FREEexなう。

2010年12月06日

○第12回:教えて、福井弁護士!(5)「僕たちは二重に税金を払っているんじゃないの?」

(12月6日(月)公開)

本の「自炊」問題から始まった、福井弁護士との対談(バックナンバーはこちらから)。話題は、新時代の国家戦略にまで及びます。今までの国家とは違う、新しい「国家」がネット上に生まれつつあるのです。

スキャン代行で、罰せられるのは誰?

再び自炊の話に戻るんですが、スキャン代行業者に外注した場合、法律違反になり得るのはどちらなんでしょう? 依頼した方? 依頼を受けた方? それとも、両方?

福井:ネットメディアの取材でもこの質問をされたのですが、なかなか答え方が難しいですね。もし裁判になったとしたら、一番責任を問われるのは業者でしょう。今のサービスの形態を変えない限り、違法の可能性が高いと思います。依頼したユーザーについては、「理論的には罪に問われることもありえる」という表現にとどめておきたいですね。
純法律的にいえば、私的複製に当たらない複製作業を他人に依頼したわけなので、状況によっては著作権侵害の責任を問われる可能性はあります。ですから、「罰せられることはない」と言い切ると嘘をついたことになってしまう。

では、法律の定義が緩やかな国にスキャン代行を外注したらどうなるのでしょう?


福井:む? その場合、依頼行為と電子データの受信は日本で行われるわけだけど、複製や電子データの送信がされるのは主に海外ということになりますね。ちょっと微妙な問題ですが、おそらく行為が行われる海外の法律が適用されることになりそうです。

これが可能なら、僕たちはまた1つ産業を失うことになるのかもしれませんね。米国Amazonで日本の本を買って、データだけ日本の顧客に送るビジネスだって成立するでしょう。

福井:うまいこと考えますねえ(笑)。

すみません。でも、僕としては日本の産業が他の国に持って行かれるのはイヤなんです。読者は日本の本が好きなのに、海外の企業がそこから利益を上げるのは、何だか引っかかる。みんな法律を守って真面目にやりたいと思っている。それなのに、産業が海外に持って行かれるかもしれない……。この切なさは何とかならないものなんでしょうか。

GoogleやFacebookは、新しい国家だ

福井:電子書籍に限らず、コンテンツ産業ではそういう「切なさ」を感じることが増えてきているように思います。例えば、Google、アップル、Facebook、Twittterまで、ネット上のプラットフォームは、現在のところ米国系企業の一人勝ち状態になっていますよね。
最近私は、サービスを利用している日本の事業者やユーザー側に立って、こうした企業と交渉する機会が増えているのですが、プラットフォームを握ることの強みを痛感させられています。いろいろ交渉しても、サービス提供側から「それは利用規約に反してるから、うちのサービスからあなたのユーザーアカウントを抹消しましょうか」と言われたら、厳しい。ユーザー側はそのプラットフォームの上で、ビジネスモデルや名声を築いてきたのに、それをゼロにされてしまってはかなわない。どんなにこちらに理があったとしても、流通のボトルネックを握られていては、対等な交渉にはなかなか持ち込めない。下手すると、0:10で負けることだってあるかもしれない。

今までの国家は、領土、軍事力、エネルギーをその基盤としてきました。今は、それに情報プラットフォームが加わります。ネット上で巨大な影響力を持つ情報プラットフォームは、もはや国家ですよ。

福井:一面、その通りだと思います。

これまでの税金や国家の定義は、もはや実情に合わなくなっている! 僕らは日本に税金を払った上で、米国の情報プラットフォーム企業=国家にも、使用料=税金を払わないと文化的な生活を維持できない。今の僕たちは、二重国籍状態なんです。

福井:そこです! でも、このグローバル化自体は多分止められないし、私たちの世界や可能性が広がるというメリットもあるから、一概にいい/悪いとは言えません。それはそれでいいのかもしれない。
ただ、1点注意すべきは、「その新しい国家=情報プラットフォームの“ルール”は、誰が作っているのか?」ということです。
繰り返しになりますが、たとえ今の国会はダメでも、日本の法律ならまだ私たちが何とかする余地があります。ところが、情報プラットフォームの法律、つまり利用規約は事業者が一方的に決めている。「この利用規約は事業者側の都合で突然変更されることがありますが、変更された規約にもあなたは従う必要があります」なんてものに対しても、「はい」とクリックして、サービスを使っているわけです。こういう利用規約は、寡占企業が一方的に作っている法律と言っても過言ではありません。
その情報プラットフォーム企業に対して、米国政府は影響を与えることができるかもしれない。しかし、日本人はそれに対して意見をいう権利も持っていない。
明治時代初期の、領事裁判権を思い出します。米国企業の情報プラットフォームの上では、もはや私たちは裁判権を持っていません。明治の頃、そういう状況を変えようとして日本は戦略的に動き、次第に不平等条約を改善していきました。けれど、ネット上での状況は、むしろ悪化しているのではないか。ネット社会における国家のありようは、重要な問題です。

僕は、二重に税金を払っている今の状況が面倒くさくてしようがない。だいたい、アメリカ人だからといって楽なわけではないですよね。一部のアメリカ人にとって有利というだけであって。

福井:そうですね。アメリカ人には、法律を通じてプラットフォーム企業を縛る方法がかろうじて残されてはいるけど、おそらくそれほどの実効性があるわけではない。

救いと言えるのは、ネットの世界では技術革新のスピードが速いことでしょう。覇権を握るプラットフォーム企業も10年から15年くらいのスパンで交代しています。

福井:確かに、私たちにとっての希望は市場です。というより、国家の法を通じたバランスに期待できないなら、市場メカニズムでのバランスに期待するほかない。ただ、市場が有効に機能すれば、です。今の段階ではこれも仮説でしかありません。

中国政府は、自由なネット利用を禁止しているけど、これも一概に「閉鎖的」と切ってしまえるものではないでしょう。


福井:おっしゃるとおり、中国は市場の理屈と国家の理屈を巧妙に使い分けようとしていますね。それが彼らの国家戦略です。日本は中国に何でもかんでも勝たなければいけないとは思いません。でも、図体が小さいのだから、戦略だけは1枚上手でいたい。

著作物は好きなだけ生み出せる、だからこそ著作権をきちんと考えよう

どうやって、本を合法的に「自炊」しようか話しているうちに、とんでもないところにまで来てしまいました。でも、私的複製を考えると、ここまで行かざるをえません。

福井:情報と制度のあり方は、21世紀最大の課題のひとつです。けして小さな問題ではありません。

みんな、自分の財産とか土地に関しては真剣に考えるんだけど、著作権に関してどうしてまったく考えないんだろう? バカですよ!


福井:ルールは自分でない、誰かが決めるものだと思っている人は多いかもしれない。お上がルールを決めたら、「日本の著作権法は周回遅れだね〜」と悪口をいう。それはちょっと甘い。

僕たちは土地を作ることはできず、買うことしかできない。でも、著作物は好きなだけ作れるんですよ!


福井:長い歴史の中で、本来情報は誰もが自由に利用できるものでした。著作権という考え方が生まれてから、まだ300年程度しか経っていません。だから、私たち自身で著作権がどうあるべきかを考えないで、誰が考えるんだと。議論を重ねることで、法律は変えられるんですから。

僕はしばらくの間、自分の手持ちの本をどんどんデジタル化していこうと思います。これでもし罰金を科せられるのなら、ちゃんと罰金は払いますよ。そのくらいのリスクをかぶるのが大人の責任でしょう。

福井:かっこいいです! もしオカダさんが逮捕されたら、面会に行きますので。

その時には、社員からもらった給料で先生を雇いますから。






testotakingex at 14:43コメント│ この記事をクリップ!
ゆるデジ 

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