7月10日(土)付の朝日新聞「悩みのるつぼ」のメイキングです。 ○質問「クラス内ポジショニングについて」 中学2年生です。クラスの女子には階級があります。 明るくて派手なグループが一番地位が高く、その下に「2軍」グループがあり、一番下が暗くて地味なグループで「陰キャラ」です(母の時代は「ネクラ」と言ってたそうです)。 先生はクラスの中心である派手グループとからんで授業やHRを進めるし、男子に人気があるのもそのグループです。 私のポジションは、一番地位の低い陰キャラで、派手グループの子には無視されるか「暗い」「キモい」と言われ、先生にも男子にも話しかけられることはありません。同じ陰キャラにはかわいくてお洒落な子や、勉強ができる子もいて、すっごく暗いわけではないのに、何で陰キャラなのかわかりません。 まあ、たしかにアイドルより動物が好きだったり、ショッピングモールより公園が好きだったり、ちょっと話題がずれてるかも。部活も地味な卓球部です(いまイケてる部活はバスケやバレーボールです)。 お洒落やテレビの話が好きで、テンションが高くて、いつも街に出てプリクラやカラオケで遊ぶ派手グループに入りたいわけじゃないけど、クラスの女子にも男子にも蔑まれるのはイヤなんです。ふつうに楽しく中学校生活を送るにはどうしたらいいのでしょうか。クラス内のポジションなんか気にするな、って言わないでください。女子中学生にとって、一番大事な要素なのです。 ●岡田斗司夫の回答 残念ながら「普通の楽しい中学生活」は存在しません。 「楽しい中学生活」なら可能です。「オシャレでテレビの話が好きになる」、つまりバカになって派手キャラになるか、二軍グループで陰キャラを差別すればいい。バカになるかイヤな奴になるか、このどっちかです。 でも、どっちもイヤなんですよね? 転校しても状況がよくなる可能性は少ないでしょう。あなたの中学だけの問題ではないからです。日本中、どの中学校に行っても同じでしょう。 この時期を乗り越えるためには、4つの選択肢があります。 A自己改造:自分の趣味を変え、アイドルやショッピングが好きなフリをする。なんとか二軍に入り、陰キャラの悪口を積極的に言うことで、あわよくば派手キャラの仲間を目指す。 Aは強いけどイヤな子、Bは正義感があるけど暗い子、Cは賢いけどずるい子、Dは優しいけど弱い子、です。 Aになれますか?クラスのこういう人が嫌いじゃないですか?でも今よりマシ、と思えるならAを目指しましょう。 あなたの悩みは残念ながら誰にも解決できません。でも誰かの悩みを聞いてあげると、少しだけ軽くなりますよ。僕もいま、中学時代のことが少しだけ軽くなりました。 ありがとう。 「悩みのるつぼ」は編集部から相談をもらう度に、オタキングex社内で掲示している。4~5種類ある相談からどれを選んで回答するのか、みんなで話し合うわけだ。 他の相談と並べて社内に掲示した。相談依頼は1. から7. までの七つ。この女子中学生は1.だ。 「1. 「1.番が読みたいです。自分の立ち位置を変える方法は、女子中学生だけではなく大人にも十分対応する問題ではないでしょうか。」 「1. がいいですね。せっかくの指名ですし。 「いやもう、今回断然超ぶっちぎりで1. が読みたいです! 「1. 「1. 「1. について 「やはりまずはだんぜん1. です。 「1. 以上、社員たちの意見を読んで、それでも僕は迷っていた。 「1. の希望が多いですね~。まぁ、かくいう自分も1. が読みたいと思っています。ものすごく自分と重なる部分がありました。 彼女はまだ若く、しかも先日結婚して幸福な新婚生活をはじめたばかりだ。いつも笑っていて、そんな過去があったなんて社長の僕は知らなかった。 僕の心はここで決まった。 下書き 『中ニ病』という言葉があります。中学二年生は、それくらい人生で最も愚かで残酷な時期。『ふつうに楽しく中学校生活』とは、『二軍にいながら陰キャラをいじめ、一軍をめざす』を意味してしまいます。 なぜそうなってしまうのか? 中ニは、生物的に体はほぼ大人なのに社会的には一人前ではない。まだまだ役に立ちません。だから大人たちは、あなたたちを一か所に閉じ込めて、社会の邪魔にならないようにしています。勉強だの、集団生活を学ぶだの、言葉は取り繕っても、働く親のため幼児を預かる保育所と同じ。きつい言い方をすれば、中学校は時間で区切られた牢獄です。 目的もなく閉じ込められた数十人、数百人の集団内では、必ず、退屈と暴力が支配します。そういう環境で、人間は必ずそういう行動をしてしまうものなのなのです。 アメリカでは実際に、暴力事件で人が死んだりしています。日本は、言葉の暴力や関係性の暴力(無視とか)が中心で、まだましと言えます。 教師のせいでも、生徒のせいでも、親のせいでもありません。みんな、良いと信じてやっていることなので、安易に誰かを恨んでも、何の解決にもなりませんよ。 代わりのシステムが生まれない限り、この状況は変えようがないのです。 もちろん、あなたのクラスだけ、あなたの学校だけの問題でもありません。だから、転校したからと言って劇的に状況がよくなる可能性は少ないと思います。 高校になればこの傾向は少し弱まり、大学では相当軽くなるはずです。 A 自己改革 A–強いけどイヤな子、B–正義感があるけど暗い子 C–賢いけどずるい子 D–優しいけど弱い子 です。 以上の下書きを書いても、僕の心は晴れなかった。 途中で、書いてるのがイヤでイヤでしかたなくなった。 でも時間は過ぎてゆき、〆切りは迫る。書くしかない。不完全なものでも「はい、できあがりです」と渡すのがプロだ。プロとは「納得できるものだけを出す」のが仕事じゃない。それは芸術家だ。そんなきれい事を言うヤツは、単に「納得できる」レベルが低いだけだと思う。 プロとは「納得できなくても〆切りを、約束を守ること」だ。新聞はライターだけで作ってるんじゃない。取材する人、見出しをつける人、分量の調節をする人、印刷する人、配る人。その全員が「納得できるものだけ」とか言い出したら、年に3~4回しか発行できないに決まっている。 「制限の中でベストを尽くす」「出来に納得できなくても、少なくとも堂々と人前では胸を張る」 自分にそう言い聞かせ、原稿の文字数を削りつづける。 「期待する」? そうか、彼女だけの問題じゃないんだ。 みんな、こころのどこかで夕陽を見ながら「いつまで続くんだろう」って思った自分を、その頃の自分をなんとかしてあげたいと思ってるんだ。 わかった。 相談者の女子中学生に対して、僕は無力だ。「こう考えてみましょう」という程度のヌルい助言しかできない。でも、一生懸命に考えて答えることにより、彼女は「誰かがちゃんと答えようとしてくれた」という部分だけでも、ほんの少し心が軽くなるかもしれない。 でも、本質はそこじゃない。 大事なことは、彼女の相談を読んだり、僕の回答を読んだりする人たちの心の中にいる「弱かった自分」は少しだけ救われる、ということだ。 この回答で救われるのは、相談者の中学女子じゃない。 僕は彼女の悩みに答えられない。 でもその瞬間、彼女自身の心はほんの少しだけ軽くなる。 夕陽を見ながら「いつまで続くんだろう」と思っていたあの頃の自分を、やっと少しだけ慰めることができる。だからこそ、目の前の苦しんでいる子供に一生懸命話しかけようとする。 でも「なんとかしてあげたい」というパワーだけは、伝えることが出来るんだ。 僕たち人間は「他人の苦悩」で、自分の悩みや辛さを少しだけ薄めることのできる、そんな罪深い存在だ。 でも生きていかなくちゃいけないし、答えられない問いにも答えるしかない。 そして相談者の女の子も、いつか誰かに相談された時に、ほんの少しだけ気が楽になるだろう。それまで元気でやっていけることを心から願う。 だから僕は、結びに相談者へのお礼を書いた。
B社会改造:こんなクラスは間違っているという主張をもち、生徒会に立候補したり、先生に訴えたりする。成果が出ない場合は、同じ気持ちの友達とグチを言いあう。
C環境変化:家庭と中学生活以外に、所属できるグループを見つける。塾でも習い事でも地域のスポーツでもネットでも、少なくとも二つ以上に所属する。
D逃避:一番ひどい中学時代は自分を慰め、息を潜めて高校になるまでひたすらがまんする。陰キャラ同志で仲良くし派手キャラや二軍には近づかない。
いまのあなたはDです。これがイヤななら、踏み出す方法は、ABCのどれか。
Bは「悪目立ち」しますし、あまりオススメできません。でもどうしても周囲が許せない、と思うならやってみましょう。
Cはオススメです。学校と家以外に相談したり友達ができる場をさがしましょう。同じような悩みを持つ仲間を見つけ、彼らのためになにか出来ないか考えてあげるのです。
回答者はどれを選んで答えてもかまわない。当たり前だけど普通、自分が答えやすい質問を選ぶのが人情だ。
しかし、今回の場合はちょっと事情が違った。朝日新聞の担当者によると、この相談には「岡田さんにぜひ答えてほしい」という一文が添えられていたという。
正直言うと「これ、難しいから逃げたいなぁ」と思った。だって解決不可能な相談だもん。14才の少女から指名して「助けて」って言われても、僕にはどうしようもないんじゃないか、と思ったんだよ。
社員たちの反応ははっきりしていた。
1. に答えるべき。ほとんど満場一致だった。
指名でもあるし、ぜひ答えてあげて欲しいと思います。
幸い、私には少数ではあるものの「ネクラ仲間」がいましたが、彼女の気持ちはよく分かります。(「ネクラ」という言葉は私よりも数年あとに登場した言葉ですが)
早ければ高校で、遅くても大学に行く頃には仲間が見つかるし、今はWebで多くの出会いがあるから心配ないよ、なんていう言葉は彼女には届かないでしょう。
コミュニケーションのセミナーでは「性格は変えられないが行動は変えられる」として、何らかの行動の変化を求めるのが定番ですが、一度貼られたレッテルはなかなか変えられません。そもそも彼女は本当に「陰キャラ」なのかも分かりませんし。
なんとか安心できる言葉をかけてあげたい。」
クラスに階級があるというのは今も昔も変わらないんですねぇ。」
きっと彼女も大人になったらいっぱい居場所を見つけるでしょうが、今の中学校という閉鎖社会での現世利益をどう社長が導き出し答えるのか、非常に興味があります。
彼女は相談文を読んでいてもとても頭のいい子だと感じますし(中学生で社長を指名だなんて、タダモノじゃないw)、彼女が「蔑まれたくない」と考えるのは非常に正当なことですしね。
何より、昔の自分を見てるようで、他人事に思えないですよ。」
みんなと違うところがあると認識して、上位に行きたいと思ってるのならば、あとは実行するだけではないでしょうか。ファッション誌や流行の曲をチェックして、明るい声でみんなに話しかけてみてみましょう。でもかわいくてお洒落な子も陰キャラだし、と思うかもしれませんが、その子は一人で居るのが好きか、かわいすぎて逆に蔑まれているだけかもしれませんよ。
中学生ってそんなもんです。その子も上位に居なくてもいいと思っているだけでしょう。
上位に行けたとしても、それであなたが幸せになるかどうかはわかりません。
もしかしたら上位に居続ける努力に疲れ果てて、「やっぱり公園で座っているのが好き」となるかもしれません。
それでもちょっとくらいはファッションに気をかけて、みんなとコミュニケーションを取りましょう。最低限蔑まれない学生生活を維持すべきです。
あなたが目指すべきは森ガールです!」
社長がいつぞやの、ひとり夜話で「モテるのは(人気があるのは)明るいバカ」と言っていたのを聞いたことで、何かがストンと落ちたので、そのことを伝えてほしい。
偏見かもしれませんが、新聞を読み相談を送る中学生ってだけで、「明るいバカ」ではないよな、と。
あと、質問者以外にも、新聞を読んでいる人が活用できる確率の多い悩みじゃないかと思うので(⑤もですね)、①番が読みたいです。」
彼女同様、僕もクラスの皆に嫌われて先生からも無視されてましたが、特に苦になりませんでした。何故なら別のクラスの友達と漫画を描くのに忙しかったからです。
先生やクラスメートから疎外されている分、付き合う時間も省けて有意義に過ごせました。
ぼくはクラスの全員にあだ名をつけて、ストーリーを作ってました。まあ「坊ちゃん」の真似事をしてたわけです。
観客主義に徹し、クラスを分析してはどうでしょうか?皆エリートでまじめなクラスより1軍2軍のあるクラスって面白いじゃないですか。」
社長を指名してきたところからして、おそらく相談者本人が、以前の社長の回答「ダイエット中学生」「父が嫌いな女子高生」の少なくともいずれかを読んで、〈この人なら!〉と思ったんだと推測されます。自分が言うべきことでもないような気がしますが、じつに回答者冥利に尽きる話だと思われ、ぜひ答えていただけたらと思います。
また、相談の内容じたいも、いわゆる〈スクールカースト〉と呼ばれるような、多くの学校で現在進行形で起きている事態に関わっており、宇野常寛ではないですが、ともかくそうした状況下で、決断&サヴァイヴするしかないですよ以上の処方箋(?)も必ずしも示されていない現状で、回答の意義は相当大きいかと。」
皆さんと同じくこの相談の回答に関心があります。
私の頃は、はっきり覚えていないのだけど、確かに人気の有る無しはあったものの、それほど明確な「区分」はなかったような気がします。
ただ、女性の世界のポジショニングは、実は年を重ねても続きます。専業主婦の世界は、まさにそれだそうです。そこでの地位は、(1)夫の社会的地位・収入(2)子供がどこの学校に通っているか・・で決るそうです。どちらも、くだらないです。当該女性の本質と関係ないことで決るわけですから。
私には色々見えなすぎて、よくわからない。」
たしかにこの問題に対する明快な対処法など聞いたことがない。つまり、「絶対に解決不可能な問題」ということだ。
逃げたいなぁ。
正直、ギリギリまでそう思っていた。
でも、この女性社員のコメントを読んで、気が変わった。
彼女の言うとおり、中学生のクラス内でのポジションは死活問題だと思います。「気にしない」では確かに済ませられないんですよね。
自分も下位層だったので、人気者にくっついている人たちのグループからいろいろ言われたりしていましたよ。
同じグループ内の友達と学校帰りに公園に寄って、「なんでいじめられるのかなぁ・・・」なんて言いながら、夕日をバックに傷を舐めあったりしたものです。
やっぱり公園に行くのか(笑)
彼女を含めた世の中の同じ悩みを持つ人が、ちょっと楽になれますように。(もし回答してもらえるのなら)」
「やっぱり夕陽を前に悩むんだね?」と冗談ぽくふってみると、「そうなんですよ~。人間ってそう言う時でも絵になるTPOを選んじゃうんですよね~」と笑いながら返してくれた。
「でも、あの時いちばんしんどかったのは、『これがいつまで続くんだろう?』ということでした。いじめられるとか無視されるとかよりずっと、いつまで続くかわからない不安の方が怖かった」
問題の解決をしようなんて、回答者のエゴだ。
回答できないからスルーしようとする。それは彼女に対して、同時にこの女性社員の過去に対して加害者に、共犯者になることだ。
未完成でもいい。とにかくなにか答えられればいい、と思って僕は下書きをはじめた。
イヤでしょうが必然です。
仲良くしなさいという教えは、何の力ももちません。
とは言え、あなたにとって今この時が切迫した問題なんですよね。
今、この時期を乗り越えるためには、4つの選択肢があります。
自分の趣味を変え、アイドルとショッピングモールを好きなフリをする。何とか二軍に入り、陰キャラの悪口を積極的に言うことで、あわよくば一軍を目指す。
B 社会改造
こんなクラスは間違っているという主張をもち、生徒会に立候補したり、先生に主張したりする。成果が出ない場合は、同じ気持ちの友達とグチを言いあう。
C 環境変化
中学生活以外に、放課後に所属できるグループを見つける。塾でも習い事でも地域のスポーツでもネットでも。少なくとも二つ以上に所属する。
D 逃避
中学時代が一番ひどいのだと自分を慰め、今のまま高校になるまでひたすらがまんする。
陰キャラ同志で仲良くして、一軍、二軍には近づかない。
今あなたはDですが、これではイヤだと思っているわけですよね。
一歩踏み出す方法は、ABCのどれかです。
ABは、すべてを失う可能性があります。踏み出すならまず半歩。誰かと二人一緒が良いかもしれません。
Dはいつでも引き返し可能。軽く試してみるには向いています。
あなたができること、あなたに向いている方法を考えてみましょう。
分量は規定を遙か超過してるし、なんだか理屈で丸め込んで「納得しろ」って言ってるような気がしてしまう。
それでも思い浮かばないんだから、もう仕方ない。〆切りギリギリになって、とりあえず文字数を削る作業に専念した。
彼女は「いま」が苦しいんだ。「未来」が見えなくてしんどいんだ。
情況を整理して、選択肢を与えて選ぶように助言して、それが何になる?
それがプロのプライド、矜持だ。
社員たちは僕の回答を見て、どう思うだろうか?
「社長もたいしたことないよな」と思うんじゃないだろうか?
新聞の読者は?「やっぱり人生相談コーナーなんていい加減だ」と思うだろうか?
でも、もしガッカリするとしたら、それは「期待したから」ガッカリするんだろう。
そう、社員たちは「社長に答えて欲しい」と期待する。なぜかというと「中学生の気持ちがわかるから」
新聞の読者もきっと「彼女の気持ちがわかる」からこそ、「なんとかしてあげて欲しい」と期待する。
僕たちはみんな、多かれ少なかれこの「中学二年の女子」が心の中にいる。似たような経験や思いや辛さを味わってきている。
相談文を読んで、自分を思い出して、悩んだり思い出したりした人たちだ。
彼女以外の、この問題のすべての被害者や加害者や共犯者たちの、心の十字架をほんの少しだけ軽くする。
でも、いまの僕は彼女の問題に答えることで、少しだけ「かつての自分」が楽になる。
彼女も、数年後かもっと先、同じような悩みを後輩か、ひょっとしたら彼女自身の子供から打ち明けられた時、やっぱり答えられなくて解決できなくて悩むだろう。
問題は解決できないし、回答もない。
罪を無くす事なんてできない。解放される方法もない。
「辛いよね。わかるよ。僕たちも辛かった。でも言ってくれてよかったよ。相談してくれて、ありがとう」と。
ほんの少しでも救われたのは僕だ。僕たちだ。
これがいまの僕に出来るベストだ。