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2011年10月02日

[悩みのるつぼ] バイト先での苦言気になる (回答編)

○質問者 大学生 女性

 私大理系2年の女性です。
 8月で1年続いた個別指導塾講師のバイトを辞めます。きっかけは風邪で欠勤したことで明確になった教室長との価値観の相違です。

 当日の授業の増減はよく起こり、直前に告げられるのが通常になっているのですが、欠勤はなかなか認められず「そこまで悪いことをしたのだろうか」と思いました。
 丁度その数ケ月前から体調不安定で、次の週から2週間ほど休みを取りました。すると体調も回復し、「知らぬ間にバイトが精神的な負担になっている」という実感が湧いてきました。
 個人的には一番しっくりくる理由であり、大学生なのだから勉強や日々の生活がバイトよりも優先されるべきだろうと思い辞めようと思いました。

 それを復帰後に責任者に伝えると、「人の意見を聞かず無理と思ったらやめる、そういう人は伸びない。その繰り返しで40歳くらいで、自分は何やっているんだろうと気づくんだ」「その性格ではうまくいかなくなる、将来的にまずい」など言われました。
 他にも仕事を終えたらすぐ帰るなど私の行動が「自分だけの効率」、「コミュニケーションを取ろうとしない」など指摘され困惑しました。

 私の結論には筋が通っているよう個人的には思います。他の上司や身近な人も賛同してくれましたが、あまりに確固とした様子の責任者の「助言」が引っかかります。
 私の考え方は間違っているのか。第三者からの客観的な意見をお願いしたいと思います。


○回答者 岡田斗司夫

 あなたの判断は間違ってない、辞めたのは正しかった、
という「イヤな話」をします。

 先生はえらい。なぜか?
 我々は先生に立派な人格者であることを「無意識に期待する」からです。
 警官もえらい。社会は彼らに命をかけた仕事を「無意識に期待」します。

 怖いから、家庭が大事だからと、緊急通報を無視して定時で帰る警官は困るでしょ?この無意識の期待に応えようとする心が「義務感」です。
 彼らは理不尽な義務感に応えようと、生活や命さえ犠牲にして働いてくれます。だから先生や警官はえらい。

 社会から義務感を強要される仕事や立場を「聖職」と言います。
 あなたのバイト・塾講師もまた、生徒や親から「無意識に期待される」職業、いわゆる「聖職」です。

 だから精神的な負担を感じたあなたは体調まで壊した。辞めたいと思うのは当たり前です。
 普通のバイト代しかもらってないし、学生の本分は大学だし。あなたが逃げるのは完全に正しい。

 でも、教室長は「プレッシャーがイヤだからって、逃げる?教師ってそんな”普通の仕事”じゃないでしょ?」とあなたに問いたかった。
 あなた同様に「聖職の義務感」にもう何十年も耐えている彼は、その状態が当たり前になりすぎて、うまく言葉にできない。「市場原理」「労働者の権利」「学生の本分」といういろんな概念を彼もまた理解・納得しているからです。

 社会は「聖職」にある者への期待をやめない。でも「聖職」への尊敬だけは支払いを止めてしまった。
 教室長も、イマドキの女子大生に「聖職」なんて言えない。だから「それじゃダメだ」とあなたの人間性そのものを批判してしまったのです。

 彼は間違ってます。愚かでした。
 指摘すべきはあなたの人間性や社会人としての適性じゃない。
「聖職者としての自覚」の有無についてです。

 あなたは一年間、望んでないながらも聖職の義務を果たしました。
 その貢献を讃え、僕は敬意を払います。
 気付きにくかったでしょうが、尊敬も受けてきたはずです。
 辛いことばかりではなかった。あなたを成長させてくれることも、喜ばせてくれることもあった、と僕は思いたい。

 お疲れ様でした。
 もし元気がでたら、また先生をやって欲しいです。
 僕たちの社会は、そういう「義務感」の理不尽を引き受けてくれる人を必要としているからです。

 あなたや、教室長のような人がいて良かった。




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  1. 1
    R.T 2011年10月02日 13:19
    質問者と教室長、双方を肯定した事に感心しました。
    いつもながら、言語化出来ていない考えを汲み取るのが上手いですね。
  2. 2
    dr997 2011年10月03日 00:42
    先生みたいな責任の多い仕事を長い間してる人っていうのはだいたい、今まで多くのトラブルを経験してきてるでしょう。なのでトラブルを回避するために自分の経験を振り返り、次からどう教育していけばいいかということを考えるはずです。ここで熟練の先生は悪い癖が出るんでしょうね。「こういうことをやってると、こういう人間になってしまいますよ」という教育法を開発し、それにハマッてしまうんです。しかしそういう癖を持ってるからといって不必要に人を不安にさせてしまう先生は立派とは言えないですね。質問者は変なとばっちりを喰らってしまいましたね。どんまい。僕からはその一言に尽きます。
  3. 3
    よしー 2011年10月04日 00:48
    聖職に限らず、社会に出れば相手に対して無意識に期待します

    上司、同僚、部下など

    いつも無意識の期待と現実のギャップに戸惑い、人間関係のもつれはそこから生じると思います

    惜しむらくは、質問者が塾長と徹底的に話し合う機会がなかったように見受けられること

    岡田さんに質問するくらい、悩まれて腑に落ちないのであれば、岡田さんに質問したあとに塾長に同じ質問をぶつけてみれば?とは思うのです
  4. 4
    ayatanko 2011年10月04日 00:55
    5 この新聞をお試しで読み、初めて岡田さんの人柄を知ることができました。
    (ダイエットでお顔だけは存じていました。)
    双方を悪者にせず、特に最後の「あなたや教室長のような人がいてよかった」とは、本当に素敵な回答でした。
    私も、岡田さんのように悩みを受け止められるようになりたい、、、と思いました。
    ありがとうございました。
  5. 5
    てり~ 2011年10月09日 03:53
    今日、初めて岡田さんの名前を目にし、ニコ生(録画ですが)を拝見させていただきました。
    理路整然(暴論も含め)に語る姿にとても痺れました。
    そして、どういう人物なのか気になってしまい、このブログに辿り着きました。

    さて、僕は某教育大学の4年生で、これから「よし、これから頑張るぞ!」という時なのですが、この記事の最後の部分(お疲れ様でした~必要としているからです)を見て、「あなたは社会的義務感を自分の義務のように受けてくれる大切な社会の歯車(奴隷)の素質があるので、ちゃんとやってよ」という皮肉にしか感じなかったのですがどういった意図で書かれたのでしょうか。
    もし皮肉を前提に書かれていたとして、それを咎めるとかではなくて、純粋にどういう意図だったのかなととても気になってしまったのです。

    もし「こいつ何言ってるんだ」と感じましたら承認しないで下さい。
    長文、乱文失礼しました。
  6. 6
    う~ん 2011年10月11日 20:42
    個人的にはこの文面からは、岡田さんの仰る 聖職者としての期待 は感じられませんでした。
    どちらかというと、単に 辞めてほしくない事を正当化したい だけのように感じます。

    でも強制的に辞めるという判断を覆すことはできないことも、理論展開として質問者さんの意見を覆すものを出せない事は解っていた。

    そのために間違った角度から論難、否定をしたように思います。

    この人はたぶん教師でなくても、たとえばマックの店長だったとしても同じ事を言うだろうと思います
  7. 7
    履歴書の書き方の見本 2011年10月17日 11:10
    とても魅力的な記事でした!!
    また遊びに来ます!!
    ありがとうございます。。
  8. 8
    yasusan 2011年11月02日 10:40
    岡田さんの質問への回答に対する一般の方のコメントを読むと、いつも世の中には本当に
    素直に物事を取れない人がいるもんだなあと、また、高いところにいる(ように見える)人を
    引きずり下ろしたがる妬みにあふれているのだなあと改めて感じさせられます。

    岡田さん自身が個人的には感じている批判性があったとしても、またそれが表だって伝えるべきでないと判断されて、許されると考えられた範囲で文章に盛り込まれているとしても、本当に絶妙のバランスのご回答だと敬服します。

    お答えが正しいとか、賛同できるかどうかは人それぞれが感じるところがあると思いますが、ただただお見事なご回答だと感じました。