですが、今、状況はもう1段すすんで、みんながイワシ化のほうにいっている。イワシは10分前にどの群れにいたのか覚えていないんです。
 あるときはアンチ韓国になり、あるときはK-POPアイドルに傾倒し、あるときはネット右翼になり、あるときは急に左翼的なことを言ったりすることに関して、それまでの社会だったら昨日までとオレ言ってること違うじゃんとなるわけですが、イワシだからそれがないんですね。それが当たり前の社会になっていく」

——ハタから見るとイワシですが、個々のイワシは何を大事にしてるんですかね?

 「今の気持ちです。評価経済社会にも書きましたが『今の自分の気持ち』至上主義なんです。統一した自分てものはないんです。統一した自分は今日、昨日、1年前すべてに責任をもつってことですが、それが今はもてない。僕みたいに人前でしゃべっている人間ですら、毎月バージョンをかえて『岡田斗司夫2012.1』みたいに1月と2月と3月で言うことが微妙に違うのは、しょうがないから諦めてくれと言おうかと思っています。それくらいしないとモノ書きとしての正直さとか整合性とかが保てない」

——整合性が保てない?

 「これはバージョンだから、変わるもんだと」

——環境が変わるからでしょうかね?

 「環境が変われば自分の言う内容も微調整するしかないですね。微調整しないことが自我だとか、ゆるぎない自分だとか思われていたんですが、ゆるぎない自分なんてもう誰にもないんですよ。それはキャラとしてはありますよ。動物好きだとか。でも、1つのキャラの確立で生きれるほど、僕らは単純な世界で生きてないですよね」

——でも、言うことあんまりころころ変わると信用されなくなっちゃいませんか?

 「なので、今の自分の気持ちに正直だとしか言っちゃだめなんです。言うこところころ変わっても、今これが本気だと言ってる限り大丈夫なんですね。おっしゃられているのは、女が男ころころ変えたらアバズレと言われるのとおんなじなんです。でも僕らはもう、そう思わないじゃないですか。それが本気ならオッケーと思うわけです。それとおなじで、だいぶ昔にセーフが出てるんです。
 大事なのは、それが自分の利益のために好きな男のことをころころ変えているのではなくて、本当に好きな男が変わっているんならオッケーと。今の自分の気持ちに偽りがないということをちゃんと言えてればだいじょうぶでしょう。そういうふうなことを言える表現力が攻撃力になる。そして、『お前それでいいのか』といわれたときにふんばれる力が防衛力なんです」

——例えば、ジョブズってどうなんですか?一貫してるような、思いつきなような・・・・

 「ジョブズとジブリの鈴木敏夫は、そのとき思ったことを大声で言うだけの人ですから(笑)まさに評価経済社会のキャラクターなんですよ」

——でも彼らはすごく一貫性ある、魅力的な人に見えますよね。

 「あれは自分の感情に対して一貫性があるから。彼らの、こういうのが好きだ、こういうのが嫌いだには一貫性があるんです。でもこういう技術が好きだ、には一貫性がない。それは大事なんですよ、キャラクターだから。
 評価経済社会で最終的な勝者とは、つまり頂点とは、評価を集めることじゃなくて、『キャラクターだから許される』状態になることです。ホリエモンだから許される、ジョブズだから許される。
 例えば、部下を理不尽に怒鳴って辞めさせてもジョブズだから許される。
 例えば、松下幸之助はキャラクターになっているから何でもオッケーになるんです。もし松下幸之助が間違ったことを言ってても、部下は『何か俺たちにわからないことがあるに違いない』と思っちゃう。しかしそこから下って何代目かの社長になると、『社長なのにけしからん』といわれたりもする。松下幸之助のばあいは、やってることが合っているか間違っているか判定するんじゃなくて、この人が言ってることがわからないのはオレが悪いに違いないと下の人間が思う。
 ここになっちゃえば勝ちだし、そこに至らなければまだ『上場していない』という状態です」

——いわゆる「カリスマ」ってことですか?

 「カリスマとキャラクターはちょっとだけ違うんですよねえ・・・。
 キャラクターのほうは尊敬される必要がないんです。ミッキーはキャラクターだけど尊敬されていないですから。
 そういう意味では、ダチョウ倶楽部の上島竜兵はキャラクターだけど、カリスマではない。他の芸人が滑ったら命とりですが、あの人が滑ってもオッケーですよね。あれはキャラクターだからです。
 でも松本人志はまだキャラクターではなくてカリスマ程度だから、NHKのコント番組で失敗したら言われるんですよ。はやくキャラクターにならないと不利ですね。
 ビートたけしはキャラクターなんですが、映画監督の北野武はカリスマ程度だから、映画がつまらないと怒られるんですよ。キャラクターになっちゃえば映画がつまらなくてもみんなに納得してもらえる」

——評価経済社会の頂点とは、評価に左右されない評価を身につける、ということですか。

 「それを僕は『上場した』と呼ぶんです。周りから勝手に評価が集まってくる状態。上場してなきゃ自己資金でやらなきゃいけないけど、上場するとまわりから金が集まってくる。それと同じです」

——岡田さんご自身は前から「防衛力」をもっていらっしゃったんですか?

 「すごく時間かかりました。そこは今の若い人たちも同じだと思うんですが、攻撃力ばかりが身についちゃうんです。
 自分が同じ攻撃力にさらされたときに恐いから匿名を選ぶんですよ。
 武道で強くなるためには自分のツキと同じツキに耐えられる筋力を鍛えないとダメじゃないですか。それがみんなできないから試合にでれないから闇討ちばっかり考えるんですよ」

——では、岡田さんがご自身で「上場」を感じたのはいつごろですか?

「2年くらい前ですよ」

——けっこう最近なんですね。ダイエットのあとじゃないですか。

 「ずっとあとですよ。
 オタキングEXの仕組みを考えたとき、悪口言われてることすべてを肯定しようというふうに思ったんですね。知られていないのが最悪で、悪口いっぱい言われているのはかなりいい状態と思えるようになったら、かなり世の中の見通しがよくなった。そう考えると、オレの評価資本はかなりあるな、と」

——最後に、スマートノートを若い人にどう使ってほしいですか?

 「アタマのなかで考えず書くクセをつけてほしい。
 そして、スマートフォンとかデジタルツールでなく、手で書くクセをつけてほしいと思います。考えるということは肉体的な行為なんです。水泳をバーチャルトレーニングだけでうまくならないように、考えることも肉体訓練があって、ペンで書くのがもっとも効率がいいんです。
 あと、自分の考えていることをしょっちゅう書いて脳の負荷を軽くするクセをつけてほしいですね。だいたいの人は脳の容量を、今考えていることを忘れないためだけに使っているわけで、ノートに書いた瞬間、負荷が減って、ようやく脳がまわるようになる。僕はこれを『Cディスク98%の法則』といっているんですが、みんな頭の中だけで考えて喋ろうとしているから、脳のなかのハードディスクの98%がそれでしめられているんです。それを書くことで60%くらいにおとすと、自由領域が、フリーメモリーが増えて高速に思考できると」

——実際に、ノートによってダイエットとうつの克服に成功されていますが、これって人生における劇的な出来事ですよね。

 「それも書いてなんぼですよ。20代後半から書くってことをやっと習慣にしてそこからラクになって、それまでも日記やメモはつけていたけれど、考えていることを意識的に書き出したのは20代の終わりからで、これ20代あたまからやっていたらぜんぜん違うはずだよなあと思います。大学の教えている学生にもやらせていますが、毎日手で考えた子は、企画力が断然違ってきます」

——確かに、多感な学生時代からこれやったらすごくいいでしょうね。

 「あと、ネットとか見てると、情報を過剰にとっちゃうんですよ。
 書くっていうのは、1日に書ける範囲、考えられる範囲にフィルターかけるってことで、それやるだけで、脳内フィルターがどんどんできてくる。そうすると思考が明晰になるんです。それやらないと中毒状況になっちゃうんですよ」

——そして、脳内リンクが生まれたら感動的ですね。

 「あれができたら勝ったも同然なんです。
 スマートノートで作っているのは、表現力と論理力と独創力。論理力は防御力。防御するときに独創力も必要なんですよ。世間の見方だと負けなんだけど見方を変えれば、ということがやれたらいい。
 表現力と独創力と論理力の3つを組み合わせたら最高の攻撃力ができるし、防衛力もあがるし。ぜひ手で書いて考えてほしいですね」


 






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