09. すべてはFREEに向かう(回天編)
twitter を奨めてくれたのは週刊アスキー編集者の矢崎氏だ。彼の薦めでiPhoneまで買ってしまった僕はすっかりtwitterにハマってしまった。140文字という制限は僕らのように原稿表現を生業にしてる身にはかえってやりやすい。
「言いたいことを、最初に思いついたフレーズにこだわらずに短く言い換える」
たったそれだけのことだからね。
ハマった僕は新しい遊びを考えた。
twitter公開読書だ。読んだことのない本を初見で読みながらtwitterで「つぶやく」。余裕があれば自分の感想も書くし、質問にも答える。
面白そうだ。やってみよう。
題材として選んだのが、本屋で青い表紙が気に入った『FREE』という分厚い本だった。
さっそく公開読書の企画をブログやtwitterで呼びかけ、僕はぶっつけ本番でつぶやきながら『FREE』を読んだ。
結論から言うと公開読書は大成功だった。
なによりすごいと思ったのは、みるみる参加者が「教育」されていくということ。質問を投げ合い、お互いに答え合い、すでに読んだ人が解説し、未見の人は我慢できずにその場でamazonを「ポチッ」として報告する。
そのダイナミックな知的狂騒状態は、参加した者の「知的姿勢」をあっという間に矯正し、教導する。すなわち「進んでいる者」が「理解しきれない者」に教え、教えることによって自らの理解をさらに深めるのだ。
twitterというのは教育媒体としても、また集合知としてもこんなに使えるものだったのか!
僕はびっくりし、興奮した。
だけど同時に落ち込み、大いに悩んでしまったんだ。
『FREE』(NHK出版 クリス・アンダーソン)はいま、経済界を震撼させている怪物本だ。「料金を取らないことでお金を稼ぐ」という同書で書かれたコンセプトは、いままでもあったけれど概念としてまとめて提出されると、驚くべき明日の世界を見せてくれた。
くわしくは同書をぜひ読んで欲しい。
とりあえず僕は考え込んでしまった。
僕が書いている本、その内容は「情報」だ。情報はFREE=無料になりたがる。ここから考えると著作で喰っていくというのは今後、ますます難しくなるだろう。
もちろん、それでも大ヒット本は登場するだろう。でも大ヒットを出した人しか喰えないような業界は間違っている。
「1.儲からなくてもやる人」「2.なんとか喰えるからやる人」「3.儲かるからやる人」、以上3種類の人が混在してこそ産業は活性化する。3の人はすでに抜けて、2の人がどんどんいなくなっていく。いま考えている出版という産業は、たぶんあと10年以内に数分の一に縮小するだろう。
どうすればいい?
考えたよ。それこそ必死になって。
自分の書いた本の一部を無料で配布して、残りを売るとか。こないだも書いたように講演やセミナーで喰っていくことも考えた。
そういえば取材先のライターや編集者が次々と転業・廃業したり、やたらと出版点数を増やそうしてるんだよね。それを聞いたある放送関係者は「まるで沈没船から逃げるネズミですね」と評した。無神経なセリフには怒るよりも「事態はそこまで来てるんだよなぁ」と思ったけど、「お前の業界も3年遅れで同じ波が来るんだぞ」と言い返してやった。
でも、前にも書いたとおり講演やセミナーは「違う」気がする。
とりあえず2009年末の僕は、もう本当にひたすら考え、悩んでいた。
そんな時、以前から企画が進んでいた小飼弾さんとの対談話が急に具体化した。
単行本化を前提にして、二人でなんでも話し合ってライターの方にまとめて貰う。
2010年の1月26日(火)、僕の事務所で対談の第一回目は楽しく終わった。
「今度はぜひ、小飼さんの部屋でやろう!」と約束した。
2月14日(日)、大阪で「ひとり夜話」のトークイベント。その夜、僕は「これからのひとり夜話の方向性を考えている。もっと参加者の負担にならない方法を模索している」と話した。
正直に言おう。僕はその夜、明確なプランは持っていなかった。
「ひとり夜話」の収録DVDを1枚2000円ぐらいで売ろうかな、とか考えていただけだ。または会員登録したら1000円程度でダウンロードできるとか。
それでもとりあえず、毎月スケジュールを合わせて新宿や難波に来るよりは参加者の負担はずっと減るに違いない。その程度の未来を考えていた。
でもね、やっぱり不安だったよ。
これが「FREE」の回答なのかって。
こんな普通の、ファンクラブや有料セミナーもどきのアイデアで新時代へ行けるんだろうか?
普段、人に相談などしない性格の僕も、その頃はとことん弱気になっていた。
おまけに、目の前にはとんでもなく頭が良い成功者がいるではないか。
2月16日(火)の夜、東京のど真ん中、超高層マンションの最上階ペントハウスにある小飼邸からは、どこまでも美しい東京の夜景が広がっていた。
対談は無事に終わり、僕は思いきって「小飼さん、ちょっと僕の相談にのっていただけませんか?」と切り出した。
小飼弾氏は笑顔で僕の話を聞いてくれた。
相談というのは、話を聞いて貰えば9割終わっている、というのが僕の持論だ。
今回の相談にしても、僕は何度も自分のノートにまとめていた。僕の持論からすれば、すでに回答はその中に隠れているはずだ。
しかし「自分の都合のいい回答」のみを求める僕は悩みの迷路に迷い込み、小飼氏からなんでもいい、ご託宣をいただこうとしていた。
おねがい、ダン。教えて!
どうすれば僕も、こんなカッチョいいマンションの最上階でお金に悩まずに暮らせるの?
しかし小飼氏に説明しようと話す僕の口調は、どんどん愚痴っぽくなってしまった。
「会員制のサイトを自分でやろうとチャレンジしたけど、よくわからない」
「ひとりテレビのネット配信、よくわからない」
「若い人が自分よりずっと気楽に上手く映像配信などやってると、劣等感で自分に腹が立つ」
小飼さんは「僕もそういう映像系の会員サイトを運営したことはないからよくわからないけど」と前置きして、こう答えた。
「岡田さん、それ誰かにやらせたら?」
「え?」
「岡田さんのやろうとしてることは『ビジネス』でしょ?ビジネスの定義は『自分でやらずに人にやらせる』ですよ」
「つまり、どっかに発注しろ、という意味ですか?」
「いや、そんなの関係ない。『誰か』にやらせるんですよ」
小飼氏のサジェスチョンは明快だった。それまでの僕は「どうやって?」だけを考えて、全部自分がすることばかり考えていた。
そうではなくて「誰が?」だけを考える。「どうやって?」は任されたそいつが考えればいい。
「でも、誰にやらせるんですか?」
「呼びかけて集めれば、タダ働きする奴はいますよ。岡田斗司夫ですよ。大丈夫」
「いや、そんなの無理ですよ!」
「昔、SF大会でやってたじゃないですか。きっといっぱい集まりますよ。弟子を取ると思えばいいんです。タダ働きどころか、弟子なんだから月謝を取ってもいい」
小飼氏は楽しそうに「弾言」した。
丸め込まれたような気分で、僕は納得してしまった。
いや。
しかし。
やっぱりダメだ。
でも。
ひょっとすると。
違う!
待てよ。
帰りの地下鉄で僕の頭の中はぐるぐる回転した。
よくわからないけど、ここに解答がある気がした。
事務所に帰っても、頭の回転は止まらない。
「人にやらせることが『ビジネス』の定義」
「弟子なんだから月謝取ってもいい」
「SF大会と同じ」
小飼氏の言葉を中心に、いろんな考えやアイデアのツリー構造が集まって結合する。
しかしその結合は脆く、少しの矛盾であっというまに空中分解し、また新しい結束点を探し出す。
仮説。
仮定。
問いかけ。
自信。
不安。
まず、いままで悩んでいた事や「やるべき」と思いこんでいた事を思考停止する。「頭の棚」にしまって見ないようにする。
フラットに考えてみよう。
果たして僕はなにを望んでいるのか?
どうすれば満足するのか?
小飼さんのペントハウスのような生活か?
大ヒット作家のように「新作を待ち望み、買い漁ってくれるようなファン」が大量に欲しいのか?
ああそうだよ。もちろん欲しいとも。
でもそれだけか?よく考えろ。
思い出せ。
マイケル・ジャクソンのことを。
そう、マイケル・ジャクソンを思い出せ。
忘れたのか?
「人類の苦痛の0.3%を削減する」
著作も活動も、すべてその目標にあるはずなのに。
人より自由な生き方も、気楽に見える人生も、すべて「その報酬」の前払いにすぎない。
なのに、僕はいつのまに自分の目的を見失って「生きていく」「喰っていく」ことだけ考える奴になっちゃったんだろう。
ああ、そうだ。
ガイナックスをやめたとき、「もう二度と誰かと仕事するのはやめよう」と思ったよ。
別に誰かに裏切られたわけじゃない。
でも、やっぱり「ひとりが気楽だ」と思ったのは本当だ。
でも、その後も会社を作ったし、共同プロジェクトもやった。
柳瀬君たちとオタキングを運営し、海洋堂と食玩を作った。
けっきょく、仕事というのは「誰かと」するものなんだよな。
人間不信。
使命感。
整合性。
原点確認。
事例調査。
分類→仮説→検証→仮定→外挿→実験方法→思考実験。
こう言う時、考えるのを止めてはいけない。脳内の沸点を下げてはダメだ。
まだ冷却凝固させなくてもいい。さらなる化学反応を起こすには、「落としどころ」すなわち結論を探してはいけない。
考えろ。
疑え。
思い出せ。
信じろ。
もっと思考を、もっと論理を。
信念に頼るな。自分を思い出して「絶対にできること」だけで構造を作れ。
自分の決心を信じるな。自分の行動のみを根拠にしろ。
考えろ。
脳内温度を下げるな。
もっと熱量を!
考えれば考えるほどアイデアが沸いてきた。
深夜、ノートに向かいながら僕は愉快でしかたなかった。
自分で書いた文字に、単語に、文章に自分で惚れることができる。
論理は、とてつもない長い旅を終えた論理は、最後にやっと感情にたどり着いた。
できる。
やれる。
やりたい!
僕はこの仕事がやりたい!!
こんな楽しいのはいったい何年ぶりだろう。
いつの間にか僕は、声を出して笑いながらノートを書いていた。
今日はここまで。
そう。すべてはFREEの世界へ向かっているんだ。
オタキングex、あと六日ではじまります。
今日のBGMは「アンパンマンマーチ」だよ。
10. 世界でいちばんFREEな男
準備はできた。
いよいよ話をはじめよう。
2010年2月19日、新宿ロフトプラスワンの「岡田斗司夫のひとり夜話 第六回」会場。
この夜来てくれた人たちはみんな僕の「ファン」だ。わざわざ金曜の夜に、ちょっぴりおっかない新宿・歌舞伎町の地下2階まで2000円のチケットをローソンで予約して来てくれている。
サラリーマン風の人、フリーターっぽい、あるいはアーティストっぽい人。お母さんっぽい年配の女性や、女子大生風の人も数人。あきらかに僕より年配の「人生の達人」っぽい人までいる。
最初は会場アンケートを話したり、ドラゴンボールの話でお茶を濁したりした。
なかなか話し始める勇気が出ない。
だって、自分のファンに「狂った」話をしなくちゃいけないんだよ。
怖くて当たり前じゃないか。
その場でtwitterされて、あっというまにいろんなところで笑いものにされるに決まってる。
でも、もう逃げられないんだよな。僕の人生も、これからの仕事も、次回から「ひとり夜話」をどうするかという枝葉末節まですべてこれからの話にかかっている。
壇上のウーロン茶を飲んだ。
いつもの儀式をやってみよう。
深呼吸して、小さな声に出してつぶやく。
「大丈夫、みんな僕のことを好きだから。僕の話を聞きたいと来てくれた人たちだから、怖がらなくて大丈夫」
可笑しいだろう?僕は大学の講義の前ですら、この儀式をやっているんだよ。
自分の子供よりも年下の人に話しかける時でも怖くてたまらない。
無視されたらどうしよう。
目の前で携帯メールとかされたらどうしよう?
だから声に出して言うんだ。
「みんな、僕のことが好きだよ。大丈夫」って自分に言い聞かせる。
よし、大丈夫。
Go!
満席の観客に向かって、僕は「あなたの物語」を語りはじめた。
僕の話じゃない。客席に座っている人や、「いつか、ひとり夜話に行きたいな」と思ってくれている人の話だ。
400通以上のメール「私はこんな人です」という自己紹介メールで、僕はいろんなことを教わった。
仕事も立場も年齢も性別も、住んでる国まで予想もしないほど多彩多様な人たち。
岡田斗司夫をどこで知りましたか?・・・回答「マンガ夜話」「アニメ夜話」「GyaOジョッキー」「朝生」「しゃべり場」「いつデブ」「オタク学」「ナディア」「DAICON」。
いろんなキッカケで僕を知ってくれていた。
キッカケや間口は広くても、いずれブログにたどり着き、このイベントに集まってくれている。
「昔、ちょっとだけ岡田さんにハマりかけました」「でもずっと遠ざかっていて・・・」「正直、岡田さんのことが嫌いな時期の方が長かったかもしれません」
共通した特徴?みんな理屈っぽい、または理屈が好き、というぐらいかな?
僕の語る面倒な論法、たとえば倒置とか演繹とか類推とか外挿とか、ありとあらゆる「理屈っぽいけど楽しい話」を心から愉快そうに聞いてくれる。
メールを紹介し、僕は「君たちと仲間になりたい」と話しかけた。
そう、僕は彼らと、あなたと仲間になりたいんだ。
いっしょに「仕事」して、同じ目標を見ながら進む生涯の仲間に。
多くのメールを見て思ったよ。
みんな「こういう話」ができる仲間を探している。僕の話をずっと聞きたいと言ってくれる。だったら「お客さん」じゃなくて仲間になろう。
なんだかね、僕は「責任」を感じちゃったんだ。余計なお世話と言われるかもだけど、客席やその向こうにいる人たちの「面倒を見なきゃいけない」って思った。
よし、わかった。
希望者はみんな、我が社の社員にしよう。
僕はそう宣言した。
「ただし、普通の会社とは違う。この会社は『社員が社長に給料を払う』んだ」
全員が息を呑む。
ここだ。ここがオセロ盤の角地。すべてのコマが黒から白にひっくり返る勘所。
貨幣経済社会から評価経済社会への転換点。
世界は、ここから変わる。
ノート術やトーク術を知りたい、教えて欲しいという人もいる。
でも、教えることができても、たぶん使いこなせるのは10%以下だ。
それよりいっしょに仕事しようよ。仕事の中でノート使ったら、ずっと「わかる」よ。いっしょに仕事したら企画術でも発想法でも論理的な見方でもブログの書き方でも文章法でも、なんでも僕の知ってることは教えられる。
いや、教えるどころじゃない。「ちゃんと身につけないと仕事が成功しない」から、僕も教わる方も必死になる。
イベントやセミナーの一回きりの関係じゃないから、ずっと近くで成長やつまづきを見ていられる。
これなら成功率は10%じゃないだろう。悪くても30%〜50%はいくはずだ。
でも、せっかくだから「それ以上」を目指そうよ。たとえば「ノート術」だったら、いっしょにノート術を実践して、欠点や改良点もいっしょに探そう。で、それを原稿に書いて、ブログで無料で公開しよう。
「ひとり夜話」もいっしょに作ろう。ディズニーランドは、遊びに行くのは楽しいけど、あそこで働いてゲストに喜んで貰うのはもっと楽しいよ。「ひとり夜話」が面白いなら、いっしょに作る側にまわろう。映像記録を撮影して、世界中に無料で配信しよう。
こんな「仕事」をいっしょにしよう。
オタキングexというのがその会社名。exとはエキスパンド、すなわち「拡張版」のことだ。
会社であり、学校であり、家族である組織。
仕事をするから会社。教えるから学校。仲間だから家族。
ただの会社のように「イヤな仕事をする場所」「早く帰りたい場所」じゃない。
ただの学校のように「意味や興味のないことを詰め込まれる場所」でもない。
ただの家族のように「自分のことを相談できず、すぐに自室に引きこもりたいような場所」でもない。
仕事をしたら仲間から感謝される。しなくても責められない。
勉強すればその成果を活かせる。でも遊んでるだけでもかまわない。
単に仲良くするだけでもいい。でも本音でいつも語り合える。
この会社は利益をあげなくていい。創り出すコンテンツはすべて、基本的に世界に向かって無料で配給する。
給料は一年間で12万円。これを一括か分割で支払ってもらう。
その12万を投資するメリットは?
いっしょに働ける。世界に奉仕できる。たったそれだけだ。
これに納得できる人。それだけが入社の条件だ。
じゃあその12万はどこに行くのか?
僕の生活費と活動費になる。僕は今後、社員からの給料以外は外部からの仕事をできるだけ無料で引き受けようと思う。
もちろん、社員数が少ないうちはやっぱりギャラや原稿料を貰うしかない。でも、目指すべきは「岡田斗司夫のギャラや印税はゼロ」、つまり岡田斗司夫のFREE化だ。
つまり、僕は世界でもっとも「安い」男になるんだ。(笑)
それが僕の望みだ。「世界でもっともFREEな男」。
そして僕がいっしょに働きたい仲間は「年に12万円払ってでも、世界のために働きたい人」なんだ。
え?社員が1000人とか越えて、僕の月収が1000万を超えたらどうするか?
そんなの心配しなくてもあり得ないと思う。
だけど、大丈夫だよ。
僕がちゃんと、社員みんなが「さすが社長、カッコいい!僕らの自慢ですよ!」って思うような使いっぷりをみせてあげる。もし、くだらない使い方や社員から評価されないような使い方したら、翌年から社員は激減するだろう。
そうしたら、もう僕には何も残らない。
だって全部、FREEでばらまいちゃった後だからね。
だから、僕は何億円集まろうとみんなが胸を張って「カッコいい!」と思える使い方しかやっちゃいけないんだ。
質問コーナーに入った。
いくつかの質問が客席から出る。
「年間12万円払えるような余裕のある人じゃないと社員になれないんですか?」
うん、そうだよ。言い方は悪いかも知れないけど、自分に余裕がなければ人のためには動けない。もしいま、経済的に余裕がないなら、我が社のコンテンツを無料で楽しむだけでいい。いずれ余裕が出たらいつでも言ってね。我が社は誰も拒否しないから。
「これって宗教じゃないんですか?岡田さんが教祖でお布施を支払って、という」
宗教みたいな「良いもの」じゃないよ。我が社が目指すのは、世界征服だもの。
我が社の目的は「貨幣経済社会の転覆」なんだよ。社員は年間12万も払って、ボランティアで世界征服しようという面白結社なんだ。
電脳ネットにより貨幣経済社会は急速に地盤液状化を起こしている。そして次に来るのは評価経済社会だ。この社会変革、パラダイムシフトの時期こそ、人々にとっては変化の苦痛がもっとも大きい時代だ。
この苦痛を緩和することこそ、我が社の目的。だから我が社は経済的な利益をいっさい追求しない。評価的な利益、すなわち「世界に感謝されることだけ」を追求する会社なんだ。
ボランティアで世界征服だよ。
どう?カッコ良く狂ってるだろう?
「私は公務員やってるので、兼業は禁止されてます」
じゃあ会社だと思わずに学校だと思えばいい。年間12万円の「定額制ビジネス学びたい放題プラン」だと言えばいいよ。領収書はちゃんと「研修費」で出すから安心しなよ。
「なぜ社員が給料を払うのですか?」
なぜ・・・。う〜ん、実は普通の会社も「社員が会社に支払っている」んだけどね。たとえば年収300万の社員がいるとしよう。会社が彼を雇用しているからには、年間700万程度の利益があるはずだ。でないと会社に利益が残るはずないからね。つまり普通の会社も視点を変えると「社員は会社に年 400万支払っている」とも言えるんだよ。
あとね、僕たちがはじめるこのシステムは世界初だけど、成功すると世界中で模倣者がでてくるよ。だってこのシステム、無限に応用が効くもの。
ミュージシャンはコンサートを、これまでの5倍の料金で開けばいい。お金を払った人は前列で、後ろの席はすべて無料で開放する。そうすればお金がない人もコンサートが聴ける。コンサート後はその音源を無料で配信すればいい。で、打ち上げパーティーはお金を払った人とミュージシャンがお近づきになる場にすればいい。これ、落語でも演劇でもすべてのステージで応用可能なシステムでしょ?
今のは単なるFREE化だけど、オタキングexはその先に進んでいる。無料から利益なんか生まなくてもいい。評価だけ得られればいいんだ。
異論はあるだろうけど、この発想の転換によって広がる可能性に着目して欲しい。
「なぜ年間12万なんですか?もっと安くてもいいんじゃないですか?」
言い方は悪いかも知れないけど、これ「互いを信じるための値段」なんだよ。僕は入社してくれた人は全部、自分の家族だと思う。仲間だと信じる。だからこそ、ハードルはあげておきたい。これだけ払ったら、人は礼儀正しく誠意ある態度で振る舞うよ。だって、安かったら別に辞めても惜しくないから、いくらでもヤケクソにもなれるし誠意のない振る舞いもできる。
ここまでの説明で入社を考えられる奴というのは、絶対に「頭が切れる」か「底抜けに善良」か、またはその両方だ。そういう人たちと仲間になりたいから。
ここまで説明したら、イベントの終了時間が来た。
最後の質問だ。
「岡田さんの目的は、なんですか?この会社でなにをしたいんですか?」
僕の答えは決まっている。
「人類の苦痛の0.3%を軽減する。それがこの会社の唯一の目的です」
「どうやって?岡田さんの著作や『ひとり夜話』を無料で公開することが、なぜ人類全体に関係してくるんですか?」
この質問には答えられる。でも、もう時間がない。
「とりあえず来週の日曜、社員説明会をします。今の質問にはその場で答えます。参加希望者は僕あてに『御社に興味があります』という題名のメールを送ってください」
僕は説明し、これでイベントを終わろうとして、ふとイタズラ心が沸いた。
非常識かな?
いや、やりたい!
「すいません、あの、みんな目をつぶってください。全員、目をつぶってください!」
僕は呼びかけた。数人が意図に気づき、笑い出した。
つられて全員が笑う。
「いいじゃん。お願いだから目をつぶって!」
やがてイベント会場の全員が目をつぶった。両目をしっかり閉じてクスクス笑う。まるで修学旅行の小学生みたいだ。
小学生のような、150人の観客。
そう、いまはまだ観客。だけど、ひょっとして生涯の仲間になるかもしれない人たち。
「ぶっちゃけの話、ここまでの説明で『入社してもいい』と思う人、目をつぶったまま手を挙げて!・・・はい、わかりました。じゃあ『絶対に入社はあり得ない!』と思う人、手を挙げて!」
イベントはここで終了した。
楽屋に帰ると知人の編集者が「ここからは見えなかったんです!いったい何人が手を挙げたんですか?」と勢いこんだ。
「ふふふのふ。それはヒ・ミ・ツ」
ふしぎな気持ちで中央線に乗り、吉祥寺へ向かった。
手を挙げた人数、いったいあれは多かったのか、少なかったのか。
どう解釈すればいいんだろう?
考えながら車内でメールチェックする。
「入社します」というタイトル。
なんだ?やけに気の早い奴だな。
「岡田さん、いえ社長!!
はじめてメール差し上げます。
ひとり夜話vol.6にて、御社の社員募集に
ついての構想を伺いました。
ぜひとも入社を希望致します。
本職といいますか、昼間の仕事では
フリーランスのプログラマをしています。
もしクレジットカードの月額課金について
既に心当りのシステムなどがないよう
でしたら、私は構築の経験は
ありますのでご相談ください。
取り急ぎ要件のみにて失礼致します。
○○淳也」
すごい!
こいつ、もう決心してる!
しかも、かなり優秀そうじゃないか?
あれ、ひょっとしてひょっとしたら・・・
いけるんじゃないか・・・
今日はここまで。
そう。すべてはFREEの世界へ向かっているんだ。
オタキングex、あと四日ではじまります。
今日のBGMはABBAの「Chiquitita(チキチータ)」だよ。

