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2010年04月28日

2010年4月掲載・毎日新聞「異論反論」 読んでいない本は不良債権

本が好きだ。本に囲まれた生活こそ理想と思ってい た。でもそれは幻になりつつある。

HDレコーダーという家電がある。内蔵HDにテレビ番組を何百時間も録画できる便利な機械だ。
買った人はみんな「タダだからバンバン録画してる」と語る。
「でも、見る時間がないんだ」
だから若い人はドラマを倍速再生で見る。倍速でもちゃんとセリフや音楽が聞きとれる機種が売れている。

考えてみると本も同じだ。買ったら終わりでなく、読む時間が必要。読書する時間をみんな苦労して工面している。

速読が流行っているのは、倍速再生と同じ理由 なんだ。
時 間がないしお金も惜しい。だからリスクのある本=「感動が100%約束されない本」は売れない。
ベストセラー本は誕生するけど、出版全体が不況なのは当然 だろう。

言いにくいけど、あえて言い切ってしまおう。
本を買っても、それはいわば頭金を払っただけ。「自分の時間」という最も高価なローンの支払いは済んでない。
本 棚に並んでいる未読の蔵書は財産ではない。
「読書時間という未払いが残ってる負債」だ。「この本まだ読んでない」という後ろめたさ自体も負債なのだ。
妻や家族が「まだ読んでない本がこんなにある のに、また買ってきたの?」と呆れるのは当たり前なんだ。

問題はまだある。HDレコーダー内の録画データは体積ゼロ。でも本は違う。
日本の土地代は世界 最高水準だから本を置く場所=家賃だってバカにならない。
集めれば部屋が狭くなる。集めすぎると床が抜ける。
私も蔵書用に借りたアパートの階下から「天井 が垂れてきた」と怒られたことがある。

本は買う瞬間がもっとも読書モチベーションが高い。それを逃すと、どんどん読む気が減少する。
不況で出版社は次々と新刊を出して 生き残りを図る。だからある本を読みそびれて数ヶ月もすると新版が出る。
買ったけど読んでない本は「時代遅れの本」になってしまうのだ。だからブックオフ でも買い叩かれる。

「読んでない本は不良債権」という時代。
いま本を買う人は、この負債を背負う覚悟のある、よっぽど読書が好きな人だけになってしまった。
昔は本を買う人はもっといっぱいいた。「頭を 良く見せたい人」だ。そんな人はネットをやる。小利口になるだけならネットで充分だからだ。

私は本が好きだ。読書が私という人間を作っ た。
本には他に代え難い魅力がある。人間を変える力があると信じる。
でも出版不況の理由は、はっきりしている。「本当に本が好きな人以外は、誰もこんな面倒なもの に手を出さなくなった」からだ。

以上、本好きには不快な話だったかもしれない。
読書で気分転換をお勧めする。少しでも負債を減らしてみよう。

(2010/04/28 毎日新聞掲載)






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