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2010年09月16日

2010年9月掲載・毎日新聞「異論反論」 ハーバード白熱教室

「ハーバード白熱教室」の人気をどう見る

「ハーバード白熱教室」はNHK教育で放送され、日本でも大評判になり、ついにこの夏、サンデル教授は来日した。
特別講義には数万円のプレミアまでつく騒ぎになった。

サンデル教授の正義論はどこが日本人にアピールしたのか?
日本人にとって「正義」よりも子供に教えたい大事なことは「優しさ」や「思いやり」だ。これに対して「合理性」を重んじる考えを「大人の判断」と呼んだりもする。

優しさvs合理思考。
この二つの対立に日本人は悩んだり、合致点を見つけてほっとする。「正義」はどこにもない。正義とは、子供番組のお約束程度であり、大人になってまで語るようなものではないのだ。
ところが、「ハーバード白熱教室」では、正義とはなにかを大人が大まじめに議論している。
”優しさ・合理思考”のxy二軸しか発想になかった日本人に、”正義”というz軸が与えられると議論がこんなに面白くなるとは!

この一件で「なぜ日本の大学ではこういう講義がないのか?」とか「やはりハーバードは凄い」という人もいるけど、それは違う。
正義を語るのは子供っぽい。
たしかに日本人はそう考えている。未熟なことだ。でもハーバード大のあるアメリカでも同様の未熟さはある。

アメリカでは「マンガやアニメは子供の見るもの」だ。
だから日本のマンガ・アニメはなかなか翻訳出版されない。大人の悩みや社会問題まで扱ったマンガ・アニメはアメリカでは「子供向けではない」という理由だけで、一般の目から遠ざけられているのだ。

正義を語るのは子供っぽい→大人が正義を語る土壌がない未熟な日本。
マンガやアニメを見るのは子供だけ→ジャンルで内容を決めつける未熟なアメリカ。

だからこそ、日本製マンガやアニメはアメリカにはない「独自コンテンツ」として世界市場で優位に立っている。
中学校や高校でマンガやアニメ好きの生徒を激しく差別する文化からは、日本のようなコンテンツは生まれにくい。
逆に、大人が正義を語る習慣のない日本では「ハーバード白熱教室」のようなコンテンツが無く、ほぼ言論市場を独占されている。
ビジネスマンはやたらロジカルシンキングを信奉するけど、こんな落とし穴があったんだよね。

日本とアメリカ、両文化のそれぞれ未熟さが、相手側のコンテンツ大ヒットという要因になった。
以上が「ハーバード白熱教室」大ヒットから見える構図である。

おかだ・としお 評論家。1958年生まれ。ダイエットから現代社会まで何でも語る。
10月初旬に筑摩書房より最新刊「遺言」が発売。コンテンツ作りのテーマからリーダー論まで語り尽くした労作です。
twitterは@ToshioOkada、
公式サイトはhttp://otaking-ex.jp/

追記:
この原稿の文字量では、「ハーバード白熱教室」の面白さやヒットの要因、その意味するところまで語りきれませんでした。
9月12日(日)に生放送したUSTの「ひとり夜話」でかなり詳細に語っています。興味がある人はノーカット版の映像をこちらからどうぞ。




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