「45才息子と子離れできない妻」 朝日新聞 平成22年11月6日(土)
○相談者 73才男性
いつもこの欄を楽しく拝見しています。
私たち夫婦は、私が73歳、妻が6歳下で、年金生活をしていますが、さいわい2人とも健在です。私たちには3人の子どもがいて、娘2人は嫁いでそれなりの生活はしているのですが、長男が45歳の独身で、私たちには悩みのタネです。
特段、社会的問題を起こしているわけでもないけれど、今の社会情勢もあって、生活面を含めて自立できずにいる状態です。原因のひとつに、妻と長男の間で「子離れ・親離れ」が完全にできていないことがある、と思っています。長男のほうから援助の申し込みがあるわけでもなく、妻がいつも先回りして援助するので甘えている面もあります。
時折妻に対して「いい加減、子離れするように」と口にするのですが、そうすると、「長男を見捨てるのか、あなたは冷たい」と泣きが入ります。私は長男に対しては強く物が言えても、妻の泣き顔にはからっきし弱いのです。
本来なら長男が私たちの面倒を見てもおかしくないというのに、今はまったくの逆です。自分の身を削ってでも長男の援助をしようという妻の、ある意味「誤った母性愛」と、それを矯正できない自分自身が情けない気持ちです。
「夫婦は他人、子どもは肉親」の言葉が頭をよぎります。なにか良い方法を教えて下さい。
○回答者 岡田斗司夫
回答者の僕は、あなたの息子と年が近いんですよね。なので「息子の気持ち」になって、手紙を書いてみました。
お父さん、僕はいま少しだけキモチワルイです。自分とお父さんとお母さんの関係、その先のことを考えたら、いつもなぜかキモチワルくなってしまうのです。
お父さんもご存じの通り、僕はお母さんにお金をもらっています。別に僕が「くれ」というのではなく、お母さんが「あげる」というので、甘えるというか半分親孝行みたいなつもりでもらっています。
他人は「大のオトナが情けない」と言うかも知れません。でも僕だって仕事に恵まれてたら、ちゃんと結婚して、子どもだって作っていると思う。お父さんに仕送りもしてるに違いない。
でも、それが上手くいかないから、いまだに両親の家に一緒に住んでるんです。現在の不況やいろんな情況は、お母さんから聞いてくれてるとは思います。だから僕もお金を受け取るのを断りはしないのですが、それでもなにかキモチワルイ感じが心の隅に残っています。
お母さんは「いい加減に一人暮らししなさい!」と家から追い出したりしません。きっとお母さんは僕のことが好きだからだと思います。ということは「母の愛」とはキモチワルイものなのでしょうか?
お父さんはしょっちゅうお母さんとケンカして、いつも最後はお母さんが泣いて、お父さんが謝って、そしてお母さんは僕にお金をくれます。お父さんはきっと、僕のことが好きじゃないんですよね?
お母さんからお金を受け取る僕は、いつもヘンな気分になります。もうずっとこんな気分が何十年も前から続いています。
お母さんの愛情は、これからいつまで続くのでしょうか?言い方は悪いけど、お母さんは僕よりきっと先に死にます。そしたら僕はどうやって生きていけば良いんでしょうか?
とりあえず、いまそんなことを考えないようにしています。この家に住んで、お母さんからお金をもらうのは便利です。便利だからやめられません。
でもキモチワルイんです。お父さん、たすけて。
僕はいったいどうすればいいと思いますか?