(11月1日(月)公開) 手持ちの本をデジタル化する決意を固めたオカダトシオ。しかし、書籍を自分でデジタル化する「自炊」には、いろいろ厄介な問題があるらしい……? そこで、著作権問題に詳しい福井健策弁護士に、「自炊」を始めとするコンテンツの法的課題について根掘り葉掘り尋ねることにしました。 福井弁護士、「自炊」にチャレンジ 僕は自分の家から、思い出の本以外、すべての本をなくしてしまおうと計画しているんですよ。もちろん、デジタル化することで不便になることがあるのもわかっていますけど、それよりは体積を圧縮して、身軽になることの方がずっとメリットが大きいんじゃないかと。なんだか、離婚の相談をしているみたいだけど。 福井:えーっと、そこは突っ込むところなんでしょうか(笑)。 書籍を裁断してスキャニング、デジタルデータ化する「スキャン代行業者」が話題になっていますね。スキャン代行業者というのは違法なのではないかという意見もあります。福井先生自身、書籍を自分でデジタル化する「自炊」を、スキャン代行業者を使って試したわけですよね? 福井:こういう「私的複製」の代行ビジネスは、これまでにも書籍に限らず登場しており、そのたびに議論を巻き起こしてきました。そういう経緯もあって、たぶん法的には無理だろうなとは思ったのですが、自分が試しもしないで議論することはできないでしょう。おそらく違法だと思われるわけですから、他人の著作物で行うのは問題があるだろうと、自分の書いた本で試してみることにしたんです。 スキャン代行業者は、今すごく人気があって、データの納品まではちょっと待たされましたけど、これだけ鮮明にスキャニングできて100円というのは安いですよ。さらに100円追加したら、OCR処理もしてくれて、本の中身を全文検索できるようになった。 オカダさんはそんなことないんでしょうけど、私なんか忘れっぽいですから、本を出して何ヶ月かしたら自分が何を書いたかも忘れちゃうわけです。全文検索できるのは本当にありがたいですね。 僕も忘れますよ! 福井:ああ、本を書いた時はこんなに賢かったのにと、読み返して思ったり(笑)。 思います。モデルさんも、雑誌の中ではちゃんと写ってるんだけど、普段見るとダメダメでしょう。きっと、物書きの場合も同じなんですね。 福井:昔作った契約書についての相談がある時も、読み返すと結構しっかり作ってあって昔の自分に感心したり。電子書籍とは関係ないけど。 マンガを研究している人たちにとって、デジタル化は福音だと思うんですよ。というのは、マンガを定量的に研究しようとすれば、例えば「どの時代のどのセリフから、セックスのことを『エッチ』というようになったか」といったデータが重要になってきます。そういうことを実現しようとすれば、これまでは何百人がかりでデータベースを作る必要がありました。マンガ評論家の夏目房之介さんは、自分が生きているうちにマンガ研究が学問になることはないだろうと言っていたほどです。ところが、スキャナが進歩したおかげで、マンガ研究が学問になろうとしています。 福井:おっしゃる通り、電子書籍にはそういう便利さがありますね。オカダさんはどれくらいの量の書籍をお持ちなんですか? 減らして減らして、今は1万冊を切るくらいでしょう。 福井:減らして、1万冊ですか! マニアは冊数ではなく、「トン」で数えますよ。本棚の数が20を超えたら、単位はトンになりますね。 福井:特に最近のマンガって、冊数が多くというか、長すぎるような気もするんですけど。 昔のマンガだと、10巻を超えるのは滅多にありませんでした。『デビルマン』は全4巻ですし、『巨人の星』でも全11巻でしょう。 福井:そういえば、『あしたのジョー』も12巻でした。 それはそれとして、特にマンガだと分量も多くなるし、減量したくなるのもよくわかります。この「自炊」問題の厄介な点は、本当に書籍を愛しているファンこそ「自炊」を必要としているということでしょう。 家族が1万人いたら、自由に「私的複製」してもいい? 「私的複製」とおっしゃいましたが、自分の持っている本を自分でコピーすることもダメなんでしょうか? 福井:いやいや、それは違うんですよ。私的複製そのものは現行の著作権法ができた時から規定があって、ずっと適法です。自分自身や家族が使うため、それから家族に準ずるような親しい少人数のグループで使うためにコピーするのであれば、これは許されています。 家族が使うためとおっしゃいましたね。ちょっと変なこと聞きたいんですけども、養子を1万人くらいとっても大丈夫なんでしょうか? 福井:……はい? 養子の数に制限はないですよね? 福井:……まあ。 これは、法律的に問題ないですか? 福井:もうそれは、著作権に対するインパクトじゃなくて、社会に対するインパクトがすごいですよ! 世界的に有名になりますよ、オカダさん。 今でも、「趣味」で養子関係を結んだり、また切ったりということを繰り返している人たちがいると聞いたことがあります。その手続きが役所の手間になっているらしいんですけど。 福井:家族関係を見直したり、家族制度に対する社会実験としては意味があるかもしれませんね。著作権法的にどうかというと、確かに法律は「個人的、家庭内、その他これに準ずる限られた範囲で使うための複製は許す」となっていて、それ以上のことは書いてない。条文だけからすると、1万人の養子でも大丈夫な可能性はある。 ただし、実態を伴わないとダメですよ、オカダさん! 当たり前ですが、コンテンツの複製を行うためだけの養子関係では、「家庭」と見なされません。 じゃあ、ある学校において、生徒が全員、学長の養子になるというのはどうでしょう? 福井:え、なんで急に学校? 「うちの学校では、建学の精神として学長のことを『お父さん』と呼ぶようにしています」というのだったら問題ないのでは? 福井:「お父さん」と呼ぶこと自体は勝手ですけど(笑)、実態が伴わないと。 生徒が学費を納めるのを、親に対する「仕送り」だということにすればいいんです! こうすれば、今までできなかったことがどんどんOKになっていくんじゃないでしょうか? 福井:今日の話の方向が何となく見えてきました。けっこう真面目に準備したのになあ……。 僕も大真面目ですよ。ただ、いろんな考え方を当てはめていかないと、可能性を探ることができないでしょう。 福井:でも、オカダさん、親子間には扶養の義務がありますよ。 いや、この場合、学長が扶養してもらうんですよ。だって、年老いた親父をみんなで扶養するのはごく普通でしょ? ここで、僕が提唱している「拡大家族」や「exシステム」につながってくるんですけどね。 福井:拡大家族! まあこうなると「家庭」とは何なんだという問題か……。 今の著作権法はとても使いにくくなっていますから、「家庭」を使ったこんな抜け道があったら、面白いなって思ってます。ま、養子1万人は、与太話みたいなものなんですけど。 福井:私も、著作権法をどうやって改善していけばいいのかということをずっと考え続けていて、自分なりには大胆だと思う案も考えては来たんですよ。でも、今のオカダさんの話を聞いたら、自分がすごいコンサバな人間に思えてきた(笑)。 僕はデタラメですから。 福井:そうか〜、家族から攻めるか〜(笑)。 1本だけソフトウェアを買って、それをコピーして全社員が使っている会社があるじゃないですか? 「これは限定された関係だから、問題ない」と言い張っても、あれはダメですよね? 福井:どう考えてもダメです。 養子1万人の話は置いておくとして、普通はそんな大規模な「家庭に準ずる関係」はちょっと考えられません。通説では、せいぜい数人というところでしょう。 さらに、企業の業務における著作物のコピーは、1部でもダメというのが、有力な解釈になっています。なぜならば、その場合自分個人のためではなく、企業という別人格のためにコピーしているからです。企業はいわば社会的活動を行う存在であり、社員が何人いるにせよ、収益を上げて関係者に行き渡らせるための仕組みということに変わりはありません。 そのような企業という存在を、家庭に準ずるとする考え方は、昭和30年代ならいざ知らず、今の日本ではおそらく通用しませんね。 もっとも、企業内では1部のコピーでもダメというのは不便すぎるという批判もあって、現実の利便性をどう高めるかは課題ではあります。 「家庭に準ずる関係」は、だいたい何人くらいまでが通説なんですか? 福井:比較的多めに考える法学者で、10名程度というところでしょうか。 スポーツの1チームくらいなら、「家族」という感じがしませんか? フルメンバーに加えて、補欠、あとマネージャーで、18人まで。 福井:スポーツものでマネージャーは必須ですよね(笑)。ただし、まだはっきりした判例はなくて意見の幅はあってもいいのですが、「個人的、家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」という条文からすると、18人は厳しいと思います。 では、話をうんと最初の方に戻しましょう。僕としては、本のデジタル化のメリットがわかっているから、自分としては進めたいし、社会的に認められれば一読者としても安心です。でも、僕は本の書き手でもあるから、出版社や著者達が不安になるのもよくわかる。ただ、この話を広げようと思えば、どこまでも広がっていきますから、ここではユーザー、読者の目線から考えたいと思います。例えば、自分たちで「自炊」の代行を雇うのもダメなんでしょうか?
























