ま、金ならあるし その189 「ニコ生」
2012年1月24日号(2012年1月10日発売)
最近、ニコ生にハマっている。周囲の学生たちは
「そうなんですよ。もうテレビなんか見てないですよ」
「毎日ニコ生漬けですよ」と言う。
ちょっと待ってくれ。違うんだよ。
僕がハマってるのは「見る」ほうじゃない。「しゃべる」ほうなんだ。
ニコ生、というのはニコニコ生放送というネット配信番組の仕組みを指す。
最近では東電の記者会見を毎日ノーカットで放送したり、ホリエモンの収監日に密着生放送したり、あと小沢一郎がテレビを追い出して記者会見したので、すっかり有名になった。
YouTubeと同じく、無料で豊富な映像が見れるから、いまや学生の間では携帯と同じぐらい常識だ。生放送ではなく動画を見るニコ動とYouTube、この二つがアニメや映画産業、すなわち有料コンテンツ産業を潰すと警告する人もいるぐらいだ。
で、僕がハマっているのは「無料で動画を見る」ほうではない。「自分の番組を勝手に作って、生放送しちゃう」なんだよね。
これ、画期的なシステムだ。従来では「オレには世間に言いたいことがある。でもテレビには出してもらえない」という人が最終的に選ぶのは「国会議員に立候補」だった。供託金300万とか600万をあきらめる覚悟なら、NHKの政見放送で好きなことが数分間、しゃべりまくれる。
ニコ生の仕組みは「オレは世間に言いたいことがある」という人に、タダ同然の格安でツールを与えてしまった。先日聞いた話では、ある中学生カップルの女子が男子を振った。「もう会いたくない」と宣言して、電話にもでなかった。その夜に彼女がニコ生を見ると、なんと別れた元彼が彼女を罵る生放送中だった。 画面中に流れるコメント、つまり視聴者のリアルタイム意見も「ひでー女」「別れて正解」とかばっかり。彼女は深刻なトラウマになって、以後ニコ生を見れなくなった・・・というオチではない。
なんと彼女も即座に生放送をはじめて、この元彼の非道を言い立てた。こっちは可愛い女の子だ。あっというまに視聴数は元彼を追い抜いて、彼女は大いに憂さを晴らしたそうだ。
誰もが自由に意見を発表できる仕組み。それは人類の夢だったと思う。でも、こんな未来は誰も予測していなかった。中学生カップルが、互いに賛同してくれる「援護」を求めて、深夜に生放送をはじめる世界なんかは。
おそらく近い将来、こういう番組が毎晩数千万も同時進行するに違いない。そうなったら「いま」「どこで」面白いことが起きてるか、その情報だけが重要になる。
「ここだ!」「次はこっちだ!」
こんな警報を最大の楽しみとして、それに群れて,飽きたら一瞬で解散する。それが今やネット世界の常識だ。
去年の暮れ、僕は内田樹さんと対談した。いまの世界を、ネットの海で生きる「イワシ化する私たち」と説明した。内田さんはゾクッとして、そして爆笑したよ。
僕がハマってるのは、ニコ生で自分の意見を話すことだ。
僕もイワシ化してるんだろうか?群れの中心にいたいイワシ、というだけなんだろうか?